暗号化された回線は機密性が高いとされ、外部から社内のシステムにつなぐリモート接続などで使われているほか、世界では、政府などよるインターネットの検閲を回避する目的でも利用されてきました。
ロシアでは、ツイッターやフェイスブックなどSNSのほか外国メディアのウェブサイトも見られなくなっていますが、これはロシア国内で通信に対して検閲が行われ、特定のサイトにアクセスできないよう「ファイアウォール」と呼ばれる「壁」がつくられていることが要因とみられています。
こうした中、通信を暗号化したうえで、海外のサーバーにつないで検閲を回避する「VPN」と呼ばれる技術を使ったサービスの利用が広がっています。
筑波大学の登大遊客員教授が2013年から学術実験として開発したサービスで、ソフトは誰でも無料で使うことができます。 通信を暗号化したうえ、世界中のボランティアが提供する最大8000台のサーバーを経由してウェブサイトにアクセスする仕組みとなっていて、ロシア国内からでも国外のサーバーを選べば、自由にウェブサイトをみることができます。
特にスマートフォンで利用しているケースが目立つということで、登さんは「職業的に使われているというよりも、普通の市民が、日常生活や経済活動、学問などのために外国のページにアクセスする際に使っていると思われる。日本の技術が役に立っているということはとてもうれしい」と話しています。
そのうえで、「学問や研究、事業に必要な知識や情報を検閲がない状態で手に入れられること。いつ誰がどのサイトを見たのか、政府によって、監視されることがないこと。これを実現するために大いに使ってほしい」と話していました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻やプーチン政権に対して抗議の声を上げているロシア人にとって、VPNは情報を得るためにも、意志を表明するためにも、欠かせない手段になっています。 モスクワに住む医療関係の仕事に従事する男性(40)は、VPNに接続するため3つのアプリを使い分けています。 男性は、ロシア国内でVPNは広く使われていると説明したうえで、「1つがつながらなかったら、他のアプリでつないでいます。ロシアのサイトを見る時以外はほとんどVPNを使っています」と話しています。 モスクワで法律を学ぶ女子学生(21)も、5つほどのアプリを使い分けてVPNに接続し、ツイッターやインスタグラムで友人とやり取りをしたり、情報を集めたりしています。 女子学生は「家族や親しい友達とは話せますが、そのほかの人とは話さなくなっています。人々は生活を続けるために抗議の声を上げなくなっているのです」と話し、政府への批判が次第に困難になっていると説明しました。 またロシア第2の都市サンクトペテルブルクに住む自営業の男性(52)は、VPNに接続するため4つのアプリをスマートフォンやパソコンに入れ、毎日、使っているといいます。 男性はロシア国内の独立系メディアが閉鎖に追い込まれる中、VPNを使用せずにアクセスできる情報は政府のプロパガンダばかりだとして、「誠実なジャーナリストはロシア国内では公には仕事ができず、国外に出て発信しているため、VPNを使わないと記事が読めません。私の理解や考えはすべてVPNを使って得た情報に基づいています」と話しています。 またツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどのSNSに接続する時にもVPNを使い、同じ考えを持つ人たちとやり取りしたり、プーチン政権への批判などを投稿したりしています。 ロシア政府がことし3月に法律を改正し、「ロシア軍の活動について、信頼できる報道を装い、うその情報を拡散」した場合、最大で懲役もしくは禁錮15年を科すとしたことで、公共の場所でのデモをはじめ抗議の声を上げるのが一層難しくなっているということです。 このためSNSの重要性はさらに増していますが、男性は、政府がVPNにアクセスできないようさらに規制を強めるのではないかと懸念しています。 男性は「一部の抗議をしている人を刑務所に入れることで他の人は怖がって抗議の声を上げられなくなります。それがプーチンが考え出した効果的な方法です。プーチン政権は言論の自由を終わらせるために、普通ではSNSを使えないようにしています。プーチン政権は多額の資金を投入してすでにさまざまなVPNのアドレスをブロックしています。SNSはロシア人にとって有益な情報源なので、使えなくなるのではないかと恐れています」と話していました。
情報得るため欠かせない手段 規制も懸念