「第だい四よんの被ひばく」米べい文書ぶんしょ“日にち米べいで巧たくみに対処たいしょ”の記載きさいも

書記しょき官かんは「日にち米べいで巧たくみに対処たいしょした」としたうえで「日本人にっぽんじんの一部いちぶは核かく実験じっけんが正当せいとう化かされるという考かんがえにさえ至いたったようだ」と記しるしていて、専門せんもん家かは「アメリカ政府せいふがどのように分析ぶんせきしていたのか本音ほんねがわかり、重要じゅうようだ」と話はなしています。

1958年ねん7月つき、国際こくさい的てきな観測かんそくプロジェクトの一環いっかんで、太平洋たいへいようを航海こうかいしていた海上かいじょう保安庁ほあんちょうの測量そくりょう船せん「拓つぶせ洋よう」と巡視じゅんし船せん「さつま」の2隻せきがアメリカがビキニ環礁かんしょうで行おこなった水爆すいばく実験じっけんに遭遇そうぐうし、乗組のりくみ員いんが被ひばくしました。

1年ねん後ご、「拓つぶせ洋よう」の首席しゅせき機関きかん士しを務つとめていた永野ながの博吉ひろきちさん（当時とうじ34歳さい）が急性きゅうせい骨髄こつづい性せい白血病はっけつびょうで死亡しぼうしましたが、被ひばくと関連かんれんづけて考かんがえることは困難こんなんだとされました。

今回こんかい、NHKは、事件じけんの2か月かげつ後ごに当時とうじ、在日ざいにちアメリカ大使館あめりかたいしかんの書記官しょきかんを務つとめていたリチャード・スナイダー元もと国務こくむ次官補じかんほ代理だいりが、事件じけんの経緯けいいや日本にっぽん社会しゃかいの反応はんのうを詳細しょうさいにまとめた文書ぶんしょを入手にゅうしゅしました。

文書ぶんしょのタイトルは「アメリカの1958年ねん核かく実験じっけん」とされ、このなかで、事件じけん直後ちょくごの日本にっぽん社会しゃかいの反応はんのうについて「即座そくざに1954年ねんに起おきた第だい五ご福竜丸ふくりゅうまる事件じけんを思い起おもいおこさせた」と記しるして4年ねん前まえに起おきたビキニ事件じけんに触ふれ「核かく実験じっけん問題もんだいをめぐる日にち米べい対立たいりつを深刻しんこくに悪化あっかさせる可能かのう性せいを否定ひていできなかった」として懸念けねんがあったことも報告ほうこくしていました。

また、その後そのごのアメリカの対応たいおうについて「被ひばくしたという主張しゅちょうを軽視けいしせず、ラバウルに医師いし団だんを派遣はけんした。アメリカが乗組のりくみ員いんたちを心配しんぱいしている証あかしだと日本にっぽんに解釈かいしゃくされた」とし、日本にっぽんの対応たいおうについては「調査ちょうさが終おわる前まえからアメリカとの衝突しょうとつを避さけようとした。影響えいきょうがないとした身体しんたい検査けんさの結果けっかを日本にっぽん政府せいふが公表こうひょうし、放射線ほうしゃせん障害しょうがいに対にたいする不安ふあんを効果こうか的てきに鎮しずめることができた」と記しるしていました。

そのうえで「日にち米べいの関係かんけいを崩くずさないよう両国りょうこくで巧たくみに対処たいしょした」と評価ひょうかしていました。

そして、みずからの所感しょかんとして「日本人にっぽんじんの根底こんていにはアメリカの核かく実験じっけんは不快ふかいで人体じんたいに害がいを及およぼす危険きけんがあるという意識いしきがある。しかし、それは避さけられないものであり、一部いちぶの人ひとは、国際こくさい情勢じょうせいに照てらすと核かく実験じっけんが正当せいとう化かされるという考かんがえにさえ至いたったようだ。日本人にっぽんじんはアメリカに抗議こうぎしても、いかなる影響えいきょうも及およぼすことができず、むしろ日にち米べい関係かんけいには望のぞましくない結果けっかをもたらすという結論けつろんに達たっしたようである」などと書き記かきしるしていました。

米べい書記官しょきかんまとめた文書ぶんしょ このほかの所感しょかん

在日ざいにちアメリカ大使館あめりかたいしかんの書記しょき官かんがまとめた文書ぶんしょには、事件じけんに対にたいする社会しゃかいの反応はんのうについて、ほかにも所感しょかんが記しるされています。

このなかで書記しょき官かんは「放射線ほうしゃせんをめぐる問題もんだいについての科学かがく者しゃや医師いしの専門せんもん的てき知識ちしきの向上こうじょうが、報道ほうどう機関きかんや一般いっぱん市民しみんにも浸透しんとうし始はじめていて、以前いぜんは一般いっぱん的てきだった、雨あまがっぱを必死ひっしに購入こうにゅうし、放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつを含ふくむ雨あめを防ふせごうとする行動こうどうはほぼ過去かこのものになった」と記載きさいしています。

そして「センセーショナルな報道ほうどうはあるものの、その試こころみは頓挫とんざした」としていました。

また「日本にっぽん国民こくみんを核かく実験じっけんへの反対はんたい運動うんどうに導みちびこうとする左翼さよくの試こころみはもはや効果こうかはなく、信頼しんらいを失うしないつつある。アメリカの核かく実験じっけんに対にたいし、反対はんたいするよう国民こくみんに呼よびかけたが、その努力どりょくは成功せいこうしなかった」とも記載きさいしています。

外務省がいむしょう “日にち米べい間かんの誤解ごかいの因いん（もと）となる如ごとき事態じたいは極力きょくりょく防止ぼうし”

海上かいじょう保安庁ほあんちょうの船ふね「拓つぶせ洋よう」と「さつま」が被ひばくした事件じけんから11日にち後ごに作成さくせいされた外務省がいむしょうの内部ないぶ文書ぶんしょからは、日本にっぽん側がわも事件じけんへの対応たいおうに追おわれていた様子ようすがわかります。

文書ぶんしょには、海上かいじょう保安庁ほあんちょうで行おこなわれた専門せんもん家か会議かいぎの結論けつろんとして「両船りょうせん船体せんたいの放射能ほうしゃのう汚染おせんは人体じんたいに危害きがいを及およぼす程度ていどのものではないと判断はんだんされている」と記しるしている一方いっぽうで「どの程度ていどの放射能ほうしゃのうを吸収きゅうしゅうしたかの点てんについての判断はんだん資料しりょうはないので、健康けんこうについては十分じゅうぶんな警戒けいかい的てき措置そちをとる必要ひつようがある」とも記載きさいされています。

事件じけんへの日本にっぽん社会しゃかいの反応はんのうがアメリカとの関係かんけいに影響えいきょうしないよう気きにかけるような箇所かしょもあり「日本にっぽん政府せいふとしては、本件ほんけんに、必要ひつよう以上いじょうのパブリシティ（広報こうほう）を与あたえて日にち米べい間かんの誤解ごかいの因いん（もと）となる如ごとき事態じたいは極力きょくりょく防止ぼうしする」と記しるされています。

また、事件じけんの10日にち後ごに作成さくせいされた内部ないぶ文書ぶんしょにも広報こうほう対応たいおうについて書かかれていて、アメリカが医師いしを派遣はけんしたことについて「米べい側がわの希望きぼうもあり、特別とくべつの新聞しんぶん発表はっぴょうは行おこなわず、なるべくパブリシティを与あたえない方針ほうしん」とされています。

そのうえで、新聞しんぶん社しゃから問い合といあわせがあった場合ばあいの回答かいとう内容ないようについて「米べい側がわとも打ち合うちあわせ済ずみ」と記しるされ、社会しゃかいの反応はんのうに敏感びんかんになっていたことがうかがえます。

専門せんもん家か“米べい政府せいふの分析ぶんせき 本音ほんねがわかり重要じゅうようだ”

「拓つぶせ洋よう」が被ひばくした事件じけんなどでのアメリカの広報こうほう外交がいこうを研究けんきゅうする京都大きょうとだい学がくの森口もりぐち由香ゆか教授きょうじゅは、今回こんかいの文書ぶんしょについて「事件じけんが日にち米べい関係かんけいにとって相当そうとうシリアスな問題もんだいだとアメリカ政府せいふが自覚じかくしていたことが示しめされている。アメリカ政府せいふがどのように分析ぶんせきしていたのか本音ほんねがわかり、重要じゅうようだ」と話はなしました。

当時とうじの時代じだい背景はいけいについて「冷戦れいせん中ちゅうだったこともありアメリカは日本にっぽんとの同盟どうめい関係かんけいを強つよめたいと考かんがえ、日本にっぽんでは政府せいふ自民党じみんとうが左派さはの日にち米べい安保あんぽ体制たいせいへの反論はんろんを抑おさえ、55年ねん体制たいせいを盤石ばんじゃくにしたいと考かんがえていた」としたうえで、事件じけんへの対応たいおうについては「日本にっぽん政府せいふとアメリカ政府せいふが協力きょうりょくして情報じょうほうがなるべく広ひろがらないよう巧たくみに公表こうひょうすることによって、事件じけんは大たいしたことがなかったという雰囲気ふんいきを広ひろめていった。意図いと的てきな情報じょうほう操作そうさで見みえなくなった事件じけんだと言いえる」と指摘してきしました。

そのうえで「日にち米べいともに日にち米べい安保あんぽ体制たいせいの堅持けんじを最さい優先ゆうせんにすると再さい確認かくにんしていて、アメリカはこの事件じけんを乗り越のりこえたことで今後こんご、核かくをめぐる問題もんだいが日にち米べい安保あんぽの障壁しょうへきにならないと感かんじたのではないか。日本にっぽんは対たい米べい追従ついしょうではない外交がいこうをしようと努力どりょくしながら最終さいしゅう的てきには、ずっと日にち米べい安保あんぽ体制たいせいに頼たよらざるを得えないところがあり、この事件じけんはアメリカの言いうがままになってしまった典型てんけい的てきな動うごきを示しめしている」と話はなしました。