1992年、福岡県飯塚市で小学1年生の女の子2人が登校途中に連れ去られ、遺体で見つかったいわゆる「飯塚事件」では、殺人などの罪に問われた久間三千年元死刑囚の死刑が2006年に確定し、その2年後に執行されました。
元死刑囚は一貫して無罪を主張し、3年前、新たな目撃証言を証拠として、家族が2度目の再審=裁判のやり直しを求めていました。
これについて、福岡地方裁判所の鈴嶋晋一裁判長は5日、再審を認めない決定をしました。
決定では、弁護側が新たな証拠とした、事件当日に通学路で被害者の女の子2人を最後に見たとされる女性が「目撃したのは事件当日ではなかったのに、捜査機関に無理やり記憶と異なる調書を作成された」と、当時の調書の内容をみずから否定した証言など2つの証言について、いずれも「信用できない」と判断しました。
このうち女性の証言については、鈴嶋裁判長は「女性の調書が作成されたのは、事件発生からおよそ10日後で捜査が流動的な状況にあったにもかかわらず、捜査機関が無理に女性の記憶に反する調書を作成する動機や必要性は見いだせない。女性の証言は変遷しており記憶が一貫性のない不確かなものである可能性が高い」と指摘し、いずれも無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められないとしました。
支援者「不当決定」
福岡地方裁判所の前には支援者など数十人が集まり、午前10時すぎ「不当決定」と書かれた紙を掲げて「裁判所は国民の声を聞け」などと、声を上げていました。
支援者の1人は「怒り心頭です。新たな証拠が出てきたのであれば再審を開くべきです。もとの判決がいかに証拠のない判決か、全国の人に判決文を読んでほしいです」と話していました。
また、弁護団の岩田務弁護士は「先は長いですから、次の闘いを見ていかないと」と話していました。
弁護団 即時抗告する考え
裁判所が再審を認めない決定をしたことについて、元死刑囚の弁護団が会見を開き、福岡高等裁判所に即時抗告する考えを示しました。
会見で岩田務弁護士は「無実を明らかにするために、人間としての良心に従って協力していただいた2名の証人の貴重な証言の新証拠としての価値を認めないものであり、全く不当なものであって強く抗議する。新旧証拠を真摯(しんし)に検討する姿勢を放棄したものというほかなく、裁判所としての使命に反するものである」とする弁護団の声明を読み上げました。
そのうえで、「再審開始を目指して闘い続けることを表明する」と述べ、福岡高裁に即時抗告する方針を示しました。
また、徳田靖之弁護士は「予想した中で最悪の決定だった。2人の証人が30年近くたって自分と全く関わりのない人の無実を明らかにするために、人間としての良心にかけて法廷に立った。裁判官はそれを受け止めず、再審を開始することが死刑制度の根幹を揺るがしかねないという思惑で、2人の貴重な証言の価値を認めようとしなかった」と述べ批判しました。
福岡地検次席検事「裁判所が適切な判断」
再審を認めない決定について、福岡地方検察庁の細野隆司次席検事は「決定書の内容については精査中であるが、結論において裁判所が適切な判断をされたものと考えている」とコメントしています。