この中で伊藤教授は東京のラーメンの価格はニューヨークの4分の1と紹介し、日米の金利差の拡大を背景に円安が進んだことに加えて、過去の長い期間、日本でデフレが続いたのに対し、欧米ではインフレが続き、物価の差が広がったと分析しました。
また、参加者が「海外からの投資の増加につながるのか」と質問したのに対し、伊藤教授は「今後は増えていくだろう」と答えていました。 伊藤教授は「日本が安くなったのは長い期間じわじわと進行してきたことだ。体力そのものを上げていかないと安い日本は変わらない」と話していました。 主催したコロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所のデイビッド・ワインスタイン所長は「多くの人が日本から物を買っているので、なぜ日本が安くなったのかという問題はアメリカ人にも関心がある」と話していました。
日本でもようやくそれに気がついて日本が「安くて」買われてしまうのではないかと心配する人もいて、海外に旅行に行った時に物が買えなくて大変だとなっている。 しかし、よくよく見ると日本が「安く」なったのは、かなり長い期間じわじわと進行してきたことだ。 日本が高かったのは1990年代半ばで、長期的に下がってきている。直近の円安だけでは説明できないことだと訴えたくて講演に至った。
これの直接的な説明は日米の金利差の拡大ということで、日本ではまだ物価上昇率が低いということと、景気が完全には戻っていないということで、日銀が金融緩和を継続していて金利が一定で変わっていない。 それに対してアメリカは物価上昇率が8%を超えていて、これは大変だということで、インフレを抑えるために中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が金利を上げてきた。 そこで金利差がどんどん開いていって、この金利差にひかれて日本から資本が動いている、ドルを買って円を売って円安が起きているということがいちばん重要なポイントだと思う。
物価上昇率の格差によって日本が「安く」なっていくということが起きていた。日本に住んでいたらほとんど実感しないわけですね。 しかし、アメリカと日本の同じ物の物価を比べると日本がどんどん「安くなっていた」ということがかなり長い期間続いた。長期的には物価上昇率の格差が、ボディブローのように効いたということ。
むしろ値下げ競争も起きてコストを削って値段を下げて顧客を獲得しようとする企業や業種がかなり多くあった。 もう1つは、デフレの期間があまりにも長く続いたために価格は上がらないものだと思い込んでしまった消費者がどんどん増えてきて、少しでも値上げすることに対して拒否反応を示すようになっていって、ますます企業は価格を上げられないという状況が発生した。 今はいろんなコストが上がりすぎて一斉に値上げするような新しい局面に入っていると思う。
一方、賃金も、交渉する時に物価が2%上がっているんだから賃金も最低2%上がらないと暮らしていけませんよねということで、2%プラスマイナスで賃金が決まっていた。 日本の場合は人手不足であっても、物価上昇率がゼロであれば賃金の上昇率もゼロでいいではないかというような形で、労働者側もあまり文句を言わず賃金が上がらない状況が長く続いてきた。 それを打破するために企業が賃金を上げてもよしとする、つまり労働生産性が上がるということが重要だ。
労働生産性と賃金を上げることがいちばん重要だと思う。年功序列で上がっていく賃金も改めていくことが必要だ。
急激な変化は悪影響があるのでチェックする必要があり、政府・日銀の市場介入は急激な変化を抑えるという意味では成功だったと思う。 ただ、目先の金利差とかいうことではなくて体力そのものを上げていかないと「安い日本」は変わらない。
私たちはグローバルな経済の中で生活し多くの人々が日本から物を買っていて、その物がより安くなるのを見ているので、外国為替市場がなぜこうした動きをしているのかへのアメリカ人の関心は高い。
1つは日本の生産性だ。日本の生産性は長いあいだほかの国々ほどの速度では上昇していない。これは長期的な要因だと思う。 もう1つの重要な要因はロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、これによって原油価格が急激に上昇し世界がより不安定になったことだ。結果として多くの資金が安全な国としてアメリカに流れ込んだ。 また、日本は輸入する原油や化石燃料に依存していてその価格が上がったことが円安の要因となった。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況が悪化したり、日本がアジアの安全保障上の課題に直面したり、原油価格が上昇したりすれば、さらなる円安につながる可能性がある。 日本の政策も重要な要因だ。日本が輸入する化石燃料への依存を減らすことができたり、生産性を向上させることができたりすれば、円相場の値上がりにつながる可能性がある。
【伊藤隆敏教授 一問一答】
Q.「なぜ日本はこんなに安くなった」をテーマに選んだ理由は?
Q.ことし円安が急速に進んだ理由は?
Q.日本で「安くなった」のがじわじわ進んできたのはなぜ?
Q.日本の物価上昇率が低かった理由は?
Q.「安い」国から抜け出すにはどんなことが必要?
Q.円安に歯止めをかけるためには、日本はどんな対応が必要?
Q.円安の今後の見通しは?
【デイビッド・ワインスタイン所長 一問一答】
Q.このテーマで講演会を開いた理由は?
Q.円安が進んだ理由をどのように考える?
Q.円安の今後の見通しは?
「なぜ日本はこんなに“安く”なったのか?」
「“安い”国から抜け出すには?」
登壇した専門家2人の一問一答も交えて詳しくお伝えします。