内戦が続いてきたシリアでは11月下旬以降、攻勢を強めた反政府勢力が8日、首都ダマスカスを制圧し、親子2代、半世紀あまりに及んだ独裁的なアサド政権が崩壊しました。
その後も大きな混乱は伝えられておらず、ロイター通信は10日には中央銀行や民間の銀行が業務を再開する予定だと伝えていて、日常生活を取り戻す動きも広がっています。
こうした中、反政府勢力は9日、SNSで「シリア解放機構」のジャウラニ指導者がシリアのジャラリ首相と会談した様子を動画で投稿しました。
そのうえで、「新政府の立ち上げができしだい、その務めを開始する」として、新政権の樹立を急ぐ考えを示しました。
また、反政府勢力は9日、「徴兵期間中のすべての兵士に対して恩赦を出す。命は守られる」と発表し、政府軍の徴兵制度によって軍務についた兵士に寛容な姿勢も示しました。
内戦で疲弊した国民に対して融和的な対応を打ち出し、動揺を抑える狙いもあるとみられています。
ただ、過激派組織の「シリア解放機構」は国連などからテロ組織に指定されているだけに、どのような統治を目指すのか不透明な状況です。
混乱をもたらさずに平和的な政権移譲が進むかどうかが焦点です。
現地の日本人「国際社会の関心継続と支援を」
ダマスカスで勤務するユニセフ=国連児童基金、シリア事務所の根本巳欧 副代表は、9日、ダマスカス市内からNHKのオンラインインタビューに応じました。
根本さんは政権が崩壊した8日前後の街の様子について、「前日7日は、レストランなども開き、いつも通りの様子だったが、夜から人々の警戒度が上がったように感じた。8日の未明に銃声が聞こえて目が覚め、爆発音や銃声が一日中聞こえていた。刻々と変わる状況に、追いつくのがとても大変だった」と話していました。
根本さんが滞在しているホテルは高台にあり、ダマスカスの街なかを見通せるということですが、黒い煙がもくもくと上がる様子も確認できたということです。
政権崩壊から一夜明けた9日は銃声は減ったものの、爆発音や空爆の音が聞こえたということです。
また9日の日中、根本さんは短時間外出したということで、前日は閉まっていた商店がいくつか開いているなど、日常をとりもどしつつあるような動きも見えたということです。
一方で、ダマスカスでは学校が8日から休校となっているほか、医療従事者が出勤できず業務ができない保健施設もあるとしています。
ユニセフの活動についても市内では安全状況を見極めている状態で、ダマスカス以外では安全が確保できた場所から活動を再開しているということです。
根本さんは、「今回の混乱が社会に必要不可欠なサービスへのアクセスを難しくする懸念がある。すべての当事者に子どもの命を守ることを求め、政権が変わっても、関係者と話しながら社会サービスを提供したい」と話していました。
そのうえで、「シリアの子どもたちは十分苦しんできた。この政権交代は、ある意味で、子どもたちにとって将来に希望を与えるようなチャンスになるとも思うので、国際社会の関心の継続と支援をお願いしたい」と訴えていました。
イスラエル軍 シリアで空爆継続
イスラエル軍のラジオ局が伝えたところによりますと、イスラエル軍は9日、8日に続いてシリア国内で空爆を続け、この24時間で100か所以上の標的を攻撃しました。
カッツ国防相は9日、崩壊したアサド政権が保有していた兵器が反政府勢力の手に渡らないようにするため、シリアにあるミサイルなど戦略的な兵器の破壊を進める方針を示していて、この方針に沿った空爆を行っているとみられています。
米国務長官「真の尺度は何をするか」
アメリカのブリンケン国務長官は9日、首都ワシントンで行われた式典での演説で、シリア情勢をめぐり、「歴史的なチャンスだが、同時にかなりのリスクもはらんでいる。過激派組織IS=イスラミックステートはこのタイミングを利用して自分たちの能力を再構築し、安全な陣地をつくろうとするだろう。われわれはそのようなことはさせない」と述べ、政権崩壊の混乱でISが再び勢力を拡大しないよう対応すると強調しました。
そして「民間人を保護し、人権を尊重するなど、包括的な統治を構築することが不可欠だ。反政府勢力の指導者がこれらの目的に沿った声明を出すことは歓迎するが、真の尺度は何を言うかではなく、何をするかだ」と述べ、反政府勢力の行動を注視する考えを示しました。
米大統領補佐官 イスラエル訪問へ
アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は、9日、サリバン大統領補佐官が今週、イスラエルを訪問することを明らかにしました。
シリアの最新情勢やイスラエルとイスラム組織ハマスとの間の停戦と人質の解放に向けた協議、レバノンとイランの情勢をめぐってイスラエル政府の高官などと意見を交わすとしています。
ヨーロッパ各国 難民受け入れを一時停止
アサド政権が崩壊したことを受けて、ヨーロッパでは難民受け入れの審査を一時的に停止する動きが相次いでいます。
最も多くのシリア出身の人が暮らすドイツは9日、シリアからの難民受け入れの審査を一時的に停止すると発表しました。
ドイツのフェーザー内相は声明で、多くの難民が祖国への帰還に希望を持つことができるようになったとしながらも、シリアの先行きはまだ不透明だとしています。
その上で、「状況がより明らかになるまで、難民を受け入れるための審査を一時的に停止する」と説明しました。
イギリスやベルギーもシリアからの難民の認定手続きを一時的に停止することを決めたほか、スウェーデンやフランスも近く、同様の措置を決定することにしています。
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のグランディ難民高等弁務官は、9日、声明を発表し、「多くの難民は安全に帰還できるかどうか見極めている」とし、引き続き支援していくことが必要だと強調しました