群馬や埼玉など関東ではことし豚や牛などの家畜や果物が盗まれる事件が相次ぎ、豚だけで800頭以上が被害にあっています。
一連の盗難事件について警察が捜査を進める中で、群馬と埼玉で先月下旬からベトナム人が相次いで逮捕されました。
このうち群馬県太田市で不法に滞在していた疑いなどで逮捕された男女13人の住宅からは、捜索で冷凍された30羽余りの鶏が見つかりました。
リーダー格の39歳の男のものとみられるSNS上で、豚などの売買についてやり取りしていた疑いがあるということです。
さらに不法に豚を解体した疑いで群馬県太田市で4人、埼玉県上里町で1人がそれぞれ逮捕され、これまでの調べに対し「SNSを通じて豚を買って解体して食べた」という趣旨の供述をしているということです。
大半は技能実習生として入国したあと在留期限が切れていて、このうち一部は新型コロナウイルスの影響で仕事が無くなり帰国もできなかったとみられています。
警察はグループの関係性を捜査するとともに、一連の盗難事件との関連についても捜査しています。
相次ぐ家畜や果物の盗難
関東ではことし、家畜や果物が盗まれる被害が相次いでいます。
群馬県では豚が710頭余り、鶏が140羽余り、牛が2頭、梨がおよそ5700個。
埼玉県では豚が130頭余り、鶏がおよそ230羽、あいがもがおよそ100羽、ヤギが12頭、梨がおよそ5150個。
栃木県では牛が6頭、桃がおよそ3700個。
茨城県では豚が1頭、柿がおよそ1100個、スイカがおよそ610個、梨がおよそ310個などです。
被害にあった養豚農家は
群馬県太田市の養豚農家の男性は、ことし8月、豚舎から出荷直前の豚が2頭と子豚が50頭盗まれたということです。
男性は「群馬県の被害頭数は半端な数ではないから、関わったグループはひと組やふた組ではないだろう。実際に盗んだグループが何組か逮捕されればいくらか落ち着けるかもしれないので、早く捕まえてもらいたい」と話していました。
また「日本に来たベトナム人が仕事がない状態なのはかわいそうで、同情はいくらかできる。ただ、仮に人のものを盗んで売るなどしていたとしたら、二度としてほしくない」と話していました。
不法滞在などの疑いで13人
相次ぐ家畜や果物の窃盗事件の捜査の中で、群馬や埼玉で別の事件で逮捕されたベトナム人は大半が技能実習生として入国していました。
捜査関係者によりますとこのうち群馬県太田市で不法に滞在していた疑いなどで逮捕されたベトナム国籍の20歳から39歳の男女13人は、2013年から去年にかけて日本に入国しました。
このうち10人は技能実習生として入国し、残る3人は留学や短期滞在が目的でした。
その後おととしからことし9月にかけていずれも在留期限が切れていて、警察の調べに対し一部は「新型コロナウイルスの影響で職を失った」とか、「コロナの影響で飛行機が飛んでおらずベトナムに帰れなかった」などと供述しているということです。
もともと茨城や熊本など群馬県外に滞在していて、ベトナム人のコミュニティーのSNSを通じて知り合ったとみられ、警察は新型コロナウイルスの影響で生活に困窮し、共同生活を送るようになったとみています。
13人のなかでリーダー格は自称、カラオケ店経営の39歳の男で、滞在していた太田市の住宅近くの配送センターでは、この男の名前と、品名の欄に「肉」や「果物」と記載された宅配伝票が見つかりました。
警察は男が配送していたとみていて、豚や果物を入手し転売するなどしていた可能性もあるとみて調べています。
同じ群馬県太田市ではアパートの部屋で不法に豚を解体したとして、ベトナム国籍の技能実習生4人が逮捕されました。
埼玉県上里町でも不法に豚を解体したとして技能実習生として入国したベトナム国籍の29歳の男が逮捕されています。
これまでの調べに対し、それぞれ「SNSを通じて豚を買い、解体して食べた」という趣旨の供述をしているということで、警察は豚の入手先などを調べています。
逮捕のきっかけはSNS
群馬県太田市で不法に滞在していた疑いなどが持たれているベトナム国籍の男女13人が逮捕されるきっかけとなったのはベトナム人コミュニティーのSNSでした。
捜査関係者によりますと、SNSのアカウントはリーダー格で自称、カラオケ店経営の39歳の男のものとみられ、ベトナム語で「群馬の兄貴」を名乗り、解体した豚や果物の画像、それに値段も投稿していました。
SNS上で豚などの売買についてやり取りされていた疑いもあるということですが、ことし8月、家畜の盗難事件が各地で明らかになったのと同じ時期に多くの投稿が削除されたということです。
一方、同じく太田市で不法に豚を解体したとして逮捕されたベトナム国籍の男4人が住んでいたアパートの部屋からは、捜索で豚の肉の塊や包丁などが見つかっています。
4人のものとみられるSNS上には、アパートの自転車置き場で子豚を焼いたとみられる画像が投稿されていました。
ことし7月に投稿されたもので、子豚に竹のような棒を刺しゆっくり回しながら焼いている様子が確認できます。
アパートの近くに住む男性は、「梅雨の終わりから夏にかけて豚を焼いているのを見た。豚に棒が刺さっていて丸焼きだった。焼いていた人たちは外国人で4、5人だったと思う」と話していました。
ベトナム人男性は
群馬県太田市で不法滞在の疑いなどで逮捕されたベトナム国籍の男女13人と同じ住宅で生活していたベトナム人の男性がNHKの取材に応じました。
男性はいまも同じ住宅で生活していて、「コロナのせいで仕事を失いました。『仕事がないので働き口を紹介してください』とSNSに書き込みました。そうしたら、兄貴から『こちらに来てください。助けてあげる。住む場所を提供してあげる。俺が食べるものを分けてあげる』と言ってくれました」と話していました。
一方、相次ぐ豚の盗難事件に13人が関与しているかについて聞くと、男性は「よく知らないけど、ありません。絶対にありません」と答えました。
複数のグループが関与か
警察は複数のグループが一連の盗難事件に関与していた疑いがあるとみて捜査を進めていますが解明されていない点もあります。
これまでの捜査で不法滞在の疑いなどで群馬県太田市の13人が豚を不法に解体した疑いで群馬県太田市の別の4人と埼玉県上里町の1人が逮捕されています。
大半は技能実習生として入国していたベトナム人で、警察はそれぞれのグループがSNS上で接点がなかったかなど捜査を進めています。
逮捕されたベトナム人らが、家畜や果物の一連の窃盗事件に関与していたかどうかは分かっていません。
警察は住宅の捜索で見つかった鶏や不法に解体していたとされる豚をどのように入手していたか、そしてほかのグループが事件に関与していないかについても引き続き捜査しています。