混み合ったコンパの席で友人と話をしているとき、耳に入ってくるのは友人の声だけではない。周囲で交わされる会話や食器のぶつかる音があり、BGM さえ流れている。そんな喧噪(けんそう)の中でも、友人の話に耳を傾け、その内容を理解することが可能である。このような例をあげるまでもなく、私たちの耳には通常たくさんの情報が同時に入力されている。それでも私たちが混乱しないのは、注意を選択的に振り分ける選択的注意ができるからである。注意を向けられた情報は深い処理を受け、そこで初めて理解されることになる。 しかし処理されているのは注意を向けられた情報だけではない。友人の話に耳を傾けていても、BGM がピアノからギターに変われば、その音色の変化に気づくし、他の人から自分の名前を呼ばれたことにも気づく。この場合の情報処理は、意図的な制御を受けない自動的処理である。ここでは情報の物理的な特徴(声の質、口笛などの信号、名前など)が処理され、情報内容の深い理解は伴わない。これに対して、喧噪の中で友人の話が理解できるのは、注意的処理とよばれ、情報処理の意図的な制御を行っている。注意的処理では、記憶構造内の知識が検索され、情報の深い理解を可能にしているのである。