この地域には先月末現在で、町の全人口のおよそ65%に相当する1455世帯3613人が住民登録しています。
しかし、除染などのために900棟余りの建物が解体され帰還を諦めた人も多く、19日までに準備宿泊を申請したのは11世帯15人にとどまっています。
このうち大沼勇治さんの自宅には、午前10時半ごろ、双葉町など浜通りの5つの町でつくる水道企業団の職員が訪れ、大沼さんが見守る中、水道の元栓を開けました。 作業が終わると、大沼さんは家の外の水道の蛇口をひねり、水が出ることを確認していました。 大沼さんの自宅では、20日、電気も使えるようになり、妻と子どもとともに今月29日に準備宿泊するのを前に、生活環境が整いました。 大沼さんは「10年10か月ぶりに電気や水道が通って感動しました。家族で準備宿泊して、ここで『なみえ焼きそば』を作って、地元の味を最初の夕飯にしたいです」と話していました。
JR双葉駅の東口広場で行われた出動式には警察官や消防署員、それに町から委託を受けた警備会社の担当者などおよそ30人が出席しました。 双葉町の伊澤史朗町長が「双葉町を守っているという意識をもって活動にあたっていただきたい」とあいさつしました。 双葉警察署浪江分庁舎の石井弘敬所長は「準備宿泊する方々が安全と安心を感じながら、生活再建につなげられるよう、住民のための実効あるパトロールを継続していきたい」と述べました。 避難先で防犯活動を続けてきた地元住民らのグループ「浪江地区防犯指導隊双葉分隊」の波田野秀行隊長が、町内での活動開始を宣言しました。 そして、警察官や消防隊員らが車に乗り込み、早速パトロールに出動していきました。
準備宿泊を希望している住民の自宅にも水道がまだ通っていないところがあるほか、食料品や日用品を買うことができる場所は十分にありません。 また震災前、町内に5つあった医療機関は現在、再開する見通しが立っておらず、町はJR双葉駅の近くに新たな診療所を作る計画ですが、しばらくは町外の医療機関を利用する必要があります。
これまでに建設業や製造業など町外から新たに進出する13件を含めて20件の企業の立地が決まっています。 町は働く場を確保することで、避難した住民が帰還しやすい環境を整えたうえで、産業団地で働く新たな住民を迎えて、町の人口を増やしていきたい考えです。 一方で、福島第一原発周辺の相双地域の有効求人倍率は去年11月時点で1.85倍と県全体の平均の1.38倍を大きく上回っていて深刻な人手不足が続いています。 復興事業などで求人は多いものの避難指示が解除されたあとも地元に戻らない人が多いためで、産業団地の企業と働きたい人のマッチングをいかに進めるかが課題になります。
周辺の自治体の住民帰還が始まる中、おととし3月、町の北東部など面積にして5%にあたる地域の避難指示が解除されましたが、インフラの整備など、住民が戻って暮らす環境は整っていませんでした。 ことし6月には、帰還困難区域のうち、先行して除染やインフラ整備を進めているJR双葉駅周辺で避難指示を解除する予定で、北東部の地域とあわせて住民の帰還を始めることを目指しています。 一方、残る地域では避難指示解除の時期は決まっていませんが、国は去年8月「2020年代に希望する人が帰還できるように住民の意向を確認したうえで、必要な箇所を除染し、解除の取り組みを進める」という方針を決めています。
ただ、帰還の状況は、解除された時期によって大きな差があります。 1月1日時点で、避難指示が解除された地域に住民登録している人のうち、実際に住んでいる人の割合は ▼2015年9月に解除された楢葉町が62%、 ▼2016年7月に避難指示が解除された南相馬市は58%と、 比較的早く解除された地域で高くなっています。 一方で、 ▼2017年3月に解除の浪江町は11%、 ▼2017年4月に解除の富岡町は21%と、 解除が遅かった自治体では、低い状況にとどまっています。 去年、復興庁が双葉町の住民を対象に帰還への意向を聞いた調査でも、 ▼「戻りたいと考えている」が11.3%だった一方、 ▼「戻らないと決めている」が60.5%、 ▼「まだ判断がつかない」は24.8%となっていて、 原発事故から11年近くがたち、避難先での生活が定着する中、住民の帰還を進めることはますます厳しくなっています。
準備宿泊に合わせて水道や電気も開通
住民と連携のパトロール 出動式
生活インフラ 十分に整わず
帰還促進策で20件企業立地へ
6月には駅周辺で避難指示解除予定も 残る地域は時期決まらず
避難指示解除 遅いほど帰還厳しく