専門家は「景気が緩やかに回復していることや海外からのマネーや人の流れ込みが大きな影響を与えている。三大都市圏や地方の中枢都市だけでなく全国的に波及している」と分析しています。
国土交通省は、全国2万6000地点を対象にことし1月1日時点の土地の価格を調べた「地価公示」の結果を18日公表しました。
それによりますと、住宅地や商業地などをあわせた地価の全国平均は、去年と比べてプラス2.7%となり、4年連続で上昇しました。
上昇率は去年よりも0.4ポイント拡大し、地価の上昇基調が強まっています。
住宅地は、全国平均でプラス2.1%と4年連続の上昇となりました。
このうち「三大都市圏」はプラス3.3%、「地方圏」はプラス1.0%でした。
特に東京や大阪の中心部で高い伸びとなったのをはじめ、外国人向けの別荘の需要があるリゾート地などでも高い上昇率が続いています。
商業地は、全国平均でプラス3.9%と4年連続の上昇となりました。
「三大都市圏」はプラス7.1%、「地方圏」はプラス1.6%で、いずれも去年より上昇率が拡大しました。
主要都市ではオフィスの空室率の低下や賃料の引き上げによる地価の上昇のほか、観光地では店舗やホテル向けに土地を購入する動きが活発になっています。
その一方で、去年1月の能登半島地震の被災地は地価の落ち込みが顕著で、全国で下落率が大きかった地点の多くを被災地が占めました。
「東京圏」の上昇傾向 顕著に
東京、神奈川、埼玉、千葉の広い範囲と茨城の一部を含む「東京圏」の地価は平均でプラス5.2%と4年連続の上昇となりました。
上昇率は去年よりも1.2ポイント拡大し、地価の上昇傾向が顕著になっています。
住宅地は平均でプラス4.2%でした。
広い範囲で住宅需要が堅調で、都心部では10%を上回る高い上昇率の地点も多くありました。
ただ、郊外の一部では、建設費の上昇などに伴って戸建て住宅の売れ行きが鈍っているということで、去年と比べて上昇率が縮小した地点もありました。
商業地は、平均でプラス8.2%でした。
オフィスの賃料の引き上げが進んでいることや、渋谷駅近くではプラス32.7%となるなど街の再開発による期待が地価の上昇にもあらわれる形となっています。
《全国の最高価格地点》
住宅地
全国の住宅地で地価が最も高かったのは、8年連続で「東京・港区赤坂1丁目」で、1平方メートルあたり590万円でした。
大使館が多く立地し、マンション用地の需要が引き続き堅調となっていることから去年に比べて10.3%上昇しました。
商業地
全国の商業地で地価が最も高かったのは、19年連続で「東京・中央区銀座4丁目」で、1平方メートルあたり6050万円でした。富裕層や外国人によるブランド品の消費が盛んなため、高級品店の出店需要が非常に強く、去年に比べて8.6%上昇しました。
工業地
全国の工業地で地価が最も高かったのは、13年連続で「東京・大田区東海2丁目」で、1平方メートルあたり82万3000円でした。東京港や羽田空港、首都高速道路へのアクセスがよく、物流施設としての需要が引き続き堅調で、上昇率はプラス8.0%となりました。
《全国の主な上昇地点》
外国人に人気の観光地や半導体工場の建設が進む北海道や熊本の調査地点では大きな上昇率となりました。
住宅地
住宅地で最も上昇率が高かったのは「北海道富良野市北の峰町」でプラス31.3%となりました。
2位が「長野県白馬村北城」でプラス29.6%、3位が「沖縄県宮古島市上野」でプラス23.1%となっています。
上位3地点はいずれも、海外も含めた旅行者からの人気が高く、住宅に加え、別荘やコンドミニアムとしての需要も旺盛です。
商業地
商業地で最も高かったのは「北海道千歳市幸町」でプラス48.8%となりました。
先端半導体の国産化を目指す「Rapidus」の工場の建設で賃貸マンションや事務所、ホテルの需要が高まり、上位3地点を北海道千歳市が占めました。
このほか、再開発が進む渋谷駅近くの「東京都渋谷区桜丘町」が全国5位のプラス32.7%となったほか、旅行者の増加で店舗やホテルの需要が高まる「東京都台東区浅草1丁目」が全国7位でプラス29.0%、「岐阜県高山市上三之町」が全国8位でプラス28.8%となっています。
一方、工業地で最も高かったのは「熊本県大津町杉水」でプラス33.3%となりました。隣接する菊陽町に台湾の半導体大手TSMCが進出したことが地価の上昇につながっています。
《能登半島地震の被災地 大きく下落》
去年1月に起きた能登半島地震の被災地では地価が大きく下落しています。
住宅地では、全国で下落率が大きかった10地点すべてを石川県の被災地が占めていて、このうち、最も下落率が大きかったのは、「輪島市鳳至町」でマイナス14.5%でした。
このほか、珠洲市や能登町、七尾市などでも10%以上下落した地点がありました。
商業地でも下落率が大きかった10地点のうち7地点が石川県の被災地で、最も大きかったのは「珠洲市飯田町」でマイナス16.8%となりました。
《専門家はどう見る? 分析と今後の見通しは》
今回の「地価公示」の結果について、不動産調査会社「東京カンテイ」の高橋雅之上席主任研究員に聞きました。
Q.全国平均でプラス2.7%で、4年連続の上昇となり、上昇率も拡大しました。
A.景気が緩やかに回復していることに加え、海外からのマネーや人の流れ込みが地価の上昇に大きな影響を与えていて、三大都市圏や地方の中枢都市だけでなく全国的に波及している。
Q.今回の地価動向をどのように分析しますか。
A.「住宅地」、「商業地」ともに4年連続の上昇にはなっているが、なかでも「商業地」の上昇が全体を引き上げている印象だ。
オフィスでは、出社回帰の流れが定着し、人が戻ってきている。
企業も人材獲得の一環として、働きたくなるオフィスの提供に力を入れるようになり、立地や環境が恵まれた施設は高い人気を集めて賃料も上がっている。
一方で、全国的に海外からの旅行者が増えホテルの稼働率も高く、新たな開発を呼び込む流れができていて、地価の上昇につながっている。
Q.リゾート地や観光地など、高い上昇率となった地域もあります。
A.「地方圏」では、海外からのマネーや人の流れ込みの強弱がそのまま地価にあらわれている印象だ。
外国人から人気が高いリゾート地や観光地は、地価の上昇率も高い。
開発が進む半導体工場などでは、周辺で働く企業向けの住宅開発なども盛んで、住宅地の地価も上昇している。
Q.都市部を中心に住宅地の上昇が大きくなっています。
A.低金利が続く中で住宅需要は底堅い。
特に都心部の分譲マンションは、高所得世帯や投資家からの人気も高く、住宅価格や地価の力強い上昇は当面続くとみられる。
都心部では新築マンションが高額化し、その周辺エリアの中古マンションも連れ高の上昇になり、地価が上昇しやすい。
一方、郊外の物件に関しては、予算からかけ離れてしまい、直近では流通戸数がだぶついてきたりとか反響が鈍くなったりして価格を調整するような動きも見られるようになってきている。
金利の先高観が強まるとマインドとしては弱含んだり、冷え込んだりしてしまうので、地価の上昇度合いは今後、弱くなっていくのではないか。
Q.「東京圏」ではどのような特徴がありますか。
A.1都3県の中でも千葉県が東京に次いで高い上昇となっている。
東京23区に近い東葛から臨海エリアは、都心部の住宅価格の高騰を受けて利便性と割安感から上昇につながっている。
反対側の神奈川県は通勤時間がかかるほか、すでに人気の住宅地ということもあって価格自体が高めなので、あまりお買い得感がない。
千葉県であれば予算内でおさまる物件を探すことができる選択肢も多く、人気が集まっているのではないか。
Q.最近は、高所得世帯をターゲットにするデベロッパーも多いと聞きます。
A.以前までは一般世帯向けに盛んに供給されていたが、原価を販売価格に転嫁せざるを得ない中で、各社、高値でも買ってくれる高所得世帯にターゲットを絞っている。
世帯年収2000万円以上に標準をあわせていると公言する会社もあるくらいだ。
人口が減少し、住宅や土地が余っている中で、安価な住宅を大量供給する時代から、良質なストックを形成する時代にシフトしているとも言える。
Q.一般的な世帯にとっては住宅取得は厳しくなっています。
A.賃金の上昇を上回るペースで住宅価格の上昇が続いているが、その一因は、建設費における人件費の値上がりであるため、早晩、住宅価格が大きく下がることは見込めない。
大幅に安くなることはなかなか望めない状況だと見ている。
Q.今後の地価の動向をどのように見ていますか。
A.当面は基本的に上昇基調が続くとみられるが、不安材料もある。
アメリカの大幅な政策変更などによって金融市場や世界経済への悪影響が出てくれば、日本の不動産市場への影響も避けられないので注視する必要がある。
また、物価動向も重要な要因で、建設費が高騰する中で不動産取引が鈍り、地価の上昇率が伸び悩むような動きが地方だけでなく一部の都市圏でも出ているが、こうした動きが広がるのかどうかもポイントだ。
《地価上昇の中で》
都内の分譲マンション 高所得者をターゲットに
分譲マンションでは、高所得者をターゲットにする動きが活発になっています。
都内の不動産会社が販売する東京 調布市の地上7階建ての分譲マンションは、ターゲットを世帯年収1000万円から2000万円の高所得世帯に絞っています。
設備や部材のグレードを上げた高級仕様にすることで、高い価格でも納得感を得てもらえるといいます。
コンセプトは「邸宅」です。床をフローリングからタイルに変更し、キッチンの天板には御影石を採用しました。
タッチレスで水が出る蛇口を導入するなど設備のグレードも上げ、部屋ごとに宅配ボックスとトランクルームを設置しています。
さらに、一部の部屋には、廊下を挟んでリモートワークや趣味のために使えるいわゆる“離れ”のような個室を設けました。
ひとり暮らし用を除く物件の価格帯は、1戸あたりおよそ1億円から2億円ですが、すでに8割は購入が決まっているということです。
小田急不動産の奥村陽子さんは「販売価格が上昇する中でただ高いだけの物件では買いたいと思ってもらえない。パワーカップルなどの高所得世帯は、立地や設備などがよければお金を出してでもほしいという意識を持たれているので、そういうお客様に気に入ってもらえるような商品を逆算して企画している」と話していました。
1戸あたり面積を減らし価格下げる工夫も
住宅価格が高騰する中、販売価格を抑えようという工夫も進められています。
都内の不動産会社が今月から販売を始める東京 板橋区の地上15階建ての分譲マンションは、1戸あたりの面積が従来と比べて10平方メートルほど小さくなっているのが特徴です。
この会社ではこれまで1LDKの場合は40平方メートル以上を標準としていましたが、この物件では30平方メートル台に、2LDKは60平方メートル以上でしたが、40平方メートル台から50平方メートル台の面積に縮小しました。
面積を小さくしながらも居住空間はできるだけ確保する工夫もしています。柱を部屋の外に出す設計にしたり、室内の廊下を短くしたりしてリビングや個室の面積を確保しています。
また、折りたたみができる仕切りを採用してスペースを有効活用できるようにしています。さらに、モデルルームも廃止し、コストを抑えています。
販売を完成後に開始することで、建築中に物件を見てもらうモデルルームが不要となります。
こうした工夫によって、最寄り駅から徒歩4分という立地で、販売予定価格は1LDKがおよそ4900万円、2LDKがおよそ6000万円台から7000万円台となっています。
開発したサンケイビルの細田真未さんは「この立地で仮に2LDKを60平方メートル台後半まで大きくすると9000万円台まで値上がりし購入できる人が限られてしまう。ターゲットとする共働き世帯の間でも、資産性を重視したい意向が強まっていることを踏まえ、好立地でも手が届く価格になるように努力している」と話していました。
調査会社の「不動産経済研究所」によりますと、首都圏の新築マンションの去年の販売価格は2013年と比べて58%上昇した一方で、1戸あたりの面積は6%あまり減っていて、部屋の縮小化が進んでいます。