アメリカのトランプ大統領の就任をきっかけに、停戦に向けた外交が活発化していますが、ロシアと歩調を合わせるような動きを見せるアメリカと、ウクライナやヨーロッパとの間で立場の隔たりが表面化し、停戦が実現する見通しはたっていません。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部・南部の4州の掌握を目指して犠牲や損失をいとわない形で大量の兵力を投入し攻勢を強めてきました。
これに対してウクライナ軍は、欧米側の軍事支援も得ながら防衛を続ける一方で、去年8月にはロシア西部クルスク州への越境攻撃に踏み切りました。
全体としては戦況はこう着しています。
双方の犠牲が拡大するなか、アメリカで先月、侵攻の早期終結を掲げるトランプ大統領が就任したことをきっかけに停戦に向けた外交が活発化しています。
ただ、今月18日、ウクライナやヨーロッパ側が出席しない形で米ロの高官による会合が開かれたほか、トランプ大統領は、ゼレンスキー大統領を「選挙なき独裁者」と呼ぶなど批判を繰り返しています。
ロシアと歩調を合わせるようなこうした動きに対してウクライナは警戒を強めていて、24日にはヨーロッパ各国の首脳などを首都キーウに招いてウクライナが求める公正な平和を実現すべきだと結束を確認する見通しです。
これまで連携してロシアと対じしてきたアメリカとウクライナやヨーロッパとの間で立場の隔たりが表面化し、停戦が実現する見通しはたっていません。
キーウ 松尾寛記者
Q.キーウで取材する松尾記者の報告です。ウクライナの人たちはどのような思いで侵攻3年を迎えているのでしょうか。
A.将来への「不安」だけでなく「怒り」や「失望」といった感情が入り混じっています。トランプ大統領の就任で停戦に向けた前向きな流れができると期待する市民もいましたが、現状はそうはなっていないからです。トランプ大統領はロシア寄りの発言を繰り返すだけでなくゼレンスキー大統領への批判も強めています。侵略された側がなぜそこまで言われなければならないのか。その反発がゼレンスキー大統領のもとでの国民の結束をより強めていると感じます。ただ、ウクライナ政府にとってトランプ政権の支援は不可欠で自国の鉱物資源もテコに関係を前に進めたい考えです。ウクライナは、停戦を目指してロシアとの交渉に臨む前に、まずはアメリカとの関係を調整しなければらないという難しい課題に直面しています。
モスクワ支局 渡辺信記者
Q.モスクワ支局の渡辺信記者に聞きます。いまのロシア社会はどんな雰囲気でしょうか?
A.アメリカのトランプ大統領の登場で、停戦に向けた交渉開始への機運が高まったとして、ロシアの人たちは、心の底では大いに歓迎していると感じます。ロシアでは軍事侵攻で多くの死傷者が出ている現状に恐怖や疑問を抱いても、反対の声をあげられないため、トランプ大統領ならば現状を打開してくれると、希望を託しているとも言えそうです。米ロの高官会合を伝えた時のロシアメディアの高揚感も、そうした期待の裏返しのようでした。ただ、その後、トランプ大統領がウクライナに対し鉱物資源の権益をめぐって取り引きを迫る姿から「強欲なアメリカの本質は変わっていない」といった意見も聞かれます。
Q.今後、停戦交渉が焦点となってきますが、ロシアのプーチン政権はどう出てくるのでしょうか。
A.あるモスクワの西側外交筋は「ロシアは戦争継続の能力を失っておらず、時間はロシアに味方する」と指摘しました。プーチン政権はアメリカとウクライナの関係がぎくしゃくしているのを横目に、いまもウクライナ東部などで地上戦を続けています。そして、ウクライナに占領地があることを踏まえ、強気の立場で停戦交渉に向けて、自分たちの要求を最大限に認めさせるため、外交攻勢を強めるとみられます。
トランプ政権の対ロ 対ウクライナ政策は
早期終結に強い意欲 レガシーねらいか
アメリカのトランプ大統領は大統領選挙の期間中からロシアによるウクライナへの軍事侵攻について早期の終結に強い意欲を示してきました。
トランプ大統領は2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合したことや、3年前のウクライナへの侵攻について「自分が大統領だったら起きなかっただろう」と繰り返し主張し、オバマ元大統領やバイデン前大統領を批判してきました。
困難とみられてきた停戦への道筋をつけることで公約を守る姿勢を国内の支持者にアピールするとともにバイデン前大統領にはできなかったことを実現し、政治家としての遺産=レガシーを残したいねらいがあるとみられます。
ウクライナ支援には消極的 見返り期待も
また、ウクライナへの軍事支援には消極的な姿勢を示していて、戦闘を終結に向かわせることでアメリカの負担を減らすとともに、限られた軍事的な資源を対ロシアからインド太平洋地域に向けて最大のライバルの中国に対抗していきたい思惑があるとみられます。
一方、トランプ大統領はウクライナへの支援の見返りとして、ウクライナ国内の鉱物資源、レアアースなどの権益を確保したい考えも示し、ウクライナ側との合意を目指していて「ディール」によって仲介者としてだけでなく、「実利」を得たい思惑もうかがえます。
就任直後から外交を活発化 侵攻後初の外相会談も
こうしたことを背景にトランプ大統領は2期目の就任直後からウクライナでの停戦に向けて外交的な動きを活発化させています。
今月12日には、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、戦闘の終結に向けて交渉を始めることで合意したと発表。また、今月にはバンス副大統領やルビオ国務長官、それにヘグセス国防長官や安全保障政策を担当するウォルツ大統領補佐官などを相次いでヨーロッパや中東に派遣し、関係国との協議にあたらせました。
このうちルビオ長官らは今月18日にサウジアラビアでロシアのラブロフ外相らと協議し停戦の実現に向けて双方が新たに高官級の交渉チームを設けることで合意しました。
3年前にロシアがウクライナに侵攻して以降、アメリカとロシアの外相が正式に会談したのは初めてでした。
和平合意の枠組みは3段階
アメリカの一部メディアは、アメリカとロシア両国の高官が3段階からなる和平合意の枠組みを検討していると伝え、枠組みは
▼戦闘の停止
▼ウクライナの選挙
▼そして最終的な合意の署名という3つの段階からなるとしています。
また、別のアメリカのメディアはトランプ政権側がヨーロッパの当局者に対し、ウクライナの停戦をキリストの復活を祝う復活祭にあたる4月20日までに実現したいという意向を伝えていたとも報じています。
ゼレンスキー大統領を批判 “選挙なき独裁者”
一方で、トランプ政権がロシアとの協議を進める中、ウクライナやヨーロッパは自分たちの頭越しに物事が進んでいくことに警戒を強めています。
さらに、トランプ大統領は19日、ゼレンスキー大統領について「選挙なき独裁者」と批判するなど、ロシアとの関係修復を優先しているともとれる姿勢を見せています。
トランプ大統領としては、プーチン大統領との対面での会談の実現に意欲を示し、トップ外交で事態の打開を図りたい考えとみられますが、ウクライナやヨーロッパの同盟国との溝が深まっていて、トランプ大統領の思惑どおりに進むのか、見通せない状況となっています。
3年間の犠牲者 避難者 戦死者数は
ウクライナでの市民の犠牲 1万2000人余
OHCHR=国連人権高等弁務官事務所の今月21日の発表によりますと、軍事侵攻が始まった3年前の2月24日からこれまでにウクライナでは少なくとも1万2654人の市民が空爆や砲撃などによって死亡したとしています。
このうち673人は18歳未満の子どもだということです。
また、ケガをした人は少なくとも2万9392人に上るとしています。
ただ、激しい戦闘が行われている地域では、正確な被害の実態は把握できていないとしていて、実際の死傷者はさらに上回るとしています。
また、ロシア軍の攻撃で▼医療機関は790の施設が▼教育関連では1670の施設が少なくとも破壊・損傷したとしています。
ウクライナ 全人口の約4分の1が避難
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、ウクライナでは、侵攻開始前の人口のおよそ4分の1にあたる1060万人が住む家を追われているということです。
このうち国外に避難している人は今月19日の時点で690万人あまりで、9割以上はヨーロッパに逃れています。
また、IOM=国際移住機関によりますとウクライナ国内に避難している人は去年(2024年)12月の時点で366万人あまりです。
さらに、出入国在留管理庁によりますと先月末時点でウクライナから日本に避難している人は1982人となっています。
ウクライナ軍は4万人余 ロシア軍は9万人余が死亡
戦闘の長期化に伴い双方の軍の損失も拡大しているとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今月16日のアメリカNBCテレビのインタビューで、ウクライナ軍の死者はこれまでに4万6000人にのぼると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は去年2月、3万1000人のウクライナ兵が死亡したことを明らかにしていてこの1年間で、1万5000人が死亡したことになります。
また、けがをした兵士はおよそ38万人だとした上で、行方がわからなくなっている兵士も数万人いるとの見方を示しました。
一方、ロシア軍の死者について、ロシアの独立系メディアの「メディアゾナ」とイギリスの公共放送BBCは、今月14日までに確認されただけで9万3000人あまりにのぼるとしています。
ロシア軍 23日も無人機で攻撃 “これまでで最多”
ロシアによる軍事侵攻が始まって3年となるのを前にした22日から23日にかけても、ウクライナではロシア軍による攻撃がありました。
ウクライナ空軍は、22日夜から23日朝までの間に行われたロシア軍の攻撃で無人機267機が使われたと発表し、南部オデーサ州の当局は無人機による攻撃で3人がけがをしたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は23日、SNSへの投稿で「戦争開始から3年となるのを前に、ロシア軍はこれまでで最も多くの無人機による攻撃を行った」と非難しました。
ウクライナ侵攻3年 これまでの戦況は
【2022年】ロシア軍侵攻始まる ウクライナ軍が抵抗
ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まったのは、3年前の2022年2月24日。
プーチン大統領は、ウクライナ東部のロシア系住民の保護やウクライナの「非軍事化」「中立化」を掲げて「特別軍事作戦」を行うと宣言しました。
ロシア軍は当初、北部、東部、南部から部隊を進め、侵攻開始から2週間後には首都キーウの中心部からおよそ15キロまで迫りました。
これに対し、ウクライナ軍は、欧米から供与された兵器で抵抗し、ロシア軍はキーウの早期掌握を断念。北部から撤収しました。
その後、ロシア軍は、東部に兵力を集中させ、ハルキウ州の集落を相次いで掌握しますが、この年の秋までには、ウクライナ軍はハルキウ州のほとんどを奪還しました。
【2023年】ウクライナ軍 反転攻勢も戦闘こう着
一進一退の攻防が続く中、2023年6月、ウクライナ軍は、領土奪還を目指し、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で「反転攻勢」を開始。
ドイツ製の戦車レオパルト2など欧米から供与された戦車や歩兵戦闘車を投入しました。
しかし、ロシア軍が支配地域に地雷原やざんごうなどを組み合わせた強固な防衛線を幾重にも築いたことで戦闘はこう着。
砲弾や兵力不足に悩まされたウクライナ軍の反転攻勢は成果を上げることはできませんでした。
【2024年】ウクライナ軍が越境攻撃 北朝鮮軍 派兵
ウクライナ軍の越境攻撃
反転攻勢の失敗が伝えられる中、ゼレンスキー大統領は2024年2月、ロシア軍の侵攻を食い止めてきたとされ、国民の間で人気が高かったザルジニー総司令官を解任。新しい総司令官に陸軍のシルスキー司令官を任命しました。
戦闘の長期化でウクライナ社会に閉塞感も漂う中、8月、ウクライナ軍は、ロシア西部クルスク州への越境攻撃に踏み切ります。
ロシアが他国の正規軍の侵入を許すのは、第2次世界大戦後、初めてです。
この越境攻撃について、ゼレンスキー大統領は、ロシアによる侵攻を終わらせるための計画の一部だと説明していて、今後の交渉を見すえ、ロシアが占領した地域と領土の交換を行いたいとの意向も示しています。
ウクライナ軍がクルスク州で掌握した面積は8月下旬の時点で東京23区のおよそ2倍、およそ1300平方キロメートルにのぼるとしています。
北朝鮮が派兵 クルスク州に投入
ウクライナ軍によるクルスク州への越境攻撃が続くなか、10月には北朝鮮がロシアに部隊を派遣したことが明らかになりました。
ゼレンスキー大統領は、派遣された北朝鮮の兵士はおよそ1万1000人だと明らかにしました。
北朝鮮の兵士は12月からクルスク州での戦闘に投入されていると見られていますが、言葉の壁を背景にしたロシア軍との連携不足も指摘され、これまでに3000人以上が死傷したと推計されています。
一方、この年、ウクライナ東部では、ロシア軍が攻勢を強めました。
10月、ロシア軍はドネツク州の要衝、ポクロウシクの南にあるブフレダルを掌握しました。
ウクライナのメディア「ミリタルヌイ」は、ウクライナはドネツク州やハルキウ州でロシア軍に相次いで集落を掌握され、2024年の1年間で日本の奈良県とほぼ同じ面積の3600平方キロメートル以上の領土を失ったと見られると伝えました。
ミサイル攻撃の応酬続く
ただ、ロシア軍は占領した地域と引き換えに、多大な人的損失を出していると見られていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍は2024年の1年間で42万人以上の死傷者を出したと分析しています。
このほか、11月には、ロシアとウクライナのミサイルを使った攻防が激しさを増しました。
ロシア国防省は、ウクライナと国境を接するロシア西部ブリャンスク州でアメリカ製の射程の長いミサイルATACMSによる攻撃を受けたと明らかにしました。
当時のアメリカのバイデン政権は戦闘の激化を恐れて、ATACMSをロシア領内への攻撃に使用することを許可してきませんでしたが、北朝鮮の参戦などを踏まえ、使用を許可したものと見られています。
これに対し、ロシアは、ミサイル攻撃の報復だとして、ウクライナ東部の工業都市ドニプロを核兵器も搭載できる新型の中距離弾道ミサイル「オレシュニク」で攻撃しました。
【2025年】ロシア軍が攻勢 ウクライナ軍は後退
2025年に入り、ロシア軍は、ウクライナ東部での攻勢を引き続き、強めていてウクライナ軍はじりじりと後退を余儀なくされています。
今月、ロシア国防省は、ドネツク州の都市コスチャンチニウカの南東にあるトレツクを掌握したと発表しました。
ロシア軍は今後、コスチャンチニウカやウクライナ軍の輸送拠点、ポクロウシクの掌握を狙うと見られています。
西側各国のウクライナ支援は総額42兆円余
この3年間、西側諸国はウクライナに対し支援を続けてきましたが、最大の支援国アメリカでトランプ政権が誕生したことで、支援の先行きに不透明感が漂っています。
ドイツの「キール世界経済研究所」は今月、各国がこれまで表明した去年12月末までの軍事支援や人道支援などの総額をまとめました。
それによりますと支援の総額は2670億ユーロ、日本円にして42兆円あまりだということです。
このうち
▼軍事支援は半分近くを占める49%の1300億ユーロ、およそ20兆5400億円
▼次に金融支援が44%の1180億ユーロ、およそ18兆6400億円
▼人道支援は7%で190億ユーロ、およそ3兆円だとしています。
アメリカの支援額が全体の40%
国別の支援状況では
▼支援額が最も多いのはアメリカで1141億ユーロ、およそ18兆円に上り
▼続いてドイツが172億ユーロで2兆7000億円あまり
▼イギリスが148億ユーロでおよそ2兆3400億円
▼日本が105億ユーロでおよそ1兆6600億円だということです。
アメリカは1か国で、全体の40%あまりを占めています。
経済規模との比較ではバルト三国や北欧
一方、支援額が各国のGDP=国内総生産に占める割合で見ると
▼エストニアとデンマークがおよそ2.5%
▼リトアニアとラトビアはおよそ2%となるのに対し
▼アメリカやイギリスは0.5%あまりにとどまっています。
各国の経済規模との比較からはロシアと地理的に近いバルト三国や北欧が支援のためにより多くの負担をしていることがうかがえます。
アメリカの今後の支援は不確実
報告書ではアメリカについて最大の支援国ではあるものの、おととしから去年にかけてはアメリカ議会で追加支援の予算の採決が滞ったことでウクライナ支援が大幅に減速する「支援危機」があったとしています。
その上でトランプ政権が政府の海外援助を90日間停止する大統領令に署名したことに触れ「アメリカの今後の支援に伴う不確実性を浮き彫りにしている」と指摘しています。
ロシアへの経済制裁とロシア経済
西側の対ロ制裁は2万1000件余
西側諸国は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し
▽ハイテク製品の輸出禁止や
▽国際的な決済ネットワークからの排除
▽資産の凍結
▽さらにロシア産原油の国際的な取り引きに上限価格を設定する
制裁などを科し、日本や欧米の企業がロシアから相次いで撤退しました。
各国の制裁についてまとめているアメリカの専門サイトによりますと、日本やアメリカなど西側諸国は2022年2月の侵攻開始以降、ロシアに対し、2万1000件あまりの制裁を科しました。
ロシア経済は原油輸出で回復
しかし、IMF=国際通貨基金によりますと、ロシア経済は侵攻を始めた2022年はGDP=国内総生産の実質の伸び率はマイナス1.2%と落ち込んだものの、おととし(2023年)は3.6%となり、去年(2024年)は3.8%と予測されるなど、回復しています。
これまでロシア経済が堅調だった理由の1つが主な収入源である原油の輸出が続いたことです。
ロシアは「BRICS」で協調するインドや中国に低価格で輸出しているとされ、ロイター通信は去年7月の1か月間でロシア産原油を最も輸入した国はインドだったと伝えました。インドはその後も輸入を増やし続けていると伝えています。
また、ロシアは制裁を回避して原油を運ぶ「影の船団」を組織していると指摘され、先月には、アメリカの当時のバイデン政権がタンカーなど183隻に対し制裁を科すと発表しましたが、制裁と制裁逃れは、「いたちごっこ」の状況が続いています。
ロシア国内はインフレ 経済は減速
一方で、兵士の確保に伴う人件費の高騰や経済制裁などによる輸入コストの増加で、インフレに歯止めがかかっていません。
インフレを抑制しようと、ロシアの中央銀行は、おととし(2023年)7月時点で7.5%だった政策金利を段階的に引き上げていて、去年10月には19%から21%に引き上げました。
中央銀行は今月の会合で金利を21%に据え置くことを決めましたが、国営企業からは運転資金が調達できず、倒産につながるなどという声も上がっています。
こうした状況を受け、IMFは今後のロシアのGDPの伸び率についてことしは1.4%、来年は1.2%と予測していてロシア経済は減速が見込まれています。
世界の防衛費 エネルギー価格に大きな影響
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界の防衛費の増加につながったほか、エネルギー価格などに大きな影響を与えました。
世界の防衛費 過去最高に
イギリスのシンクタンクIISS=国際戦略研究所が今月12日に発表した、世界各国の軍事力や地域情勢を分析した年次報告書「ミリタリー・バランス」によりますと、去年の世界全体の防衛費は前の年より7.4%増えて2兆4600億ドル、日本円にしておよそ370兆円と過去最高に上りました。
このうち軍事侵攻を続けるロシアの脅威を前にヨーロッパでは多くの国が前の年に比べて防衛費を増やし
▼ドイツが23%余り増やしたほか
▼スウェーデンや、ロシアと国境を接するバルト三国のエストニアとラトビアなども20%以上増やしました。
原油 天然ガス LNG 侵攻直後は高騰
原油価格は、ウクライナ侵攻が始まった直後の2022年3月、西側諸国による制裁などで、世界有数の産油国ロシアからの原油が減少する懸念から、国際的な原油取り引きの指標となるWTIの先物価格が1バレル=130ドルを超え、13年8か月ぶりの高水準となりました。
その後は需給が安定するにつれ価格が下がり、2023年から去年にかけては1バレル=70ドルを切ることもありました。
JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構によりますと現在は1バレル=70ドル台前後の水準で推移しているということです。
一方、天然ガスとLNGの価格も侵攻後に高騰しました。
LNGは、ヨーロッパ各国がロシア産天然ガスの代わりとして輸入を急激に増やしたことなどからLNGの取り引きで日本が指標とする、JKM=ジャパン・コリア・マーカーと呼ばれる価格が取り引きで使われる熱量の単位を表す100万BTUあたりで80ドルを上回り、過去最高値をつけました。
天然ガスも、ロシアからドイツやポーランドなどのヨーロッパ各国へのパイプラインでの供給が減少したことなどから、ヨーロッパ市場で天然ガスの取り引きの指標となる「オランダTTF」と呼ばれる先物価格の終値が、2022年8月、100万BTUあたりで100ドル近くまで値上がり、過去最高値となりました。
その後、ヨーロッパ各国がガスの貯蔵量を増やしたことで天然ガス・LNGともに価格は落ち着きましたが、コロナ禍前の2019年と去年の年間の平均価格を比べると2倍あまり高くなっているということです。
エネルギー価格の今後の見通しについてJOGMECの担当者は「ウクライナとロシアの停戦に向けて協議が進めば、西側諸国などによるロシアに対する制裁の緩和につながる見方がある。その場合、価格を大きく押し下げる要因になる可能性がある」としています。
食料価格指数 侵攻直後は過去最高に
ロシアとウクライナは世界有数の穀物の輸出大国です。
FAO=国連食糧農業機関によりますと、2021年の小麦の輸出量は
▼ロシアが世界で1位
▼ウクライナが5位でした。
このため、侵攻直後には、供給が滞ることへの懸念から価格が上昇し、FAOが毎月出している「食料価格指数」は2022年3月に過去最も高い160.2となり、特に穀物の指数は2022年の3月と5月に170を超えました。
その後は落ちつき、先月の食料価格指数は124.9と侵攻前の水準に戻っています。
ただ、ウクライナでは多くの農地や農業施設が被害を受け、復興に向けた支援が課題となっています。
軍事侵攻に対するロシア ウクライナ両国の世論は
ウクライナ “和平達成なら領土放棄も”が38%に
ウクライナ国内で行われている最新の世論調査では、侵攻を続けるロシアに対して「いかなる状況でも領土を放棄すべきではない」と答えた人が51%で、過半数となりましたが、この1年でみると23ポイント下がりました。
この調査は、ウクライナの調査会社「キーウ国際社会学研究所」が2022年5月から行っていて去年(2024年)12月までにあわせて12回実施されています。
この1年でみるとロシアに対して「いかなる状況でも領土を放棄すべきではない」と答えた人は▼去年の2月が65%▼5月が55%▼10月が58%▼12月が51%となり、過半数を維持していますが減少傾向となっていて、12月の最新の調査では、おととし12月と比べて23ポイント下がりました。
一方「できるだけ早く和平を達成し独立を維持するため領土の一部を放棄してもいい」と回答した人は▼去年の2月が26%▼5月が32%▼10月が32%▼12月が38%となっていて徐々に増えています。
また、去年6月と12月の調査では戦争の終結に向けた3つのシナリオも提示し考えを尋ねています。
このうち6月の調査では「ロシアが東部2州やクリミアの占領を続けるものの、ウクライナが南部2州の支配権を取り戻し、NATO=北大西洋条約機構などにも加盟する」というシナリオについて受け入れ可能だとする人が最も多く57%でした。
また、12月の最新の調査では「ロシアが東部2州と南部2州や、クリミアの占領を続けるものの、ウクライナがNATOなどにも加盟する」というシナリオについて受け入れ可能だとする人が最も多く64%となり、6月よりも、17ポイント増加しました。
調査結果からは仮に領土を譲歩するにしてもNATOへの加盟など、ロシアが再び侵攻する事態を防ぐための安全保障を求める声が強いことがわかりました。
ロシア “和平交渉の開始”望む人が60%超に
ロシアでは独立系の世論調査機関「レバダセンター」が毎月、ロシア国内の1600人あまりを対象に対面形式で調査を行っています。
それによりますとロシアが「特別軍事作戦」とするウクライナへの軍事侵攻について「支持する」と答えた人はこの1年、70%台で推移し、依然として高い支持率を維持していることが分かりました。
一方で、「軍事行動を続けるべきか」「和平交渉を開始すべきか」という質問では、1年を通じて「和平交渉の開始」と答えた人のほうが「軍事行動の継続」より多くなっています。
このうち、先月の最新の調査では「和平交渉の開始」と答えた人が61%で、これまでで最も高くなりました。
「レバダセンター」は政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けています。
国連事務総長 “ウクライナの領土保全を維持した和平必要”
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から24日で3年となるのに合わせて、国連のグテーレス事務総長は「ウクライナの主権と独立、そして国際的に認められた国境での領土の保全を完全に維持し、公正で持続可能かつ包括的な和平が緊急に必要だ」とする声明を発表しました。
また「ウクライナでの戦争はヨーロッパの平和と安全だけでなく国連の基盤と中核的な原則そのものに対する重大な脅威だ」と位置づけ、公正で包括的な和平の実現に向けたあらゆる努力を国連は支援する用意があるとしています。