経団連はデフレ脱却を目指す安倍総理大臣の要請に応じ、賃上げの水準として「3%」という数値目標を初めて打ち出しました。
経団連によりますと、過去4年間の大企業の月給ベースの賃上げ率は2%台にとどまっていて、好調な企業業績を踏まえ、去年までの水準を上回る賃上げが実現するかがことしの焦点となります。
一方、連合は従業員全体の基本給などを引き上げる「ベースアップ」に相当する分だけで2%程度を基準に賃上げを要求するとともに、非正規や中小企業で働く人の格差是正や長時間労働の是正に向けた環境整備など、「働き方」の見直しも重要課題として経営側と交渉する方針です。
春闘は組合側の要求に対して大手企業が相次いで回答を出す3月をヤマ場に交渉が進められます。
経団連が初の数値目標
経団連が賃上げの数値目標を掲げるのは、長い春闘の歴史の中でも初めてのことです。
春闘は過去4年間、政府が経済界に繰り返し賃上げを要請する「官製春闘」が続いてきました。今回、安倍総理大臣は、これまでの実績を上回る3%の賃上げを経済界に重ねて求めました。
大幅な賃上げによって「経済の好循環」を生みだし、ことしこそ「デフレ脱却」を確実なものにしたいという狙いがあります。
大企業に対しては、ここ数年、円安などを背景に収益が過去最高を更新し続けているのに、もうけを「内部留保」という形でため込んでいるという批判も出ています。
財務省の統計では、昨年度の企業の内部留保は過去最高の406兆円に達していて、もっと賃上げをして従業員に還元すべきだというのです。
こうした声が強まる中、経団連はデフレ脱却を実現するには政治と経済が足並みをそろえる必要があるとして、春闘の方針に初めて3%という数値目標を明記することになったのです。
「3%」は高いハードル
経団連はデフレ脱却を目指す安倍総理大臣の要請を受け入れたものの、3%という賃上げの水準は極めて高いハードルと言わざるをえません。
多くの大企業は、これまで4年連続で賃上げを実施しましたが、経団連の集計によりますと、月給ベースでの賃上げ率は2%台にとどまっています。
バブル期には4%を超える上昇が見られましたが、24年前の平成6年に3.1%を記録して以降、3%の水準に達したことは一度もありません。
平成6年当時は、日本経済が長いデフレの時代に突入する前の状況にあたり、3%の賃上げの実現がデフレ脱却のカギを握ると見る専門家もいます。
大企業は去年、金額で見ると定期昇給とベースアップを含めて平均で7755円、率にして2.34%の賃上げを実現しました。
内訳を見ますと、定期昇給が1.9%程度を占め、残りの0.3%から0.4%程度がベースアップとなっています。定期昇給分はほとんど変動しないため、3%の実現にはベースアップの大幅な上積みが欠かせません。
基本給を引き上げるベースアップは、ボーナスや退職金などの算定にも連動し、いったん実施すると将来にわたって人件費が増えることになります。
このため、多くの経営者がベースアップには慎重ですが、好調な企業業績を背景に、どの程度の水準の賃上げが実現するかが春闘の焦点になります。
専門家「ハードルは高い」
ことしの春闘について、雇用問題に詳しい日本総合研究所の山田久主席研究員は「安倍総理大臣が3%の賃上げを要請し、それを受けて経済界も3%という数字を明記した。ここ2年くらいは賃上げ率が鈍化していたが、経済環境がかなりよくなってきている中で、3%に向けて再び賃上げ率が上がっていくかが最大の焦点だ」と指摘しています。
そして、3%という賃上げ率については「月給ベースで見れば3%を超えていたのは1994年以前の話で、物価が上がる状態が普通と思われていた時代だ。日本は90年代後半以降、デフレでモノの価格が下がるのが当然という社会になったが、この状況を普通の経済に戻していくという意味では、3%は象徴的な数字だ」と述べ、3%の賃上げが実現するかどうかはデフレ脱却のカギになるという見方を示しました。
そのうえで、「月給で3%の賃上げは、ことしはかなりハードルは高いと思うが、ここ数年のうちに達成することは可能だと思う。賃上げの原資は企業が生産性を上げて収益を向上させることなので、経営者が新事業を作ったり、従業員のほうも新しい技能を身に付けたりといった努力が必要だ」と話しています。