(助動)
〔上代語の「ましじ」から転じたもの。 中古以降の語〕
打ち消し推量の助動詞。 動詞およびそれと同じ活用型の助動詞の終止形に接続する。 ただし, ラ行変格活用の動詞, およびそれと同じ活用型の語には連体形に接続する。 推量の助動詞「べし」の打ち消しの言い方に相当するもの。
(1)強い打ち消しの推量の意を表す。 …ないだろう。 …そうもない。
「それもただ, 雀などのやうにつねにある鳥ならば, さもおぼゆ〈まじ〉/枕草子 41」「なきあとまで人の胸あく〈まじかり〉ける人の御覚えかな/源氏(桐壺)」「さて冬がれのけしきこそ秋にはをさをさ劣る〈まじけれ〉/徒然 19」
(2)打ち消しの当然の意を表す。 …ないにちがいない。 …するはずがない。
「かのくに人きき知る〈まじく〉おもほえたれども/土左」「何とわく〈まじき〉山伏などまで惜しみ聞こゆ/源氏(薄雲)」「この川は近江の湖の末なれば, 待つとも待つとも水干〈まじ〉/平家 9」
(3)強い打ち消しの意志を表す。 …ないつもりだ。 …ないでおこう。
「み命のあやふさこそおほきなるさはりなれば, 猶つかうまつる〈まじき〉ことを/竹取」「ただ今は見る〈まじ〉とて入りぬ/枕草子 82」
(4)不適当なこと, あるいは禁止する意を表す。 …ないほうがよい。 …してはよくない。 …してはならない。
「妻(メ)といふものこそ男の持つ〈まじき〉ものなれ/徒然 190」「中にもある〈まじから〉ん振舞はよくよく慎しむべし/十訓 5」「それにもうちとけたまふ〈まじ〉/平家 1」
(5)不可能だという意を表す。 …できないだろう。 …できそうもない。
「ここにおはするかぐや姫は, 重き病をし給へば, えいでおはします〈まじ〉/竹取」「公卿といへど, この人の覚えに, 必ずしも並ぶ〈まじき〉こそ多かれ/源氏(胡蝶)」
〔(1)「まじ」は和歌にはほとんど用いられない。 (2)中世以降, 未然形に接続する例が多く見られるようになる。 「一人も助け〈まじき〉ものを/平治(下)」「さもあらば, 今宵二十七日月もなき夜こそ人もしら〈まじ〉/浮世草子・一代男2」(3)中世以降, 口語では, 連体形「まじき」の音便の形から生じた「まじい」の形が用いられるようになり, さらに「まい」の形が用いられるようになる。 (4)連体形「まじき」は, 現代語でも時に用いられることがある。 「それは警察官としてある〈まじき〉行為だ」〕
→ まじい(助動)
→ まい(助動)