欧米で報告されている原因不明の急性肝炎の可能性がある患者が国内で確認されたのは初めてでした。
「原因不明」というのは、A型からE型まで5種類ある肝炎ウイルスが検出されないのに、子どもが肝炎になっているためで、厚生労働省は各地の自治体に対して、2021年10月までさかのぼって、検査で肝臓の酵素の値が高くなっていた16歳までの子どもがいないか調べて報告するよう求めています。
その後、4月28日にも2人報告され、この肝炎の可能性がある患者は合わせて3人となっています。
肝臓は、体に必要なたんぱく質などを作って栄養素をためたり、有害な物質を解毒したり、食べ物を消化するのに必要な胆汁を作ったり、と幅広い役割をになっています。 急性肝炎は子どもから大人までかかる病気で、一般的に、ウイルスによって引き起こされ、肝臓の機能が低下し、 ▽皮膚などが黄色くなる「おうだん」や ▽おう吐、 ▽全身の倦怠感、 ▽発熱などの症状を引き起こします。 国立国際医療研究センターのウェブサイトによりますと、1%から2%ほどの患者は急激に悪化し、中には肝臓移植が必要になることもあるとしています。
ただ、特に乳幼児ではあまり症状が出ないことが多く、原因がはっきりしない場合は、ビタミンを投与するといった対症療法で対応し、ほとんどは短期間で肝臓の機能が改善することということです。 通常、悪化するケースは少なく、「おうだん」が悪化すると脳に障害が出ることがあるほか、肝機能が極端に低下すると出血を止めるたんぱく質を作ることができなくなり、極めてまれに肝臓の移植が必要になることもあるということです。 今回の原因不明の急性肝炎は、子どもでも症状が比較的重く、通常の肝炎とはやや特徴が異なっています。
▽肝臓の酵素の値が高くなっていて、 ▽尿の色が濃くなったり、 ▽便の色が薄くなったりするほか、 ▽皮膚などが黄色くなる「おうだん」や、 ▽下痢、 ▽おう吐、 ▽腹痛、 ▽関節痛や筋肉痛といった症状が出る一方、発熱した子どもはほとんどいないということです。 イギリスやアメリカの詳細な症例報告では、患者の多くはおう吐や下痢、それにおうだんの症状が出ていて、重症になった子どもでは肝臓の移植が必要になったケースも複数報告されています。
症状が出ているのは、生後1か月から16歳までの子どもだとしています。 このうちのおよそ10%にあたる16人は肝臓移植を受け、1人が亡くなったとしています。 患者の年齢は10歳未満が大多数で、およそ半数は3歳から5歳だということです。
WHOの専門家は、症状が出た子どもたちから、▽A型からE型まで5種類ある肝炎のウイルスや▽細菌や▽毒物、▽薬物など、通常、原因になると考えられるものは見つかっていないとしています。 WHOによりますと、原因不明の子どもの肝炎は、多くの国で毎年数例ずつ起きているということですが、いくつかの国では明らかに増加しているのが認められるとして、症例の報告を求めるとともに各国の研究機関とともに原因の調査を進めるとしています。
WHOによりますと、症状が出た子どものうち、少なくとも74人からアデノウイルスが検出されていて、18人がアデノウイルスのうち、41型と呼ばれるウイルスに感染していたということです。 また、19人についてはアデノウイルスとともに新型コロナにも感染していました。 一般にアデノウイルスは接触や飛まつを通じて感染し、主に、喉の痛みなど呼吸器の症状が出ますが、アデノウイルス41型は呼吸器の症状とともに下痢やおう吐などの症状が出るということです。 ただ、免疫の状態が落ちている子どもたちがこのウイルスに感染した場合に肝炎になったとする報告はあるものの、健康な子どもたちに肝炎の症状が出るという報告はないとしています。 WHOは、新型コロナの感染が世界的に拡大して以降、▽アデノウイルスの感染が減っていたため、アデノウイルスに感染しやすくなっていることや▽新たなタイプのアデノウイルスの可能性などを調べる必要があるとしています。 一方で、症状が出た子どもの大多数は新型コロナのワクチンを接種していないため、ワクチンの副反応だとは考えにくいとしています。
アデノウイルスは検査を受けた53人のうち、40人から検出されたということです。 また、61人中10人からは新型コロナウイルスも検出されています。 一方、報告された子どもで新型コロナのワクチンを接種した人はいなかったということです。 イギリスの保健当局は仮説として▽「アデノウイルスとの関連」が最も有力だとしたうえで、▽「アデノウイルスと新型コロナウイルスやほかの病原体との同時感染によるもの」、▽「重い肝炎を起こす新たなアデノウイルス」の可能性についても調査をしているとしています。
CDCは「アデノウイルスが原因の可能性があるが、このほかの環境的な要因などについても調査をしていく」としています。
田尻医師によりますと、通常の診療では、子どもの肝炎が分かった場合、A型からC型の肝炎ウイルスの検査は行うものの、それ以上の検査を行うことはまれで、原因がはっきりしないケースは多いということです。 一方で、アデノウイルスは遺伝子治療の際に、遺伝子をねらった場所に運ぶために使われることがあり、このときに血管に入ってしまうと、肝臓に集まることが知られています。 ただ、遺伝子治療で使われるアデノウイルスと、今回検出されているアデノウイルスはタイプが異なります。
そのうえで「国内でも小児の重症肝炎が増加している兆候はない。また、可能性のある原因の1つとして挙げられているアデノウイルスが国内で通常想定される以上に流行している兆候もない」としていて、いまは症例があるか調べる段階だとしています。
そのうえで「ここ数年で小児の急性肝炎が増えているような印象は持っていない。WHOが提唱している基準で報告を求めている国の調査は注意して見ていく必要があるが、幅広い症状の患者が当てはまる可能性もある。原因不明の重症の肝炎が子どもで増えているのか、研究会として詳細に調査したいと考えている」と話しています。 また、田尻医師は「WHOが情報発信をしているので、状況を確認することは大切だ。ただ、欧米で報告されているようなケースが日本で相次ぐかどうかは分からず、それほど怖がらずに様子を見てほしい」と話しています。 そのうえで、何か気をつけることはあるのか。
1.急性肝炎とは?
子どもがかかる場合は…
2.子どもがかかった場合どんな症状が?
症状が出た子どものうち約10%が肝臓移植を受けることに
3.原因は?
アデノウイルスが原因か?新型コロナウイルスとの関連は?
英 保健当局「最も共通する要素として『アデノウイルス』」
4.日本の専門家 “アデノウイルス 今の段階では断言できない”
国立感染症研究所「急速に感染者増加する状況ではない」
5.わたしたちが気をつけることは?
「症状が出たらすぐに医療機関に」「手洗いをしっかり」