ホワイトハウスのレビット報道官は、現地時間31日午後1時から開いた記者会見でロイター通信がカナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税を3月1日から発効させる予定だと報じたことについて聞かれ、「記事を見たが誤りだ。さきほどまで大統領と一緒にいたが大統領は2月1日に実行に移す」と述べました。
そして、両国が不法移民や薬物などのアメリカへの流入を容認しているとして2月1日から25%の関税を課すことを明らかにしました。
また、中国についても、薬物を流通させ多くのアメリカ人の命を奪っているとして、10%の追加関税を課す考えを示しました。
トランプ大統領も現時点では1日から関税を課す方針を明確にしているとしたうえで、こうした措置をいずれかの時期に撤回するかどうかは大統領が決定すると述べました。
一方、カナダのトルドー首相が31日、「アメリカが関税を課すならそれに応じ、関税が撤廃されるまで譲歩しない」と発言したことについて、レビット報道官は、「そうしたとっぴな発言をする前にトランプ大統領と直接話すべきだ」と述べました。
トランプ大統領 関税を回避するためできること「ない」
トランプ大統領は31日、ホワイトハウスで記者団からカナダとメキシコ、中国が関税を回避するため2月1日を迎えるまでにできることはあるかと問われたのに対し、「ない」と述べました。
鉄鋼とアルミニウムに追加関税の意向 導入時期や対象国は不明
トランプ大統領は31日、ホワイトハウスで記者団に対し、アメリカ国内の鉄鋼産業を守るためとして、輸入している鉄鋼とアルミニウムに対して追加関税を課す考えを示しました。
この具体的な導入時期や対象となる国などについては明らかにしていません。
カナダ トルドー首相 報復関税課す姿勢示す
アメリカのトランプ大統領が表明してきたカナダからの輸入品に対する25%の関税について、2月1日から実行に移すとホワイトハウスの報道官が明らかにしたことを受けて、カナダのトルドー首相は、31日、SNSに「国境のどちら側であれ、誰もカナダ製品に対するアメリカの関税を望んでいない。関税を阻止するために努力しているが、もしもアメリカが前に進むようなら、カナダはすぐさま強力な対応をとる用意がある」と投稿し、報復関税を課す姿勢を示しました。
《詳しく》関税措置には3つの狙い
トランプ大統領が掲げる関税措置には、
▽貿易赤字の解消と、
▽国の歳入を増やすこと、
▽あらゆる問題の解決に向けた“交渉のカード”にするという3つの狙いがあると言われています。
【1 貿易赤字の解消】
貿易赤字の解消は、トランプ大統領が1期目から強く訴えてきたテーマです。
トランプ氏は、外国がアメリカとの貿易で多額の利益を得ている一方、アメリカは“損をしている”という考えが根強く、“貿易の不均衡を是正”し貿易赤字を解消する手段として関税を位置づけています。
【 2 アメリカの歳入を増やす】
また、関税を徴収することはアメリカの歳入を増やすことになります。
アメリカの議会予算局は、去年12月、トランプ氏が掲げる関税の引き上げがアメリカの財政や経済に与える影響についての試算を公表。
仮にすべての国からの輸入品に一律で10%の関税を課す場合には歳入が増加し、財政赤字が2兆1000億ドル減少するとしています。
こうした歳入の増加は、企業などへの「減税」とも密接に関わります。
トランプ大統領はアメリカで製品を生産する企業の法人税率を21%から15%に引き下げる考えを示していますが、これに伴う税収のマイナスを関税による歳入の増加が補う形となります。
【3 “交渉のカード”に】
そして、トランプ大統領は関税をあらゆる問題の解決に向けた“交渉のカード”にする姿勢を鮮明にしています。
ホワイトハウスの報道官は2月1日からメキシコとカナダに25%の関税を、中国に10%の追加関税をそれぞれ課すと明らかにしています。
トランプ政権はメキシコやカナダにはアメリカに流入する薬物や犯罪を食い止める措置を、中国にはアメリカで社会問題になっている薬物「フェンタニル」の原料が中国で製造されないような対策を求めていて、いずれも各国が対応するまで措置を続けるとしています。
また、不法移民の強制送還をめぐっては南米のコロンビア政府が軍用機の着陸を拒否したことを受けて、コロンビアからの輸入品すべてに25%の関税を課すと表明しました。
その後、アメリカ政府はコロンビア側が軍用機での送還も含めて無条件で受け入れることに合意したとして、関税措置などの導入を当面、見送ると発表。
関税が“交渉のカード”としてさっそく使われた形になりました。
トランプ政権ではこうした3つの狙いのもとで今後も関税が広く使われるという見方が強く、トランプ氏の発言や投稿に世界が神経質になり、振り回される状況が続くことになりそうです。
日本経済への影響 さまざまな試算
アメリカのトランプ政権による関税措置が実行に移された場合の日本経済に与える影響については、さまざまな試算が出ています。
JETRO・日本貿易振興機構のアジア経済研究所がまとめた試算では、カナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税と、中国への10%の追加関税が実行に移された場合、2027年には、日本のGDPが0.2%押し上げられるとしています。
これは、カナダやメキシコ、中国からのアメリカへの輸出が落ち込むなか、これらの国々に代わって日本からアメリカへの自動車関連の輸出などが伸びるためだとしています。
一方、民間のシンクタンク「大和総研」の試算によりますと、同じく、カナダとメキシコへの25%の関税と中国への10%の追加関税が実行に移された場合、日本の実質GDPが、2年から3年以内に最大で1.4%程度押し下げられるとしています。
この試算は、メキシコとカナダ、それに中国がアメリカに対して報復関税を課すことを前提としており、4か国で輸入価格が上昇し、世界経済が減速するとみています。
このように、トランプ大統領の関税政策が日本経済に与える影響をめぐっては、見方が分かれる形となっています。
日本の自動車メーカーへの影響懸念
アメリカのトランプ政権がメキシコやカナダからの輸入品に対する関税措置を実行に移した場合、両国をアメリカ市場向けの重要な生産拠点と位置づける日本の自動車メーカーへの影響が懸念されています。
このうちメキシコについては、日産自動車とトヨタ自動車、マツダ、それにホンダの工場があります。
JETRO=日本貿易振興機構によりますと、日産はおととし1年間に61万5000台あまりを生産していてこのうちおよそ4割をアメリカに輸出しています。
また、トヨタはおよそ25万台を生産し、9割をアメリカに輸出しています。
このほか、マツダは20万2000台あまりのうちおよそ5割を、ホンダは生産した16万7000台あまりのうちおよそ8割をそれぞれアメリカに輸出しています。
一方、カナダにはトヨタ自動車とホンダの工場があります。
JETROによりますと、このうちトヨタは現地で生産台数が最も多いメーカーで、おととしは52万台余りを生産しています。
現地での販売は22万台余りで、台数は公表していませんが、アメリカにも輸出しています。
また、ホンダはおととし、2番目に多い37万台余りを生産していて、アメリカには77%にあたるおよそ29万台を輸出しています。
ホンダはカナダにEVと電池の工場を新たに建設し、2028年に稼働する計画もあり、電池の部材についても旭化成などと合弁で現地に工場を建設して生産する予定です。
専門家「幅広く外交課題を解決する手段として関税を利用」
トランプ大統領が関税を重視する狙いについてJETRO=日本貿易振興機構ニューヨーク事務所の赤平大寿さんは、「通商上の目的だけではなく幅広く外交課題を解決する手段として関税を利用している。交渉戦略=ネゴシエーションタクティクスと言われるようにアメリカが欲しいメリットを得るための手段であり、その対象は同盟国でも懸念のある国でも区別がないというのは、バイデン前政権との大きな違いだ」と指摘しています。
また、1期目の政権時に中国への追加関税などの政策を実現したことを踏まえれば、今回、同盟国のカナダなどにも関税を課すことですべての国が関税の対象になり得るという強いメッセージとともにみずからの政策実行能力の高さを示そうとしていると分析しています。
その上で、相手国が報復措置をとる事態に発展し、高い関税を掛け合う動きが広がれば、国際的な通商システムをどう統治していくかという問題にもつながるという懸念を示しました。
日本企業がとるべき対応については、「トランプ政権下で唯一、予測できるのは、予測不可能な状況が4年間続くことだ」と指摘した上で、製品の供給網=サプライチェーンの“見える化”を進め、トランプ大統領の政策にどういった対応が可能なのか、準備しておくことが最も重要だという考えを示しました。