FRBは29日までの2日間、金融政策を決める会合を開きました。
声明では経済活動は底堅いペースで拡大し、失業率もこの数か月間低い水準だとした上で、インフレ率についてはいくぶん高い状況が続いていると指摘しました。
声明ではこれまで記されていたインフレについての「2%の物価目標に向かって進展している」との文言が削除され、インフレが再加速することへの警戒感を示した形となりました。
そしてFRBは利下げを見送り、全会一致で政策金利を据え置くことを決定しました。
政策金利を据え置くのは去年7月以来、4会合ぶりです。
これによって、政策金利は4.25%から4.5%の幅のままとなります。
FRBのパウエル議長は会合終了後の記者会見で「経済も好調を維持しているなか、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と述べ利下げをすぐに行う状況にはないという認識を示しました。
またトランプ大統領が掲げる関税の引き上げや減税などが物価を上昇させる可能性については「関税や移民、財政政策、規制緩和など何が起こるか分からない。経済への影響を評価し始める前にこれらの政策が明確になる必要がある。われわれは注意深く見守っていく」と述べました。
一方、トランプ大統領がFRBに対し、原油価格が下がった場合には利下げを要求する考えを示したことについて「大統領の発言に対していかなる反応もコメントもするつもりはない」と述べるにとどめました。
トランプ大統領の“利下げ要求”発言 専門家に聞く
トランプ大統領がFRBに利下げを要求するとの発言をしたことについて、アメリカの政治と経済に詳しいカリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン特任教授に聞きました。
アイケングリーン特任教授は「トランプ大統領は1期目の任期中にみずからを『低金利マン』(lowinterest rateman)と呼び、国民は低金利を好むと信じていたし、今も信じている。今回のトランプ大統領の発言は、FRBに対する最初の警告で、今後も続くだろう」と話しています。
そのうえで「ニクソン大統領からレーガン大統領までの歴代の大統領も、FRBに金融政策を修正するよう圧力をかけてきた。トランプ大統領は政府機関や法のルールを尊重していない。だから彼は、発言と人事の両方でFRBに圧力をかけると思う」と述べ、トランプ大統領は自分に近い理事を任命してFRBに圧力をかけるとの見方を示しました。
一方、アイケングリーン特任教授は、トランプ大統領の影響でFRBの利下げのペースが速まる可能性を問われると「その可能性は低いと思う。FRBはホワイトハウスの声明を無視しインフレを抑え、安定した物価の実現を追求するという正しい行動をとることでその独立性を確立しようとすると思う」と話しています。
そのうえで、今後の金融政策の見通しについて「関税や減税といった新たな政策が実施されればインフレは再加速する可能性がある。私はFRBが利下げのペースを緩めるだけでなく、ことしには利下げを停止すると予想する。そしてことし後半には利上げを開始する可能性も十分にあると考えており、そうなればホワイトハウスとFRBの間に深刻な対立が生じることになる」と話しています。
<FRB パウエル議長 会見での発言>
「政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」
パウエル議長は会合後の記者会見で「私たちの政策スタンスは以前よりかなり緩和されており、経済も好調を維持しているなか、政策スタンスの調整(利下げ)を急ぐ必要はない」と述べました。
「大統領の発言に反応もコメントもするつもりはない」
パウエル議長は会合後の記者会見で、記者からトランプ大統領が利下げを要求すると発言したことについてどのように対応し、どのような影響があるかと聞かれたのに対して「私は大統領の発言に対していかなる反応もコメントもするつもりはない。コメントするのは適切だとは思わない。われわれがこれまでどおり、目標を達成するためにツールを使うことに集中し、仕事を続けていくことを国民は信じてもらいたい」と述べるにとどめました。
「関税 移民政策 財政政策 規制緩和など 注意深く見守っていく」
パウエル議長は会合後の記者会見で「期待インフレ率は短期的に少し上昇しているが、長期的にみると上昇していない。それは新しい政策に関係しているかもしれない。関税や移民政策、財政政策、規制緩和など何が起こるか分からない。経済への影響を評価し始める前にこれらの政策が明確になる必要がある。われわれは注意深く見守っていくつもりだ」と述べました。
不法移民の強制送還 失業率に影響しない考え示す
パウエル議長は会合後の記者会見で記者から、不法移民の強制送還が失業率にどのように影響するか聞かれたのに対して「国境を越える人たちの流れは大幅に減少していて今後もそれが続くと予想される。また、同時に(国内の)雇用創出も減っている。この2つが同時に低下すれば失業率は安定する理由になる。これまで大幅に下がってきた失業率が安定してフラットな状態となる」と述べ、強制送還は現時点でアメリカ国内の失業率に影響しないという考えを示しました。
マスク氏の主張には「非常に慎重な予算管理を行っている」
パウエル議長は会合後の記者会見で記者から、政府支出の削減策などを担う政府効率化省のトップであるイーロン・マスク氏がFRBの職員の人数が多すぎると主張していることについて問われたのに対して「われわれは非常に慎重な予算管理を行っていて国民のために仕事をしていることを十分認識している。それ以上のコメントはない」と述べるにとどめました。
3月に利下げを行う可能性を問われ「急ぐ必要がない」
パウエル議長は会合後の記者会見で記者から、3月に利下げを行う可能性はあるかと聞かれたのに対して「経済は好調で労働市場も堅調で、労働市場の下振れリスクは和らいでいるように見える。FRBのメンバーの広い見解として利下げを急ぐ必要がないことを物語っている」と述べ、次回の会合が予定されている3月も政策金利を据え置く可能性を示唆しました。
【解説】ワシントン支局 小田島拓也記者
Q.会合の前には、トランプ大統領から利下げを要求する発言がありましたが、パウエル議長は最小限のコメントにとどめたということでしょうか。
A.パウエル議長、トランプ大統領に関連する質問には慎重な答えに徹しました。
政府効率化省のトップでもある実業家のイーロン・マスク氏がFRBの職員数が多すぎると主張していることについても「慎重に予算管理をしている。それ以上のコメントはない」と述べるにとどめました。
選挙で選ばれた政治家は、利下げなど、国民受けのいい金融政策を好む傾向があり、実際アメリカでも過去に大統領がFRBに圧力をかけた事例がいくつもあります。
パウエル議長としてはインフレとの闘いが難しい局面を迎えている中で、トランプ大統領とのあいだで波風をたてて、独立性が脅かされ、本来取るべき政策がとれなくなる事態は避けたいとの強い思いがあったと感じます。
Q.トランプ大統領は関税の引き上げなどを掲げていますが、こうしたことは、今後、アメリカ経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
A.これはFRBにとっても最大の心配ごとだと思います。
実際、前回12月の会合の議事録ではトランプ政権の発足を念頭に通商政策などが変更されることでインフレの上振れリスクが高まっているとほぼすべての参加者が判断していたことが分かっています。
関税の引き上げには、輸入物価の上昇を通じて、インフレを加速させるリスクをはらんでいます。
こうなるとFRBとしては金利を高い水準で維持せざるを得なくなり、低金利マンであるトランプ大統領の主張ともあわなくなります。
まずはどのような政策が打ち出されるのか、FRBも「待ち」の姿勢が続きそうです。
NYダウ 100ドル余り値下がり
FRBが利下げを見送ったことを受けた29日のニューヨークの株式市場は、FRBがインフレへの警戒を強めているとの見方から売り注文が優勢となり、ダウ平均株価は100ドル余りの値下がりとなりました。
29日のニューヨーク株式市場、ダウ平均株価は一時、270ドル余り下落し、終値は前日に比べて136ドル83セント安い、4万4713ドル52セントでした。
また、ハイテク関連銘柄の多いナスダックの株価指数も0.5%の下落でした。
市場関係者は「FRBが利下げを見送ることは予想されていたが、インフレへの警戒が強いと受け止められたことと、AI向けの半導体を手がけるエヌビディアの株価が業績の先行きへの不透明感から下落したこともあって売り注文を出す投資家が増えた」と話しています。
また、ニューヨーク外国為替市場の円相場は1ドル=155円台前半での取り引きとなっています。
トランプ大統領 パウエル議長とFRBを批判する投稿
アメリカのトランプ大統領は、FRB=連邦準備制度理事会が政策金利を据え置く決定を発表したおよそ2時間後にパウエル議長とFRBがインフレを抑え込むのに失敗したと批判する内容を自身のSNSに投稿しました。
トランプ大統領によるSNSへの投稿はFRBが政策金利の据え置きを発表したおよそ2時間後、現地時間の29日午後4時ごろでした。
このなかでは「パウエル議長とFRBは自分たちが引き起こしたインフレという問題を止められなかったので私はアメリカのエネルギー生産を解き放ち貿易赤字を是正することなどを通じてインフレを食い止め、ふたたび豊かな力強いアメリカを取り戻す」としています。
FRBを批判し、みずからが掲げる政策でインフレを抑えこむ考えを改めて強調した形です。
また、「FRBは銀行規制をめぐってもひどい仕事をしてきた」とも投稿しました。
おととしシリコンバレーバンクなどが経営破綻したあとの金融機関に対する規制強化の動きを批判したものとみられています。
トランプ大統領は今月23日には、FRBに対して「原油価格が下がれば、ただちに金利の引き下げを要求する」と述べていて独立性が重んじられる中央銀行の政策判断への影響を懸念する指摘も出ています。