弁護べんご団だんによりますと、これまでに全国ぜんこくで17件けんの集団しゅうだん訴訟そしょうが起おこされ、訴うったえている元もと作業さぎょう員いんと遺族いぞくは、およそ1200人にんにのぼります。

元もと作業さぎょう員いんたちは、国くにがアスベストの危険きけん性せいを認識にんしきしながら、保護ほごマスクの着用ちゃくようを義務ぎむづけることや、アスベストを使つかった建材けんざいの製造せいぞうを禁止きんしするといった安全あんぜん対策たいさくを怠おこたったと訴うったえたほか、アスベストを含ふくむ建材けんざいを製造せいぞうしていたメーカーに対にたいしても、危険きけん性せいを警告けいこくする義務ぎむを怠おこたったと主張しゅちょうしています。

平成へいせい24年ねんに東京とうきょう地裁ちさいが国くにに賠償ばいしょう責任せきにんがあると初はじめて認みとめた後のち、全国ぜんこく各地かくちの地裁ちさいや高裁こうさいで同様どうようの判決はんけつが相次あいつぎました。

また、建材けんざいメーカーの賠償ばいしょう責任せきにんについては、平成へいせい28年ねんに京都きょうと地裁ちさいで初はじめて認みとめられました。

京都きょうと地裁ちさいは、業界ぎょうかい内ないでのシェアが高たかかったメーカー9社しゃに賠償ばいしょうを命めいじる異例いれいの認定にんてい基準きじゅんで賠償ばいしょう責任せきにんを認みとめ、この判決はんけつのあとは、同おなじような基準きじゅんでメーカー側がわに賠償ばいしょうを命めいじる判決はんけつが各地かくちで続つづいています。

この4件けんは、2審しんでいずれも国くにの責任せきにんが認みとめられていて、東京とうきょう、大阪おおさか、京都きょうとの3件けんについて最高裁さいこうさいは、去年きょねん12月つき以降いこう、国くにの上告じょうこくを棄却ききゃくする決定けっていをし、国くにの賠償ばいしょう責任せきにんがすでに確定かくていしています。

また、一定いってい以上いじょうのシェアがあった複数ふくすうの建材けんざいメーカーに賠償ばいしょう責任せきにんがあるとした判断はんだんも、一部いちぶで確定かくていしています。

一方いっぽう、最高裁さいこうさいは、残のこりの元もと作業さぎょう員いんについて元もと作業さぎょう員いん側がわと国くに、それにメーカーの上告じょうこくを受理じゅりし、去年きょねん10月つき以降いこう、双方そうほうの意見いけんを聞きく弁論べんろんを開ひらいてきました。

最高裁さいこうさいは判決はんけつで、これらの争点そうてんについて、統一とういつ的てきな判断はんだんを初はじめて示しめすものとみられます。

最高裁さいこうさいの判決はんけつは、全国ぜんこく各地かくちで続つづいている集団しゅうだん訴訟そしょうに影響えいきょうを与あたえるほか、国くにが検討けんとうしている被害ひがい者しゃの救済きゅうさい策さくにも影響えいきょうを与あたえる見通みとおしです。

今後こんごも被害ひがい者しゃが増ふえ続つづけて数すう万まん人にんに上のぼり、国内こくない最悪さいあくの規模きぼの健康けんこう被害ひがいになるとみられています。

発症はっしょうまでに10年ねんから数すう十じゅう年ねんという長ながい潜伏せんぷく期間きかんがある一方いっぽう、発症はっしょうすると1年ねんから2年ねんといった短たん期間きかんで亡なくなる人ひとも多おおいことから、「静しずかな時限じげん爆弾ばくだん」と呼よばれています。

弁護べんご団だんによりますと、裁判さいばんに訴うったえた元もと作業さぎょう員いんのうちおよそ7割わりがすでに亡なくなっているということです。

被害ひがいに気きがつかないまま何なにの補償ほしょうも受うけずに亡なくなった人ひとも多おおいとみられ、今いまは症状しょうじょうが無なくても今後こんご、発症はっしょうするおそれがあり、被害ひがい者しゃは数すう万まん人にんに上のぼるとみられています。

アスベストを製造せいぞうしていた建材けんざいメーカーの工場こうじょうの従業じゅうぎょう員いんなどの健康けんこう被害ひがいについては、平成へいせい26年ねんに最高裁さいこうさいが国くにの賠償ばいしょう責任せきにんを認みとめ、賠償ばいしょう金きんが支払しはらわれてきました。

製造せいぞう工場こうじょうのアスベストよりも被害ひがいの規模きぼが大おおきいのが、今回こんかい、争あらそわれている建設けんせつ現場げんばのアスベスト被害ひがいです。

平成へいせい18年ねんにアスベストの製造せいぞうや使用しようが全面ぜんめん的てきに禁止きんしされるまで、多おおくの作業さぎょう員いんが全国ぜんこくの建設けんせつ現場げんばや解体かいたい工事こうじの現場げんばで、大量たいりょうのアスベストにさらされました。

水俣病みなまたびょうや四よん日にち市しぜんそく、イタイイタイ病いたいいたいびょうなどの「4大だい公害こうがい病びょう」が特定とくていの地域ちいきに被害ひがいが集中しゅうちゅうしたのとは異ことなり、アスベストは全国ぜんこくで使用しようされたうえ、当時とうじの建設けんせつ現場げんばの状況じょうきょうや使用しようされた建材けんざいをすべて特定とくていするのは難むずかしく、被害ひがいの全体ぜんたい像ぞうの解明かいめいは困難こんなんとされています。

アスベストの健康けんこう被害ひがいで労災ろうさいと認定にんていされる人ひとはいまも毎年まいとし1000人にん余あまりいて、業種ぎょうしゅ別べつで最もっとも多おおいのが建設けんせつ業ぎょうに関係かんけいした人ひとたちで、およそ500人にんから600人にんで推移すいいしています。

今回こんかいの最高裁さいこうさいの初はじめてとなる判決はんけつで、司法しほうによる被害ひがい者しゃの救済きゅうさいの動うごきは1つの区切くぎりを迎むかえます。

一方いっぽう、弁護べんご団だんは、裁判さいばんを起おこさなくても速すみやかに補償ほしょうを受うけられる制度せいどを設もうけるよう求もとめ続つづけています。

判決はんけつに先立さきだって、去年きょねん12月つきの最高裁さいこうさいの決定けっていで国くにの賠償ばいしょう責任せきにんが確定かくていしたことを受うけて、国くには、被害ひがい者しゃの救済きゅうさい策さくの検討けんとうを進すすめています。

また、自民じみん・公明こうめい両りょう党とうの対策たいさくチームも国くにに対にたいし、全国ぜんこくの裁判さいばんで訴うったえている元もと作業さぎょう員いんなどに和解わかい金きんを支払しはらうよう求もとめるとともに、裁判さいばんに参加さんかしていない被害ひがい者しゃにも給付きゅうふ金きんを支給しきゅうする制度せいどの創設そうせつを目指めざすとしています。

今後こんごは最高裁さいこうさいの判断はんだんを踏ふまえ、どのような救済きゅうさい策さくを取とるのかに焦点しょうてんが移うつることになります。

大坂おおさかさんは、家族かぞくで大工だいくを営いとなんでいましたが、2002年ねんに突然とつぜん金雄かねおさんが体からだの激はげしい痛いたみを訴うったえ急激きゅうげきに病状びょうじょうが悪化あっかして、2003年ねん5月つきに亡なくなりました。

金雄かねおさんは春子はるこさんに「俺おれはただ、仕事しごとは真面目まじめに、一生懸命いっしょうけんめいにやってきたつもりだよ。でもなんでこんな病気びょうきになったんだろうね」と話はなし、無念むねんの気持きもちを吐き出はきだしたと言いいます。

金雄かねおさんが亡なくなったあと、春子はるこさんを支ささえてくれた息子むすこの誠まことさんも、およそ10年ねん後ご、同おなじように突然とつぜん体からだの痛いたみを訴うったえ、「中ちゅう皮かわ腫しゅ」と診断しんだんされました。

2014年ねん3月つきに、46歳さいの若わかさで亡なくなった誠まことさんは、春子はるこさんに「俺おれまだ死しにたくない」、「まだまだいっぱいやりたいことある」と話はなしていたと言いいます。

中ちゅう皮かわ腫しゅで亡なくなった金雄かねおさんや誠まことさんと同おなじ現場げんばで働はたらいていた春子はるこさん自身じしんも、「いつ自分じぶんが発症はっしょうするか分わからない」という恐怖きょうふと向き合むきあっています。

しかし、亡なくなった2人にんのためにもまだ病気びょうきにはなりたくないという思おもいがあると言いいます。

2008年ねんに提訴ていそした、金雄かねおさんの裁判さいばんは13年ねんかかってようやく、17日にち、最高さいこう裁判所さいばんしょが判決はんけつを言い渡いいわたします。誠まことさんについては去年きょねん、提訴ていそしました。

大坂おおさか春子はるこさんはアスベストの危険きけん性せいを国くにやメーカーが周知しゅうちして、対策たいさくをとっていれば、2人にんの命いのちは奪うばわれずにすんだのではないか。国くにやメーカーが責任せきにんを認みとめ、誠意せいいある謝罪しゃざいをして被害ひがい者しゃと向き合むきあい、全面ぜんめん的てきな解決かいけつを迎むかえる日ひを見届みとどけたいと考かんがえているといいます。

大坂おおさかさんは「私わたしはお金おかねなんて欲ほしくなくて、本心ほんしんは『2人にんを返かえしてほしい』ってそれだけなんです。おかしいのは分わかってる、帰かえってくるわけないもんね。ただ、きちっとした態度たいどで謝あやまってもらわない限かぎり、2人にんにいい報告ほうこくなんてできやしないです。これから何なん年ねんかかるか分わからないけど、私わたしが生いきている間まに、全面ぜんめん解決かいけつの日ひを迎むかえたいと思おもう」と話はなしています。