地方創生を国づくりの核心に
石破総理大臣は、衆参両院の本会議で就任後初めてとなる施政方針演説を行いました。
冒頭、石破総理大臣は「ことしは戦後80年、昭和の元号で100年にあたる節目の年だ。これまでの歩みを振り返り、これからの新しい日本を考える年にしていく」と述べました。
その上で、目指す国家像として、すべての人が安心と安全を感じ、多様な価値観を持つ一人一人が互いに尊重し合い、自己実現を図る「楽しい日本」を掲げ、バランスの取れた国づくりを進める決意を示しました。
そして、地方創生をこうした国づくりの核心に位置づけ、「令和の日本列島改造」を進めるとして、「若者や女性にも選ばれる地方」、「産学官の地方移転と創生」、それに「新時代のインフラ整備」など5つの柱を打ち出しました。
具体的には、働きやすく魅力ある職場づくりや、男女の賃金格差の是正、政府機関や企業の本社機能の地方移転、AIの活用を含めた地方でのイノベーションの創造、脱炭素化やデジタル化の推進、地方公務員の副業や兼業の弾力化などに取り組む方針を示しました。
さらに、2025年4月に開幕する大阪・関西万博について、日本の魅力を世界に向けて発信する絶好の機会となるよう最大限の力を尽くし、来場者に各地を訪れてもらうことで地方創生にもつなげたいという考えを示しました。
経済・財政分野
経済・財政の分野では、賃上げを成長戦略の要と位置づけ、中小企業が利益を上げられるよう価格転嫁や生産性の向上を進め、「コストカット型経済」から「高付加価値創出型経済」への移行を実現させると訴えました。
さらに「経済あっての財政」という考え方のもとで、引き続き財政健全化を目指すとした上で、ことしの「骨太の方針」でプライマリーバランス=基礎的財政収支の早期の黒字化実現を含め、今後の財政健全化に向けた取り組みを示すと説明しました。
社会保障
社会保障をめぐっては、能力に応じてすべての世代が支え合う「全世代型社会保障」の改革を着実に進め、年金制度については働き方に中立的な制度とするなど将来にわたる安心をより確実なものにすると強調しました。
防災対策
防災対策では、令和8年度中の「防災庁」の設置に向けて準備を加速するとともに、被災地での福祉支援やボランティアとの連携を進めるため、災害対策基本法などの改正案を国会に提出する考えを示しました。
その上で防災・減災を加速させるため、5年間で15兆円程度の事業規模で実施されている政府の計画について、これを上回る規模の新たな計画を6月をめどに策定し、対策の強化を図る方針を打ち出しました。
また治安を向上させ、「世界一安全な日本」を実現するとして、捜査員が架空の人物の運転免許証を使って「闇バイト」に応募し、犯行グループに接触する「仮装身分捜査」などにより検挙を徹底する考えを示しました。
外交・安全保障
外交・安全保障では、日本を取り巻く安全保障環境が、戦後最も厳しく複雑になっているとした上で「バランス・オブ・パワーに常に最大限の注意を払い、関係国との緊密な意思疎通を重ねることが死活的に重要だ」と指摘しました。
その上で、アメリカのトランプ大統領と首脳会談を行って安全保障や経済の課題について認識の共有を図り、日米同盟をさらに強化したいという考えを示しました。
そしてインド太平洋地域へのアメリカの関与を確保するとともに、日本も同盟国として責任を共有し、応分の役割を果たさなければならないと強調しました。
中国については「主張すべきことは主張し、協力できる分野では協力する」として、首脳間を含むあらゆるレベルで意思疎通を図る考えを示しました。
韓国については「内政上の動きはあるが重要性は変わらない」として、国交正常化から60年となることも踏まえ、緊密に意思疎通していくと説明しました。
また、ウクライナへの支援とロシアへの制裁を今後も強力に進めることや、海洋安全保障などの分野を通じて東南アジア各国との協力強化を図る方針も示しました。
北朝鮮による拉致問題については、国家主権の侵害だとしてすべての被害者の一日も早い帰国に向けて総力を挙げて取り組むと強調しました。
政治改革
一方、政治改革をめぐっては「課題に結論を得るのは政治家の使命であり、民主主義をどのように支えるかの議論が重要だ」と指摘しました。
その上で、企業・団体献金を含む政治資金や政党の規律のあり方について与野党の枠を超えて議論を深めたいと訴えるとともに、選挙制度についても、衆議院の小選挙区比例代表並立制が導入から30年経過したことを踏まえ、検証を行い、あるべき制度を議論したいと意欲を示しました。
国民の納得・共感得られるよう努める
結びに、石破総理大臣は、2024年の所信表明演説に続いて石橋湛山元総理大臣のことばを引用し、少数与党での政権運営について、党派を超えた合意形成を図るため与野党が責任ある立場で熟議し、国民の納得と共感を得られるよう努める姿勢を強調しました。
そして、多様な国民の声を反映した政策協議によってよりよい成案を得ることが民主主義の本来の姿だと訴え、新年度予算案の成立に向けて多くの賛同が得られるよう説明を尽くし、中長期的な政策の方向性についても真摯に議論していく考えを示しました。
【ノーカット動画】石破首相 施政方針演説
(※動画は40分58秒 データ放送ではご覧になれません)
自民 森山幹事長「課題解決に強い決意」
自民党の森山幹事長は記者団に対し「現実と向き合いながら、日本のあるべき姿と課題の解決に向けた政策をしっかりと述べていて、石破総理大臣の強い決意が示された演説だった。地方創生については、今の地方が抱える課題を考えると、国の仕組みを変えるぐらいの覚悟で、相当、力を入れていかなければならない」と述べました。
立民 野田代表「メッセージが伝わってこない演説」
立憲民主党の野田代表は記者団に対し、「メッセージが伝わってこない演説だった。『楽しい日本』と暗い顔をして語られては、熱が伝わらないのではないか。内容も含めて総じて空回りしている印象だ」と述べました。
その上で「第2次トランプ政権の誕生で世界の荒波がこれから来るという時に、どういう対応するかというところも少し空回りをしている感じがした。外交課題も含めてしっかりと審議をしていきたいし、『甘くはやらないぞ』と改めて決意をした」と述べました。
維新 前原共同代表「『楽しい日本』 その気になれない」
日本維新の会の前原共同代表は記者会見で「『楽しい日本』と言われても、国民は不安を抱えていて、到底その気になれないのが現実ではないか。意欲は是としたいが、国民から『そのとおり』と言われるような、日本再生を果たすという強い意思のあるメッセージが欲しかった」と述べました。
その上で「少数与党の国会では批判だけしていても政治は前に進まないので、しっかりと対案を出して課題の解決に取り組みたい」と述べました。
公明 斉藤代表「具体策が盛り込まれた演説」
公明党の斉藤代表は記者団に対し「『楽しい日本』とはどういう日本か、それをどうつくっていくかの具体策が盛り込まれた演説だった。自分の夢とビジョンを語り、それを具体化するという意味で、非常に整合性のとれた説得力のある内容だった。世界が激動期にある中、日本が活力を増し、世界平和にどのように貢献していくかが明確に示されていた」と述べました。
国民 古川代表代行「石破カラー見えず熱もなかった」
国民民主党の古川代表代行は記者団に対し、「石破カラーも見えなければ熱もなかった。たくさん新しい言葉は並んでいたが、中身は従来の政策をひっつけただけだ。全体としてのっぺりしていて強弱がなく、どこを強くやっていきたいかわからない演説だった」と述べました。
その上で「『年収103万円の壁』の見直しやガソリン減税の話はなく、物価高に苦しむ国民生活の状況を認識していない。やる気がないと思わざるを得ない」と述べました。
共産 田村委員長「ビジョン全く見えず」
共産党の田村委員長は記者団に対し、「キーワードは『楽しい日本』だったようだが、何の楽しみも、わくわく感も面白みも無く、ビジョンが全く見えない演説で、自民党政治の行き詰まりの象徴だ」と述べました。
その上で「新年度予算案の審議で部分的な修正の協議をしていては事実上、政権の延命に手を貸すことになりかねない。政権のゆがみや行き詰まりを追及する審議が求められている」と述べました。
参議院本会議場で開会式
第217通常国会は、参議院本会議場で天皇陛下をお迎えして、午後1時から開会式が行われました。
はじめに衆参両院を代表して額賀衆議院議長が「本年は終戦から80年の節目の年にあたり、わが国は国際協調の道を歩む中、経済の発展にも努めてきたが、早急に対処すべき重要課題が山積している。内政、外交で活発な議論を行いながら合意形成に努め、国民生活の安定向上を図るとともに世界の平和と繁栄に寄与していかなければならない」と述べました。
このあと天皇陛下が「全国民を代表する皆さんと一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。国会が、国民生活の安定と向上、世界の平和と繁栄のため、永年にわたり、たゆみない努力を続けていることを、うれしく思います。国権の最高機関として、当面する内外の諸問題に対処するに当たり、その使命を十分に果たし、国民の信託に応えることを切に希望します」とおことばを述べられました。