大河さんは「子どもと一緒に過ごせて成長を感じられるのがうれしく仕事を頑張ろうという励みにもなります。家事や育児がどれだけ大変かやってみないと想像できず、育休は積極的にとったほうがいいと思います」と話しています。
大河さんが育休を取得した背景には、会社の強い後押しがありました。この会社では屋根に使う金属部品を作っていますが、製品になじみがない人も多く、人材の獲得には働きやすく魅力のある職場が不可欠だとして育休の取得に力を入れてきました。 男性社員が妻の妊娠を報告すると総務担当者が▽業務の状況に合わせた育休取得の期間やタイミング、▽手取り金額のシミュレーションなどについて相談に乗る仕組みを設けました。ふだんからどの社員が休んでも仕事が滞ることがないよう業務の内容を共有し、育休の取得前には担当している顧客や不在期間の業務について同僚への引き継ぎを丁寧に行います。 こうした取り組みで平成30年以降4年連続で男性社員の育休取得率100%を達成していて、新たな制度についても周知を進め、これまで以上に仕事と育児のバランスが取れるよう促していきたいとしています。 大河さんは「男性も育休を取るのが当たり前になっていて取得する側も安心でき周りもフォローするんだという意識を持ってくれます。ふだんから仕事の内容を共有してきたので同僚もそれほど困ることはないと思います」と話していました。 引き継ぎを受けた1人は「彼がこれまでやってきた仕事を自分もできなるようにならないといけないので、成長の機会になるし、無駄な業務がないか見直すきっかけにもなります」と話していました。 サカタ製作所の樋山智明総務部長は「育休の推進や残業ゼロの働き方改革を進めてから、人材獲得がしやすくなった。短期的にはマイナスの影響も出るが、チームでカバーし合う文化や円滑なコミュニケーションが生まれ、生産性の向上にもつながって、長期的に見ると売り上げが上がるなどの効果が出ている」と話していました。
東京・中央区に本社があるアパレル会社では、4年前まで育休を取得した男性がいませんでした。長時間労働も多く発生するなど働き方全般に対する関心が薄く育休を取る雰囲気がなかったといいます。 ただ、働く環境が悪ければ離職者が出る懸念があることや男性から育休を取得したいという声が上がったことなどを受けて、育休の取得率の向上に向けて社内の雰囲気作りや研修を進めています。 9月も研修を実施しました。20代から50代の社員およそ20人がグループに分かれ▽管理職の男性社員が育児中の女性社員に、▽若手の女性社員が管理職役になるなど、いつもと違う立場を担います。 たとえば、保育園の送り迎えなどを通じて信頼が生まれれば、家族のトラブルの心配がなくなり仕事の生産性が上がるなど、さまざまな場面を想定して育児や家事と仕事とのつながりを考えます。研修では、夫婦のペアになった社員どうしが保育園の送迎の分担や産休を取るタイミングについて話し合う様子も見られました。
別の管理職の男性社員は「育児中の20代の女性の役割を担いました。家事や育児を大切にすることが仕事にも生きると感じました。自分が20代のころは仕事ばかりでしたがプライベートを充実させていたら今の仕事に生きることがあったのではないかと思います」と話していました。 こうした取り組みを通じてこの会社の男性の育休取得率はおよそ50%まで上昇しています。今月から新たな制度が導入されるのにあわせて育休の取得を促すステッカーを職場に貼るなど地道な対応も進め、来年度は取得率100%を目指しています。 ただ、管理職の理解がどこまで広がるかや育休を取った社員の業務をどう継続していくかなどまだ課題も多いということです。 「シップス」総務人事部の浮船亜季子部長は「男性育休について、昔からのスタッフには現実的には無理だという考えがまだあると思います。人口が減り業界全体が伸び悩んでいく中で会社が変わっていかなくては優秀な人材を獲得できず組織の存続が難しくなります。人の力で企業の価値を上げていきたいです」と話していました。
その上で労働力人口が減少していくなか、「短い時間で効率よく付加価値の高いものを作っていかなくてはいけない。男女両方を短時間でフル活用し、多様な人材で会社を回していくことが必須になる」と話しています。 また、来年4月から一部の企業で男性の育児休業の取得率の公表が義務づけられることについて、「育休を取らせないような雰囲気があると人材獲得に影響が出て、会社全体のマイナスにつながる。ことしの取得率が公表する数字に反映するため経営層が責任を持ってコミットしていくことが求められる」として企業は速やかな対応が必要だと強調しました。
取得率の向上を目指す企業
専門家「誰が休んでも回るような職場を」
育児・介護休業法の改正でこれまでの育休とは別に「産後パパ育休」という制度が設けられました。
子どもが産まれたあと男性が8週間以内に4週間まで取得することができ、2回に分割することも可能です。
今回の改正にあわせてこれまでの育休も2回に分割して取れるようになり、子どもが1歳になるまでに最大で4回に分けて取得することができるようになりました。
また、産後パパ育休の期間には労使協定で合意した範囲内で働くことも可能です。
ただ、事業主が一方的に働くことを求めてはいけません。
▽出産してすぐの大変な時期や
▽妻の職場復帰のタイミングなどでこまめに育休を取得できるほか、
▽どうしても仕事がある日は休業中も働けるなど選択肢が増えることになりました。
厚生労働省によりますと男性の育休の取得率は昨年度は13.97%と過去最高となりましたが2025年までに30%という政府の目標とは開きがあります。
来年4月には従業員が1000人を超える企業に男性の育休取得率の公表が義務づけられることになっていて、厚生労働省は一連の制度改正を通じて育休取得の機運を盛り上げ取得率の向上を図りたいとしています。
取得率100%達成の企業
新潟県の建築部品メーカーの東京支社に勤める大河元さん(42歳)は、ことし8月に2人目の子どもが産まれ、およそ1か月間、育休を取得しました。赤ちゃんにミルクをあげたり、食器洗いをしたりするなど妻と一緒に家事や育児に取り組んでいます。
妻の亜紗子さんは「2人目が産まれてやることが多く夫が育休を取らずに1人でこなすことは無理だったと思います。夫が育休を取っておくといざというときに何をすればよいか分かるので、自分も仕事に復帰しやすいのかなと思います」と話していました。
男性が育休を取得しやすい職場環境に向けて試行錯誤を続ける会社もあります。
参加した管理職の男性社員は「自分の目標や大切にしたいことをグループのメンバーに話すことで仕事の取捨選択や順序づけなどで周囲に助けてもらえることを体感できました。実際の仕事の場でもスタッフそれぞれに事情や考えがあることが分かりました」と話していました。
労働環境についてのコンサルティングを行っている「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長は男性の育休の取得率が低い理由について、「仕事を休んだり早く帰ったりするのが難しいのは誰が休んでも回るような職場ができていないからだ。今は『君にしかできない仕事があるね』と褒められるが、これからは、休む際にほかの人にきちんと引き継ぎをし、問題が起きないことを評価することが重要になってくる」と指摘しています。
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