“がんでも普通ふつうに暮くらせるんだよ”

ここには治療ちりょう中ちゅうの患者かんじゃやその家族かぞく、がんの経験けいけん者しゃなどが集あつまります。

治療ちりょうについての情報じょうほう交換こうかんや日常にちじょう生活せいかつでの悩なやみなどが話し合はなしあわれ、患者かんじゃたちの貴重きちょうなよりどころとなっています。

「友達ともだちに話はなすとどうしても気きを遣つかわれる。経験けいけん者しゃどうしだと気軽きがるに話はなせるので、こうした場ばはありがたい」

60代だいの患者かんじゃ

「がんのことは誰だれにも言いいたくない。でも、ここに来きたら構かまわずしゃべれる。心強こころづよい場所ばしょです」

14年ねん前まえ、47歳さいのときに血液けつえきのがんである白血病はっけつびょうと診断しんだんされました。

骨髄こつづい移植いしょくの手術しゅじゅつを受うけることになりましたが、医者いしゃから告つげられたのは「手術しゅじゅつの成功せいこう確率かくりつは50％」という言葉ことば。

手術しゅじゅつを前まえに抗こうがん剤ざいの投与とうよが始はじまりましたが、その副作用ふくさようは想像そうぞう以上いじょうだったといいます。

太田おおたさん

「1回かい目めは一番いちばん軽かるい抗こうがん剤ざいだからたいしたことないと言いわれていたが、腹水ふくすいたまるわ、心臓しんぞうが肥大ひだいして血圧けつあつあがるわ。ショック症状しょうじょうも出でたし、口内こうない炎えんがひどくて口くちも開あけられない。1回かい目めでもボロボロだったので、これを何なん回かいもできひんと」

抗こうがん剤ざいの投与とうよを続つづける中なか、髪かみは抜ぬけ、体力たいりょくも落おちていきました。

気きがついたら気きを失うしなっていて、医師いしたちの必死ひっしの処置しょちを受うけていたことも。

手術しゅじゅつは成功せいこうし、その3か月かげつ後ごには退院たいいんしましたが、通院つういんによる抗こうがん剤ざいの投与とうよは続つづき、自宅じたくで普通ふつうの生活せいかつが送おくれるようになるにはさらに2年ねんほどかかりました。

太田おおたさん

「『神戸こうべのほうに患者かんじゃ会かいあるから一緒いっしょに行いきませんか』と兵庫ひょうご県けん西部せいぶに住すむ人ひとに声こえかけたんですが、そうしたら『私わたしにはお金おかねも体力たいりょくもない』と。そうか、姫路ひめじ市しより西にしには患者かんじゃ会かいがない。がん患者かんじゃのサポートは平等びょうどうじゃないやんて思おもって」

がんの治療ちりょうは、全国ぜんこくどこでも標準ひょうじゅん的てきな医療いりょうを受うけられるようにする“均きんてん化か”が図はかられていて、地域ちいきによる医療いりょう格差かくさが開ひらきすぎないようになっています。

しかし、患者かんじゃのサポートは主おもに民間みんかん団体だんたいが行おこなっているため、人口じんこうの少すくない地方ちほうでは支援しえん団体だんたいや患者かんじゃ会かいが少すくない傾向けいこうにあるとされています。

「生いかされた命いのちをがん患者かんじゃへのサポートにささげたい」

そう思おもった太田おおたさんは、退職たいしょく金きんなどおよそ1200万まん円えんをかけて実家じっかを改装かいそう。

がん患者かんじゃの支援しえんとその拠点きょてんとなる「はまなすの会かい」を立たち上あげました。

「ケア帽子ぼうし」とは、病気びょうき療養りょうよう中ちゅうの人ひとが頭皮とうひを守まもったり、脱毛だつもうした頭あたまを隠かくしたりするためかぶる帽子ぼうしのことです。

抗こうがん剤ざいでは、脱毛だつもうのほかにも、肌はだが荒あれやすくなったり、免疫めんえき力りょくが落おちたりと、副作用ふくさようが全身ぜんしんに大おおきな影響えいきょうを与あたえます。

少すこしの傷きずでも悪化あっかすると深刻しんこくな問題もんだいになることもあり、ケア帽子ぼうしは大おおきな役割やくわりを持もちます。

太田おおたさんも闘病とうびょう中ちゅうは、おばの手作てづくりの帽子ぼうしで、暑あつさ寒さむさを調節ちょうせつしたり、柄えを変かえることで気分きぶん転換てんかんをしたりしました。

太田おおたさん

「帽子ぼうし1つでも明あかるい気持きもちになれる。こんなに気持きもちを変かえるんやと思おもいました」

市販しはんされているケア帽子ぼうしもありますが、太田おおたさんは自身じしんの経験けいけんも踏ふまえ、患者かんじゃ目線めせんの使つかいやすさにこだわります。

さらに、食い込くいこみによる痛いたみも防ふせぐためゴムの長ながさを調整ちょうせいできるようにしたり、好このみの1枚まいが見みつかるよう多おおくの柄えを用意よういしたりしています。

50代だいの患者かんじゃ

「縫い目ぬいめが痛いたいとか全まったく感かんじませんし、すごくつけ心地ごこちを気に入きにいっています」

30代だいの患者かんじゃ

「自宅じたくではウイッグだと暑あついので、ケア帽子ぼうしで過すごしています。ゴムが頭あたまに食い込くいこまないのが楽らくでいいです。頭あたまを保護ほごしてもらう面めんもありますし、夏場なつばは汗あせを吸すってもらう面めんもあり、一いち日にち中ちゅうかぶっています」

帽子ぼうしをきっかけに団体だんたいを訪おとずれた患者かんじゃやその家族かぞくもいるそうです。

太田おおたさんはほかの団体だんたいにもケア帽子ぼうしの作り方つくりかたを教おしえることもしています。

がんは、家族かぞくや親したしい友人ゆうじんであっても打ち明うちあけることが難むずかしく、患者かんじゃが孤独こどくになりがちな一方いっぽうで、自分じぶん自身じしんや周囲しゅういの大切たいせつな人ひとがいつなってもおかしくない病気びょうきでもあります。

こうした支援しえんの存在そんざいやがんについての正ただしい理解りかいを深ふかめることは、がんになったときの備そなえとして、とても重要じゅうようだと、取材しゅざいを通をとおして思おもいました。