一方、先月の調査では「選挙の結果、選ばれた大統領に正当性を見いだすか」との質問に、「そう思う」「そう強く思う」と回答した人は49%にとどまり、選挙の公正さに疑問を抱いている人が多くいることもわかりました。
背景には、ウイルス対策の強化か経済活動の再開かをめぐって社会の対立が深まっていることや、人種差別の抗議デモに乗じた略奪や放火が一部で起きていることがあると見られています。
さらに、感染拡大の結果、大幅に増えている郵便投票について、トランプ大統領が「不正が行われている」と繰り返し主張し、トランプ大統領の支持者のあいだでも同様の受け止めが広がっていることもあると見られます。
銃の販売が増加
こうした状況のもと、銃の販売が増えています。
FBI=連邦捜査局などによりますと、銃の販売件数のバロメーターとなる、購入の際に求められる身元調査の件数が、ことしは、例年より高い水準で推移しているのです。
2月まで、200万台後半だったのが、3月以降、増加し、人種差別への抗議デモが広がった6月には390万件にのぼったほか、8月も300万件を超えました。また、全米射撃スポーツ財団によりますと、銃の購入者のおよそ40%は、これまで一度も銃を買ったことがない人だということです。
さらに、ことし初めて銃を購入した人のうち、40%は女性で、これはおととし(2018年)と比べると20ポイント高く、黒人の購入者も増えています。
州別で見ると、とりわけ、増加が著しいのが激戦州の中西部ミシガン州です。ことし1月末におよそ4万7000件だったのが、9月末時点では10万件余りとおよそ2倍に増えています。
背景には、社会の対立の先鋭化から、選挙後に混乱が広がることを懸念する人が増えていることがあると指摘されています。
中西部ミシガン州で混乱が懸念される背景にあるのが、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐるトランプ大統領と地元のホイットマー知事の対立、そして過激なグループの不穏な動きです。
ミシガン州では民主党のホイットマー知事が感染防止対策として外出や店舗の営業を厳しく制限したことに対し、トランプ大統領は経済活動の再開を主張してこれを批判し、ことし4月、ツイッターに「ミシガンを解放せよ」などと投稿しました。
その数日後、州都ランシングで制限に反対する抗議デモの参加者が銃で武装して庁舎に立ち入る事案が発生。知事に反発する保守的なグループの過激化への懸念が高まりました。
そして今月、FBI=連邦捜査局などはホイットマー知事の拉致を企てたなどとして、2つの過激なグループのメンバー合わせて13人を訴追しました。
このうち1つのグループは知事を自分たちの手で裁判にかけるとして、銃などで武装し、事前に訓練したり下見を繰り返したりし、もう1つのグループは警察官に攻撃を仕掛けて内戦を引き起こすことをもくろんでいたということです。
事件を受けてホイットマー知事はトランプ大統領がこうした過激なグループを明確に否定しないことが影響していると主張。
大統領が9月のテレビ討論会で白人至上主義を掲げる過激なグループを非難するかどうか問われた際、「下がって待機せよ」と発言して、明確に糾弾しなかったと指摘し「こうしたグループはこれを行動への呼びかけだと捉えた」と批判しました。
またミシガン州政府は大統領選挙を巡ってトランプ大統領を支持する一部の保守層が投票所で威圧的な行動を取ることに懸念も出るなか、投票所やその周辺で銃などの武器を見える形で所持することを禁じる措置を発表しました。
これに対して反発する住民の一部が訴訟を起こし、裁判所は州政府の手続きが不十分だったとして措置を差し止める判断を示し、対立が続いています。
こうした中トランプ大統領はみずからが主張してきた「選挙での不正」を防ぐためとして、開票所にボランティアの監視員を配置するとしていて、大統領と知事の対立のなか投開票日に混乱が起きないか懸念する声も出ています。
銃販売店は大繁盛
ミシガン州最大規模の銃砲店を経営するエド・スワディシュさんは、例年、銃の販売はクリスマスシーズンに最も増えることになぞらえて、「ことし3月以降はクリスマスシーズンがずっと続いているようなもので、とてつもない販売数に上っている。人々は自分や家族の安全を心配している」と話していました。
また、この銃砲店に併設される射撃場では、初めて銃を買った人々向けの教室や個人レッスンの要望も大幅に増えているということです。
民主党支持層も銃購入を検討
ミシガン州で4人の子どもと家族6人で暮らすジニーン・ガスパーさんも(41)銃の購入を検討した一人です。
民主党のバイデン氏を支持するガスパーさんは、これまで銃には一切関心がありませでしたが、社会の分断の深まりを背景に、選挙の結果がどうなろうと、落選した候補の支持者が結果を受け入れられず、混乱を引き起こすのではと感じ、購入を考えたということです。
ガスパーさんは、「ここ数年で時代は変わってしまいました。私のような人間が銃の購入を考えなくてはならないような状況であってはいけないのです。近くに住む人が同じ意見を持っていないからという理由だけで、選挙後に何が起きるか心配しなくてはいけないというのはとても悲しいことです」と話していました。
集会には武装した人の姿も
さらに、ミシガン州内で開かれる、抗議集会では、武装した参加者が目立ち始めています。
今月24日、ミシガン州アレンデールで開かれた、トランプ大統領を支持する保守派の集会をNHKの取材班が訪れたところ、民兵組織のメンバーなど、自動小銃で武装した人が多く参加していました。
そのすぐ近くで開かれていた、民主党のバイデン氏を支持するリベラル派の集会。これまでは武装した人はいなかったということですが、この日初めて、衝突に備えて自動小銃で武装した参加者の姿が確認されました。
社会に異様な緊張感がただようなか、大統領選挙は11月3日に投票日を迎えようとしています。
専門家「最悪のシナリオは全米各地で暴動」
ミシガン大学のアレクサンドラ・スターン教授はミシガンで懸念される過激なグループの動きについて「トランプ大統領はみずからの発言やツイートで白人至上主義者などをあおっている。『ミシガンを解放せよ』などというツイートは大統領が敵対視する民主党の州知事に対して、反乱を起こせという過激なグループへの犬笛だ」と述べて、トランプ大統領の発するメッセージが影響しているという見方を示しました。
そのうえで選挙の結果にかかわらずこうした懸念はなくならない可能性があるとして、「トランプ大統領が勝利しようがしまいが社会不安や過激な白人至上主義者などはいなくならないだろう。もし当選すれば、彼らは自分たちの立場が正当化されたと考えるだろう。落選すれば不満をつのらせ、民主的でない行動に出るおそれもある」と述べました。
さらに「最悪のシナリオは全米各地で暴動が起きることだ。そしてトランプ大統領が戒厳令を出せば、独裁主義的な状態に陥るおそれもある」と述べ、トランプ大統領が敗北した場合には混乱がおきるおそれがあると指摘しています。