日本、そして世界にどのような影響を与えるのか。
安全保障、経済、内政・外交、日本への影響について、それぞれの分野について解説します。
【動画】日本の安全保障は?
(政治部 徳丸政嗣デスク)
Q.トランプ政権の発足により、日本の安全保障面でどのような変化が起きそうか?
A.まだ、はっきり見通せない、というのが率直なところです。これまでトランプ大統領は、日米関係に関する言及は少ないんですね。就任の演説でもありませんでした。政府は、新政権の要人らと接触を重ね、スタンスを探ってきました。ある外務省関係者は「アメリカが中国と対峙する上で、日本の存在は欠かせず、対アジア戦略の方向性は変わらない感触だ」と話してはいます。今回の就任式にあわせ、日米外相会談や日米豪印のクアッドの枠組みの外相会合などが開かれる見通しとなっていることはその表れと言えるかもしれません。
一方で政府内には「トランプ氏は予測困難だ」として、NATO同様に日本にも防衛費の増額を要求してくることへの懸念も根強くあります。その場合、政府としては、すでに防衛費をGDPの2%に増やす取り組みなどを進めていて、これらで同盟強化に十分貢献できることを丁寧に説明し、理解を求めていく方針です。
Q.トランプ政権のもとでも日米関係を維持・強化していく上で、何がカギになるか?
A.何より首脳間の関係が重要だと思います。といいますのも、トランプ政権1期目は、安倍元総理大臣と強固な信頼関係が築かれ、この土台があったからあまり強い要求をしてこなかったという見方もあるんです。政府関係者は「性格も政治信条も違うので、まったく同じものにはならないのは当然だが、石破総理の個性をいかし、また違った形でのつながりの醸成を図りたい」としています。
政府としては、できるだけ早期に石破総理大臣とトランプ大統領との会談を実現し、首脳間の対話を始めたい考えです。まさに大統領就任式出席のため、岩屋外務大臣がアメリカを訪れていますけれども新政権の要人らと会い、日米首脳会談に向けた地ならしをしたいとしていて、実現の時期がまずは当面の焦点になります。
(※動画は3分39秒。データ放送ではご覧になれません)
【動画】日本経済への影響は?
(経済部 吉武洋輔キャップ) Q.注目された関税に関わる大統領令ですが、アメリカの有力紙が、初日に新たな関税を課すことを見送ると伝えていますね?
A.初日に具体策に踏み切ることはないと伝えられています。一方で、就任演説では「貿易制度の見直しに着手し、国民への課税ではなく、外国に関税を課す」と強調していました。今後、実際に関税の引き上げを乱発するような事態になれば、影響は大きそうです。相手国も関税をかけ返す『報復合戦』が激しくなるおそれもあります。特に新政権の閣僚候補には対中強硬派が多いので、米中対立が一段と深まれば、中国経済が下押しされる可能性があります。
ただ、トランプ政権1期目の時も対中国を中心に、大幅な関税引き上げを行いましたが、世界の経済・景気が停滞・減速したかというとそういうわけでもなかったです。当時アメリカで取材していましたが、トランプ大統領の目的は、あくまでアメリカの労働者や農家を守ることでした。中国との当時の貿易交渉では、最終的に、アメリカ産の農産物やエネルギーを大量に購入させることを約束させるかわりに、予告していた一部の関税の発動を見送る、という対応もとりました。厳しい措置を打ち上げて、ディールによって目的を達成する、相手国から譲歩を引き出すのがトランプ流だという見方もあります。
Q.実際に関税引き上げとなると日本経済への影響は、どうなるのでしょうか?
A.一律10%などの関税が、実際に発動されれば、当然影響は出てきます。特に、政府内では、日本の稼ぎ頭の自動車への懸念は強いです。日本で生産してアメリカに輸出するという構造を見直すことになりかねないからです。また、日本政府が警戒しているのが、メキシコとカナダへの関税引き上げ。日本の自動車メーカーは、アメリカへの輸出に関税がからないことを前提に、メキシコやカナダに多くの工場を建設してきました。関税をかけられれば、多くの企業が戦略の見直しを迫られることになります。
一方、自動車をめぐっては、就任演説では「EVの義務化を撤回する」という発言もありました。日本の自動車メーカーにとっても、今後の開発戦略に関わるだけに、具体的な政策が注目されます。日本政府としては、関税引き上げによる影響を避けるため、新政権との対話で日本企業によるアメリカの経済・雇用への貢献を粘り強く伝えていく方針です。
Q.日本ではガソリン価格の高騰など、円安による影響も出ています。トランプ氏の就任でマーケットへの影響はどうなるのでしょうか?
A.為替については、まだ方向性が見通しにくい状況です。輸入関税の引き上げがドル高・円安につながるという見方がある一方、トランプ大統領がドル安を志向するのでは、という見方もあります。1つ言えるのは、経済大国であるアメリカの大統領の発言や政策に神経をとがらせる展開が続くため、ボラタイル=相場が変動しやすくなる、という見方もあります。
(※動画は4分59秒。データ放送ではご覧になれません)
【動画】今後の世界情勢は?
(国際部 石井勇作デスク)
Q.トランプ大統領、就任直後から動き出してますね?
A.就任式で演説を行った際に、数多くの具体的な政策に言及していました。課題として掲げていた不法移民対策については、メキシコとの国境の非常事態を宣言し、軍を派遣すると表明しました。またエネルギーをめぐっても、非常事態を宣言し、エネルギー価格の高騰によってインフレがもたらされたとして、規制を緩和し化石燃料の増産を行う方針を示しました。この延長といってもよいですが、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱も表明しました。いずれもバイデン政権からの大幅な政策の転換となります。
演説でも言及していましたが、政策遂行の「スピード感」も今回の特徴だと思います。初日から公約の実現、政策の転換を大きくアピールした形です。大統領の権限で、議会での承認を経ずに政策を推進できる大統領令という手法を使っているのもスピードを重視したという面もあるだろうと思います。
トランプ氏は初日から多く政策を打ちだし、アメリカの黄金時代が始まるとしています。ただ、トランプ大統領、就任演説のテーマのひとつは「団結」だとしていましたが、政策転換の中には前政権が進めてきた、多様性を重視する政策など人々の価値観にも関わるものもあります。アメリカで深刻な分断が続く中、選挙で自身を支持しなかった人たちも含めて、どのように国民の結束をはかるのか、まだ道筋は見えていないのではないかと思います。
Q.そして気になるのがウクライナなどの世界情勢がどうなっていくのか。トランプ氏は、今後どのような外交を展開するのでしょうか?
A.外交・安全保障上の最大の焦点は中国といって良いと思います。人事面を見ても、国務長官にルビオ氏、安全保障担当の大統領補佐官にウォルツ氏といずれも対中強硬とされる人物を起用しました。物議を醸したグリーンランドやパナマ運河をめぐる発言も、トランプ氏としては、いずれも中国の安全保障上の脅威を念頭に置いたものでもあります。習近平国家主席と対話もしつつ、一方で中国にどう対抗していくのかが、トランプ政権の外交・安全保障政策の起点、中心となるとも言えると思います。その文脈でウクライナ、中東の政策も影響を受けると思います。トランプ大統領は就任式の演説で力による平和、それも力を行使しないことによる平和に言及していました。
トランプ氏としてはウクライナや中東にアメリカとして人・モノ・カネといった資源をこれまでのようにはつぎ込まない形で、安定をさせようとするのではないかと思います。
民主党のバイデン政権は対中国を念頭に、日米韓、日米フィリピン、あるいは日米豪印のクアッド、さらには米英豪のAUKUSなど、小規模なマルチの枠組みを重視してきました。これについて、トランプ政権で安保担当補佐官を務めるウォルツ氏も先日、こうした枠組みを維持発展させていく必要があると明言していました。
その意味では中国と相対していく上で、日本の役割も変わらず期待されると思います。トランプ政権は確かに「アメリカ第一」、自国優先に軸足を移すと思いますが、変わる部分と、変わらない部分について注意して見ていく必要があると思います。
(※動画は5分21秒。データ放送ではご覧になれません)