水産業への被害は今月4日時点で17億円余りと、今の基準で記録を取り始めた平成25年度以降の台風で最も大きくなっているということです。
養殖が盛んな鋸南町では、県に報告した時点で被害額はおよそ2億9000万円となっています。
町内にある勝山漁協では、漁船などが沈没したり定置網が壊れたりしたほか、マダイやシマアジの養殖では23トンのマダイが生けすで死んだことが確認されています。
漁協によりますと、生き残っているマダイにも網やマダイどうしがぶつかるなどして傷ついたり、目が白くなる症状が出ていたりしていて、その後、死んだり出荷できなかったりするおそれがあるということです。
漁協によりますと、今後、新たに養殖の稚魚を育てたり、施設や船などの復旧に多額の費用や時間がかかったりして、被害総額は少なくとも4億円以上になる見込みで、被害はさらに広がるおそれが出てきていますが、全体の被害状況が把握できず、町などに報告できていないということです。
鋸南町勝山漁協の平島孝一郎組合長は「被害額の全容を報告できない状況です。今までこういうことがなかったので、今後どうするのか悩んでいます。皆さんの協力のもとでやらざるをえない。災害での被害なので前向きに県も国も支援を検討してほしい」と話していました。
400キロのおもりが10m移動 潜水取材班が見たものは…
千葉県鋸南町に2つある漁協のうち勝山漁協では8m四方の生けす22基を設置していて、稚魚からおよそ2年半をかけて養殖しています。
生けすでは、稚魚を含めた20万匹以上のマダイやシマアジの養殖を行っていて、多い時で2億円以上の売り上げがあったということです。
しかし、台風15号の影響で出荷前のマダイが大量に死んでしまいました。漁協によりますとこれまでに、およそ1万匹、23トンのマダイが死んだことが確認されていて、被害額は3000万円近くに上っているということです。
また、陸上にある施設でも停電の影響でポンプがとまり、出荷前のシマアジなどが死んでいて風で壊れた窓や屋根はそのままの状態になっています。
NHKの潜水取材班が今月1日に、生けす周辺の水中の様子を確認したところ、海は濁って見通しが悪く、生けすのすぐ下に引きずられたようなおもりを見つけました。
生けすはおよそ400キロのおもりをつけた複数のロープで支えられていますが、一部のおもりが、設置場所から10m以上ずれていたということです。
死んだマダイは魚体のうろこがとれていて、漁協によりますと、おもりがずれて支えを失った生けすが波に強く揺さぶられたことでマダイが網にぶつかったり、驚いたマダイどうしがぶつかったりして死んだ可能性があるということです。
また、生けすの中にはマダイが泳ぎ回っていましたが、全身に傷があるマダイが多く見られました。さらに目が白くなったマダイも多く、漁協によりますと網やマダイの硬いひれなどに目がこすれて傷がついてしまいこうした症状がおきるということです。目が白くなったマダイは症状が進むと、死んでしまうということで、この日、水揚げされたマダイの中にも両目が白くなり、出荷できない状態のものが多く見られました。
生けすから水揚げをしたマダイを選別した結果、半数も出荷できない状態で、出荷の価格が大幅に下がってしまうということです。
生けすを管理する黒川剛さんは、「2年半かけて一生懸命育てていたのにほんとうにショックです。今、魚をあげている生けすだけがこのような状況なのか、それとも他の生けすも同じなのかはわからない」と話していました。
およそ20隻が沈没「ことしはまともな漁はできない」
台風の影響でいまも漁を再開できない漁業者もいます。鋸南町の勝山漁協では沖合に定置網を2つ設置して、サワラやタチウオなどを出荷し、ことしも3億円以上の売り上げを見込んでいました。
しかし、台風の影響で長さ400m、幅60mの定置網が切れたり一部が流されたりして、1つの定置網では漁をすることができないままになっていました。
流された網はロボットカメラを使用して海底を捜索する予定ですが、潮に流され、回収できない可能性もあり新たに網を購入する場合には、数千万円の高額な費用がかかるということです。
先月30日には、予備の網を設置する作業がはじまり、今月4日には2つの定置網でようやく水揚げが再開しました。
作業にあたった広瀬正幸さんは「毎日潮が速かったので、失った網はもうないものとして考えていますが、かなりの痛手です。みんな家も被災して、休むこともできないが何もせずに待っているわけにもいきません」と話していました。
また、勝山漁協では港にあった漁船などおよそ20隻が沈没するなどの被害が出ていて、いまも漁に出ることができない人も多いということです。
1か月以上キンメダイ漁にでることができないという小早川正治さんは「固定していた船が倒れるとは思わなかった。ようやく魚がとれる時期になったのにことしはもうまともな漁はできない」と話していました。