NHKは、外部の弁護士で作る第三者委員会が去年まとめた調査報告書を入手しました。
取り引き額は合わせて6億円近くに上るということで、公益法人を監督する内閣府は「重大な疑義を抱かざるをえない」として調査に乗り出しました。
前会長はNHKの取材に対し「特定の業者に利益を与えたという認識は全くない」と主張しています。
第三者委員会の調査報告書 入手


取り引き額は9年間で約6億円

調査報告書によりますと、前会長はこの知人とふだんから食事やゴルフに出かけるなど、親しい関係にあったということです。
前会長はおととし12月、体調不良を理由に退任しましたが、第三者委員会はこうした取り引きについて「絶大な権力を持つ前会長の指示ないし意向によるものだった」として、特定の企業などに特別な利益を与える行為を禁じた公益法人認定法に違反すると指摘しています。
これを受けて、公益法人を監督する内閣府は「重大な疑義を抱かざるをえない」として、実態を把握するための調査に乗り出しました。
前会長はNHKの取材に対し「個々の契約については担当理事に任せていた。優先的な発注を指示したことはなく、特定の業者に利益を与えたという認識は全くない」と主張しています。
一方、アイム・ジャパンは調査報告書について「おおむね誤認はない」としたうえで、「指摘を踏まえ、前会長の知人が経営する会社などとの取り引きを解消し、監査体制の充実を図るなどの改善策を実施している」とコメントしています。
アイム・ジャパンとは

ホームページなどによりますと職員は300人余りで、海外を含めて合わせて20の拠点があります。
常勤の理事は会長を含めて7人で、この中には外国人技能実習制度を所管する厚生労働省と法務省のOBも含まれています。
アイム・ジャパンはインドネシアやベトナムなどアジアの5か国の政府と協定を結び、日本で唯一、各国の政府から直接派遣された実習生を受け入れているということです。
実習生はおよそ5か月にわたり日本語などの研修を受けたうえで、全国のおよそ2000の会員企業に配属されます。これまでに受け入れた実習生は合わせて6万人を超え、現在はおよそ1万人が日本に滞在しているということです。
財源は会員企業から集める実習生の指導費などで、決算報告によりますと、2019年度の収益は39億4000万円余り、一般企業の純利益にあたる「一般正味財産増減額」は2億1000万円余りに上っています。
公益財団法人は税制上の優遇措置があり、公益目的の事業については非課税となっています。
柳澤前会長とは

調査報告書によりますと、旧労働省に在籍していた当時の人脈を生かすとともに、海外政府の要人と直接交渉するなどしてその手腕を発揮し、業務全般を取りしきっていたということです。
柳澤前会長「特定の業者に特別な利益与えた認識全くない」
このうち、知人が経営する会社などに優先的に物品や業務を発注していたという指摘について、前会長は「結果として随意契約が多かったのは事実だ」としたうえで「いずれも内部規程の例外にあてはまるケースで、問題はないと考えている。また、個々の契約については担当理事に任せており、優先的に発注するよう指示したことはない。知人の会社の見積もり価格が安かったため、結果的に発注が多くなっただけではないか」と説明しています。
一方、アイム・ジャパンは取材に対し、調査報告書について「おおむね誤認はない」としたうえで、一連の取り引きが公益法人認定法に違反するという指摘については「公正性を欠き、取り引きの規模が大きかったことも事実だが、前会長の知人が経営する会社がどの程度の利益を上げていたのかは確認できず、『特別な利益』にあたるとの認識には至っていなかった」としています。
そのうえで「報告書の指摘を踏まえ、去年4月以降、この会社などとの取り引きをすべて解消した。コンプライアンス体制を整備し、監査体制の充実を図るなどの改善策を実施している」とコメントしています。
優先発注 前会長の知人女性経営の会社などに
このうち3つは前会長の50代の知人女性が社長や代表理事を務め、残りの2つはこの知人がアイム・ジャパンに紹介したということです。
取り引き額が最も多いのは、知人が社長を務める職業紹介サービスや飲料水の販売などを行う株式会社で、9年間で合わせて4億6000万円余りに上っています。
調査報告書によりますと、前会長は知人とふだんから食事やゴルフに出かけていたほか、知人が所有する都心のマンションの部屋を借りて住んでいることも確認されたということです。
また、海外視察をする際には知人の会社から商品を購入し、土産として持って行くこともあったとしています。
知人との関係について、前会長は取材に対し「食事やゴルフは年に数回程度で、費用は折半している。マンションの部屋も社会通念上相当な家賃を支払っており、特別な関係はない」と主張しています。
また、知人は取材に対し、代理人の弁護士を通じて「公益財団法人内部の問題であり、営利企業として業務を多く受注しようとすることに何ら問題はない」とコメントしています。
専門家「かなりずさんな発注が繰り返されていた」
内閣府の委員会 報告内容をもとに調査へ

公益法人認定法では、公益財団法人は不特定多数の利益の増進に寄与することとされていて、特定の企業などに特別な利益を与える行為は禁止されています。
NHKが入手した文書によりますと、内閣府はアイム・ジャパンについて「特定の営利法人への特別の利益の供与に対するその後の対応をはじめ、公益事業を行うのに必要な経理的基礎および技術的能力について、重大な疑義を抱かざるをえない」としています。
そのうえで、一連の取り引きが公益法人認定法に違反するという認識があったかどうかに加え、前会長に権限が集中していた状況を理事会が監督できなかったのはなぜか、調査報告書で問題を指摘されながら前会長に対して責任を求めず、3000万円を超える退職金も支払われているのはなぜか、といった点について報告を求めています。
これに対し、アイム・ジャパンはすでに文書で回答したということで、内閣府は今後、その内容をもとに調査を進め、運営の抜本的な改善を求める「勧告」などの措置をとるかどうか判断することにしています。