昔、現在の山口県の仙崎と青海島(おおみじま)との間は大変近く、引き潮になると歩いて行き来が出来た。青海島には沢山の猿が住んでいて、引き潮になると大勢で仙崎に渡っては村人の食料や物を盗んだりと悪さばかりしていた。困った仙崎の人々は、罠を作って猿を捕まえようとしたが、失敗続きで諦めるばかりだった。天気に恵まれた五月の昼下がりのこと。一匹の猿が仙崎へ渡ろうとした時、青海島と仙崎との間の砂浜に大きな海亀が気持ちよさそうに眠っていた。猿は海亀をどかそうと、大声を上げて海亀の首を強引に引っ張った。猿の大声に驚いた海亀が、首を甲羅の中に引っ込めたので、猿の手も一緒に甲羅の中に挟まってしまった。この猿の悲鳴を聞いた仲間の猿たちが大勢で集まり、海亀との引っ張り合いになった。海亀も負けじと後ずさりするので、猿たちも引っ張られてしまった。このままではどうしようもないので、端にいた猿が松の木にしがみついたが、やがて満ち潮になり猿たちも海亀も焦りだした。そのうち海亀は諦めたのか首をひょいと出し、手は抜けたものの猿たちは尻餅ををついた。そのはずみで青海島は遠くに離れてしまい、青海島の猿たちは、引き潮になっても仙崎へ渡ることが出来なくなった。猿と海亀との合戦の一部始終を見ていた仙崎の人々は、もうこれで猿たちの悪戯に遭わずに済むと喜び合った。