娘むすめ、志乃しのは、20歳さいと8か月かげつという若わかさで亡なくなりました。『一いち歩ほ一いち歩ほを大切たいせつに生いきていきたい』と成人せいじん式しきに、その言葉ことばを残のこしていました。しかし、親おやに一言ひとことも言いわないで、突然とつぜん、一いち歩ほも歩あゆまないで、遠とおくへ行いってしまいました。

1月つき17日にちの夜よる、意外いがいと渋滞じゅうたいを気きにせず、山麓さんろくバイパスから、灘なだ区く琵琶びわ町まちのニュー六甲ろっこうビラのアパートに着つき、現場げんばは、瓦礫がれきの山やまだったのですが、近ちかくの避難ひなん所しょ巡めぐりをし、ラジオ関西かんさいの尋ね人たずねびと報道ほうどうに依頼いらいをし、車中しゃちゅう泊はくをしました。

18日にち6時じ40分ふん頃ごろ、少すこし明あかるくなってきたので、瓦礫がれきの山やまを除のけていると、お友ともだちの頭あたまを、その横よこに志乃しのの足あしを見みつけました。ホーム炬燵こたつに差さし向むかいで寝ねていたようで、2階かいの梁やながその真ん中まんなかに落おちてきており、挟はさまれた状態じょうたいでした。目めの前まえにいながら、助け出たすけだせないでいる自分じぶんの無力むりょくさを味あじわいました。昼ひるから垂水たるみの兄あにが来きてくれて、壁かべを崩くずし、屋根やね瓦かわらを落おとしたりして、夕方ゆうがたの5時じ頃ごろに、少すこし梁やなが動うごいて、引き出ひきだすことができました。

王子おうじスポーツセンターでの丸まる一いち日にち以上いじょうかかった検視けんし、200人にん近ちかくが収容しゅうようされて、1000人にん近ちかい人ひとが、黙だまって検視けんしを待まち続つづけた武道ぶどう場じょう、全まったく、寒さむさと静しずけさだけが、そこにありました。

葬儀そうぎを終おえてからは、毎日まいにちのようにアパートに遺品いひん探さがしに行いきました。1か月かげつごとにビニール袋ぶくろにくくられた新聞しんぶんを見みて、何なにでも丁寧ていねいにする性格せいかくだなということを見みつけたり、今いま、学校がっこうや図書館としょかんなどに寄贈きぞうしている面白おもしろい発想はっそうの「空そらを泳およぎたかった魚さかなの話はなし」のパラパラ絵本えほんなどを持ち帰もちかえりました。

『陽子ようし、志乃しの ここに眠ねむる』の新聞しんぶん報道ほうどうがあって、以来いらい、多おおくの記者きしゃたちと出会であうことになりました。初はじめは、泣ないてばかりいましたが、3、4人にん目めぐらいから、話はなし終おわって、ふと、気持きもちが軽かるくなることがありました。