トーツポテンの化かけ物もの

むかしむかしのことじゃった。誰だれも住うまなくなった古ふるい屋敷やしきのあたりに、夜よるになると化かけ物ものが出でて「トーツポテン……トーツポテン……」と言いって歩あるき回まわったそうな。このあたりの村人達むらびとたちは、大人おとなも子供こどもも皆みなおっかながって、夜一人よるひとりで歩あるくこともできん、一人ひとりで小便しょうべんに行いくこともできんかったと。

そこで一人ひとりの若者わかものが「化かけ物ものになんぞ負まけていられねえ！」と夜中よなかに出でかけて行いったそうな。すると、真まっ白しろい大おおきな体からだに一ひとつ目めのトーツポテンの化かけ物ものが出でてきて、若者わかものと睨にらみあった。若者わかものは化かけ物ものに、トーツポテンと言いいながら歩あるき回まわる訳わけを聞きいてみたんじゃと。すると化かけ物ものは訥とつとつ々と話始はなしはじめた。

この化かけ物ものは、もともとは屋敷やしきの裏庭うらにわに生うえた大おおきなキノコじゃった。ある日ひ、どこからかトチの実み（トッポ）が飛とんできて、キノコの頭あたまに刺ささったんじゃと。それが痛いたくて痛いたくて「トッポ取とって～！」と泣ないていたのが、いつの間まにか「トーツポテン」という唸うなりに変かわった。そうして頭あたまに刺ささったトッポは目めん玉たまになり、キノコは歩あるき回かいるようになったそうな。

トーツポテンの化かけ物ものの話はなしを聞きいた若者わかものは、今度こんどはお前まえの化かける力ちからを見みせてくれと持もちかけた。化かけ物ものは若者わかものが言いうとおり、見事みごとにネコや竹馬たけうまや姉様ねえさまに化かけてみせたんじゃと。最後さいごに、化かけ物ものがホカホカの納豆なっとうに化かけた時とき、若者わかものは納豆なっとうを取とり上あげ、そのままストーンと飲のみこんでしまったそうな。

さて、化かけ物ものの納豆なっとうを飲のみこんだ若者わかもの、しばらくすると腹はらがごやごやと苦くるしくなった。若者わかものが慌あわてて土手どてへ飛とんでいって、毒消どくしょうしの草くさをたらふく食くったら、ボボーンと一発大いっぱつおおきな屁へが出でたそうな。トーツポテンの化かけ物ものは、その屁へに乗のってどこか遠とおくへ飛とばされていったんじゃと。

じゃからな、化かけ物ものなんぞ怖こわいもんでねえよ。誰だれじゃ、夜中一人やちゅうひとりで小便しょうべんに行いかれねえなんて言いっているのは。