アメリカの与党・民主党の全国党大会は19日、中西部イリノイ州シカゴで4日間の日程で始まり、大会初日、ハリス副大統領が姿を見せてステージであいさつしました。
ハリス氏は、先月選挙戦からの撤退を表明し、自身を後継候補として支持したバイデン大統領について「歴史的な指導力と、生涯をかけた国への奉仕に、私たちはみな永遠に感謝する」と述べてこれまでの功績をたたえました。
その上で「この11月、私たちはひとつになり、前向きさと希望、そして信念をもって、前に進むことを宣言する。私たちが大切にしている理想のために戦おう。戦えば、私たちは勝つ」と述べて、党の結束を呼びかけました。
これに先立ち、党大会では事実上の公約となる党の政策綱領が採択されました。
綱領では貧困層・低所得者層の底上げと中間層への支援による経済成長が掲げられたほか、共和党の知事の州を中心に人工妊娠中絶を規制する動きが相次いでいることを受けて、中絶の権利を擁護する姿勢を強調しています。
会場では先ほどからバイデン大統領が演説していて、自身の後継候補となったハリス氏への支持を改めて強調するものとみられます。
ハリソン委員長「綱領は一緒に作り上げた」
民主党全国委員会のハリソン委員長は、全国党大会の開幕前の18日、NHKの取材に対し、ハリス副大統領が党の政策綱領の採択後も独自の政策を打ちだしていく、という認識を示していました。
民主党が採択した政策綱領は、バイデン大統領が撤退を表明する前に党の委員会がまとめたもので、バイデン氏の選挙戦継続を前提にした表現がそのまま残っています。
この綱領についてハリソン委員長は「バイデン氏とハリス氏が一緒に作り上げたようなものだ」と述べて、バイデン氏だけの綱領ではないと強調しました。
そして「ハリス氏は今後、経済政策やそのほかの優先事項について発表することになるだろう。ハリス氏は、今後数週間、そして数か月の間に党の政策綱領を補完していくだろう」と述べ、ハリス氏が政策綱領を補う形で独自の政策を打ちだしていくという認識を示しました。
政策綱領 経済政策を重視
民主党の政策綱領では第1章で貧困層・低所得者層の底上げと中間層への支援による経済成長を掲げるなど、経済政策を重視する姿勢を前面に打ち出しています。
綱領ではバイデン大統領とハリス副大統領の政権が発足した当初、この100年間で最悪の経済危機に陥っていたとしたうえで、その後1600万人近い雇用を創出するなど、アメリカは世界で最も力強い景気回復を果たしたとこれまでの実績を強調しています。
その上で民主党は、半導体などの重要な製品の供給網を自国に取り戻す取り組みを進めてきたとして、AI=人工知能や量子コンピューターなどの最先端の分野を責任を持ってリードしていくとしています。
インフラをめぐっては、仕事や医療などに不可欠な高速インターネットの環境が整っていないおよそ4500万人が暮らす地域で整備を進めていくとしています。
また、中間層がいまのアメリカを築き上げ労働組合が中間層を作り出したとして、よりよい賃金や労働条件を求めて団結する権利を与え、労働者の権利を侵害する経営層の責任を追及するための法律の整備や、すべてのアメリカ人の最低賃金を15ドルに引き上げるよう議会に働きかけ続けるなどとしています。
財政政策をめぐっては年収40万ドル以下の国民には増税をしない一方、現在、平均の税率が8%にとどまっている富裕層の上位1000人の最低の所得税率を25%に引き上げて、10年間で5000億ドルの税収を確保するとしています。
これらの取り組みを進めることで、国の財政赤字を今後10年間で3兆ドル削減させるとしています。
さらに綱領ではおよそ4000万人がいまだ貧困にあえいでいるとして貧困対策に取り組むと強調するなど、富裕層や大企業寄りだとするトランプ前大統領との政策の違いを打ち出し、今回の大統領選挙はアメリカにとって全く異なる2つの経済ビジョンの選択になると訴えています。
物価の引き下げを最優先課題に
政策綱領では、アメリカ経済は成長を続け賃金は上昇しているものの多くの家庭にとって生活費は高すぎるとして、物価の引き下げを最優先の課題に位置づけています。
インフレ率はピーク時のおよそ3分の1にまで低下する中、企業のコストも下がり利益は歴史的にも高い水準にあると指摘した上で、消費者に還元せず価格をつり上げる企業の責任を追及し、競争を促してガソリンや食料品など生活必需品の供給を増やすとしています。
また処方薬の価格をめぐっては、バイデン政権が糖尿病や心不全などへの治療に使われる10種類の薬の価格引き下げで製薬会社と合意したことを成果だとした上で、毎年このリストに少なくとも50種類を追加し、10年間で500種類の薬価の引き下げの実現にむけて働きかけていくとしています。
住宅の支援策については▼初めて購入する世帯に頭金として2万5000ドルを支給するほか、▼低所得者向けの住宅の建設を促進するため建設業者が対象の税額控除制度を拡充するとしています。
また▼新たな基金を創設してオフィスやホテルの空きスペースをアパートに転換するなど、州や地方自治体が供給を増やすための取り組みを支援することなどを通じて住宅不足の解消につなげていくとしています。
一方、綱領では、トランプ前大統領が外国から輸入される製品に一律の関税を導入する政策などを打ちだしていることについて、インフレ率を上昇させ、労働者層の世帯の負担を年間2500ドル増加させると批判しています。
会場周辺 イスラエル支援に抗議するデモ
民主党大会が開催されているシカゴでは19日、イスラエルへの軍事支援など民主党の中東政策に抗議するデモが行われ、数千人が参加しました。
参加者は厳重な警備が敷かれている党大会の会場周辺を行進し「アメリカはイスラエルへの支援をやめろ」とか、「民主党はパレスチナの人たちの虐殺に資金提供している」などと書かれたプラカードを掲げて、中東政策の転換を訴えました。
主催団体のファヤーニ・ミジャナさんは「ここに集った人々の力を大きなうねりにして、政治家たちに圧力をかけていきたい」と強調しました。
また、ガザ地区で親族を亡くしたという男性は「ハリス氏に代わってもよい選択肢ではない。2大政党の候補者のトランプ氏とハリス氏のどちらに投票しても、ガザの人たちのさらなる殺害に票を投じることになってしまう」と話していました。
中にはフェンスを倒して入場制限エリアになだれ込み、警察に拘束される参加者もいましたが、党大会が始まるころには、警察に排除されて解散し、大会の進行に影響はありませんでした。