昔、小間物の行商をして歩く一人の男がいた。その男の荷物には、一匹の女郎蜘蛛(じょろうぐも)が住みついていた。
男は里に向けて峠を歩いていたのだが、急な雨に降られ、峠の途中にあるお堂に駆けんだ。すると、お堂の隅の暗がりに一人の旅芸人の女が座っていた。
男は、女とお酒を飲みながら世間話などをしていたが、その女が半年前に助けた女郎蜘蛛の化身であることに気が付いた。しかし怖がることもなく、「まぁこれも旅の醍醐味ってもんだ」と笑った。やがて男は、女の弾く三味線の音を聞きながらウトウトと寝入ってしまった。
女は、正体がバレテしまったので掟に従い男を殺そうとするが、すっかり男に惚れてしまっていたので殺すことができず、自分の方が死ぬ事を決意する。
朝になり男が目を覚ますと、一匹の女郎蜘蛛が死んで転がっていた。男には蜘蛛が死んだ理由は分からなかったが、丁寧に弔ってあげて、里に向け出発した。