奄美地方を除く鹿児島県に暴風と波浪の特別警報が、鹿児島県薩摩地方に高潮の特別警報が発表されていて、気象庁は最大級の警戒を呼びかけています。
また、大分県と宮崎県、鹿児島県で線状降水帯が発生するなど九州では大雨となっていて、土砂災害や低い土地の浸水、川の氾濫にも厳重な警戒が必要です。
災害の危険度が急激に高くなるおそれがあり、頑丈な建物の高い階で安全を確保して過ごすようにして下さい。
【社会部 災害担当記者 解説】
【台風の位置と強さ】午前9時推定
午前9時には、鹿児島県薩摩川内市付近を1時間に15キロの速さで北北東へ進んでいるとみられます。
中心の気圧は955ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は40メートル、最大瞬間風速は60メートルで、中心から半径110キロ以内は風速25メートル以上の暴風が吹いています。
気象庁によりますと、強い台風10号は午前8時ごろ、薩摩川内市付近に上陸しました。
気象庁は奄美地方を除く鹿児島県に暴風と波浪の特別警報を、鹿児島県の薩摩地方に高潮の特別警報を発表しています。
九州では各地で風が強まり、
▽鹿児島県枕崎市では29日午前1時前に51.5メートルと猛烈な風が吹いたほか、
▽鹿児島市で午前5時前に38.8メートル、
▽鹿児島県南さつま市で午前3時半前に37.3メートル、
▽大分県佐伯市蒲江で午前6時すぎに35.8メートルの最大瞬間風速を観測しました。
また、九州を中心に、四国や東海など離れた地域でも暖かく湿った空気が流れ込み雨が強まっています。
午前3時すぎには宮崎県の北部平野部、北部山沿いで、午前5時すぎには鹿児島県の薩摩地方で、午前6時半すぎには大分県の中部と北部で線状降水帯が発生し、非常に激しい雨が同じ場所で降り続いているとして、気象庁は「顕著な大雨に関する情報」を発表しました。
発達した雨雲が流れ込み続け、午前7時までの1時間には国土交通省が大分県別府市に設置した雨量計で110ミリの猛烈な雨を観測しました。
午前8時までの48時間に降った雨の量は、
▽宮崎県美郷町南郷で732.5ミリと8月の平年1か月分の1.3倍、
▽鹿児島県肝付町前田では550.5ミリと、8月の平年1か月分の1.9倍に達しています。
これまでに降った雨で宮崎県と鹿児島県、熊本県、大分県、愛媛県、それに静岡県では土砂災害の危険性が非常に高くなり、「土砂災害警戒情報」が発表されている地域があるほか、大分県を流れる大分川、宮崎県を流れる酒谷川、鹿児島県を流れる肝属川水系、万之瀬川・加世田川に氾濫危険情報が発表されています。
西日本は猛烈な風
西日本では30日にかけて猛烈な風が吹くおそれがあり、
29日の最大風速は
▽九州南部で45メートル、
▽九州北部で40メートル、
▽四国で25メートル、
▽奄美地方で20メートル、
▽中国地方で18メートル、
最大瞬間風速は
▽九州南部で65メートル、
▽九州北部で55メートル、
▽四国で35メートル、
▽中国地方と奄美地方で30メートルと予想されています。
記録的な大雨のおそれ
また、九州南部を中心に記録的な大雨となるおそれがあり、
▽奄美地方を除く鹿児島県や宮崎県では30日の午前にかけて、
▽九州北部と山口県は30日の午後にかけて、
▽徳島県、愛媛県、高知県では30日の夜にかけて線状降水帯が発生し、災害発生の危険度が急激に高まるおそれがあります。
気象庁は鹿児島県と宮崎県では今後、大雨の特別警報を発表する可能性もあるとしています。
また、台風から離れた東日本や西日本でも大雨となる見込みで、30日朝までの24時間に降る雨の量は、いずれも多いところで
▽九州南部で600ミリ、
▽九州北部と四国で400ミリ、
▽東海で300ミリ、
▽近畿と関東甲信で200ミリ、
▽中国地方と伊豆諸島で120ミリと予想されています。
その後、31日の朝までの24時間には
▽四国で400ミリ、
▽九州北部と東海で300ミリ、
▽中国地方と近畿で200ミリと予想されています。
さらに、来月1日の朝までの24時間には
▽東海と近畿で300ミリ、
▽四国で200ミリ、
▽中国地方で150ミリの雨が降る見込みです。
【海上の見通し】猛烈なしけ続く見込み
海上は波が高く、29日の波の高さは
▽九州南部で9メートルと猛烈なしけとなるほか、
▽奄美地方で8メートル、
▽九州北部と四国で7メートルと大しけとなる見込みです。
気象庁は暴風と高波、高潮に最大級の警戒をするとともに、土砂災害、低い土地の浸水、川の氾濫に厳重に警戒するよう呼びかけています。
宮崎県では竜巻とみられる突風による被害も発生していて落雷や竜巻などの突風にも十分注意が必要です。
風や雨が急激に強まって災害の危険度が高まるほか、台風から離れた場所でも暖かく湿った空気の影響で大雨のおそれがあります。
周囲の状況が悪化しても避難場所までの移動が危険な場合があるため、近くの頑丈な建物や建物の高い階で崖や斜面と反対側の部屋に移動するなどして安全を確保して下さい。
「台風の特別警報」とは
台風の特別警報は数十年に1度しかないような勢力で日本に接近すると予想される際に発表されます。発表の基準は中心の気圧が930ヘクトパスカル以下、または、最大風速が50メートル以上に達する台風などの接近が予想される場合で、暴風、高潮、波浪を対象に発表されます。
沖縄や奄美、それに小笠原諸島は、中心の気圧が910ヘクトパスカル以下、または最大風速が60メートル以上となっています。
【大雨特別警報との違い】
台風の特別警報は状況が悪化する「前」に出されます。台風の中心が対象とする地域に達するおよそ12時間前に発表されます。
一方、「大雨特別警報」はすでに大雨が降り状況が極めて悪化した状態に発表されます。大雨特別警報の見通しが出されていない地域が安全だということでは決してありません。
【特別警報待たず早めの避難を】
台風が接近すると暴風によって建物が倒壊するおそれもあるほか、大雨や高潮で建物が浸水する被害が出るおそれもあります。
崖や川、海岸の近くから離れ、頑丈な建物に避難することも重要です。暴風雨の中で移動することは困難です。
雨や風が強くなる前に危険な場所から離れ、避難してください。そして特別警報が発表されていない地域でも、特別警報を待たず、海岸や川の近く、周囲より低い土地、それに崖の近くに住む人は早めの避難を心がけてください。
「台風の特別警報」発表は過去3回
【2014年・台風8号】
台風による特別警報が初めて発表されたのは、2014年7月の台風8号です。
このときは、大型で非常に強い勢力で沖縄の南の海上を北へ進み、気象庁は沖縄県で記録的な暴風や高波になるおそれがあるとして、特別警報を出す可能性があると発表しました。
それからおよそ7時間後、実際に宮古島地方に特別警報を発表し、台風は沖縄本島と宮古島の間を通過して渡嘉敷島では53メートルの最大瞬間風速を観測したほか、名護市では降水量が457.5ミリに達し、記録的な大雨となりました。
さらに台風は北上を続け、鹿児島県阿久根市付近に上陸し、西日本から東日本の太平洋側を東寄りに進んで四国や東海などでも300ミリを超える大雨となり、長野県では土砂災害で犠牲者が出るなど、あわせて3人が亡くなりました。
【2016年・台風18号】
次に、台風の特別警報が発表されたのは2016年10月の台風18号です。
このときは、沖縄県の久米島の南の海上で猛烈な勢力にまで発達し、沖縄本島地方に特別警報が発表されました。
沖縄本島に接近したあと九州の西の海上を北へ進み、対馬海峡から日本海へと移動して各地で風が強まり、沖縄県の久米島空港では59.7メートル、金沢市でも43.4メートルの最大瞬間風速を観測しました
【2022年・台風14号】
最も直近で台風の特別警報が発表されたのは2022年9月の台風14号です。
このときは、大型で猛烈な強さに発達し、気象庁は、九州南部と九州北部で台風と大雨の特別警報を出す可能性があると発表し、およそ10時間後に鹿児島県に特別警報が発表されました。
沖縄県以外に台風の特別警報が発表されたのはこれが初めてのことでした。
台風は大型で非常に強い勢力で鹿児島市付近に上陸し、九州を縦断したあと、進路を東寄りに変えて中国地方や北陸付近を進みました。
台風の動きが遅く、台風本体や周辺の雨雲が長期間かかり続けたことによって降水量は宮崎県で900ミリを超えるなど9月の1か月分の平年の雨量の2倍前後となったところもありました。
このため、各地で大きな被害となり、宮崎県などであわせて5人が亡くなったほか、3000棟余りの住宅が被害を受けました。
【特別警報が発表されなかったケースも】
このほか、2020年9月の台風10号では気象庁が記者会見で「鹿児島県に特別警報発表の可能性の確度が高まった」と伝えましたが、その後、発達が弱まり、台風の特別警報は発表されませんでした。
気象庁「暴風が吹き始める前に避難することが重要」
台風10号の注意点について気象庁は「暴風が吹き始める前に頑丈な建物の中に移動するとともに屋内では窓から離れてほしい。高潮や洪水の浸水想定区域や土砂災害警戒区域などでは、暴風が吹き始める前に避難することが重要だ。特別警報が発表されない場合でも記録的な大雨や暴風、高波、高潮となるおそれがあり、自分の命や大切な人の命を守るため、地元の市町村が発令する避難情報に従って早めに身の安全を確保してほしい」と述べました。
「同じ場所で長時間大雨に 最大級の警戒を」
また、「台風の特徴として動きがゆっくりであることが挙げられる。そのため、九州南部や奄美地方は暴風の吹く期間が長く、九州南部ではあさっても一部、暴風になる見込みだ。徐々に台風が北上すると九州南部だけでなく九州北部や四国、中国地方、近畿も影響を受けるようになる。九州北部に接近しても台風の速度は遅い状況で暴風や高波の警報を発表する期間が長引くおそれがある。また、ずっと同じ風向きで暖かく湿った空気が流れ込むため地形の影響などで上昇流が発生し、同じ場所で長い時間、大雨となることが考えられ最大級の警戒が必要になる」と述べました。
国土交通省「今のうちにハザードマップの確認を」
また、国土交通省は、「河川では現在、ダムの事前放流や水門の閉鎖など、氾濫を防止するための事前対策を進めているが、台風の接近に伴って長期的な大雨や集中的な豪雨が重なると、氾濫の危険性が高まる。早め早めの避難行動をしてほしい。雨や風が強くなったり、暗くなったりしてからの移動は危険を伴うため、早めの避難行動をお願いする。今後、台風の接近が予想される地域の人は、事前の準備が大事だ。今のうちにハザードマップなどの確認をして、停電や断水なども視野に準備を進めてほしい。運休や欠航、道路の通行止めの可能性があり各事業者のウェブサイトなどで最新の情報を確認してほしい。特に、外出の予定がある人は十分な時間的余裕を持った行動をお願いしたい」と呼びかけました。
土砂災害の専門家「最高レベルの警戒を」
土砂災害に詳しい鹿児島大学の地頭薗隆名誉教授は、台風10号に伴う大雨で地盤が緩むだけでなく、暴風で木が揺さぶられ斜面に亀裂が入ることもあるため、通常の大雨よりも土砂災害が起きやすくなると指摘しています。
また、九州では8月8日に起きた日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震で斜面に亀裂が入り、以前より崩れやすくなっている場所も多いとみられるとして、これまで以上に注意が必要だとしています。
地頭薗名誉教授は「避難の判断の際には過去の経験にとらわれないでほしい。これまで土砂災害が起きていないところは、斜面の土の層が蓄積していてかえって危険だ。土砂災害に対して最高レベルの警戒をしてほしい」と話しています。
さらに、今回はかなりの雨量が予想されているため、斜面の表面が崩れる「表層崩壊」だけでなく、岩盤深くから崩れる「深層崩壊」が起きるリスクも高いとしています。
九州では過去に火山性の地質の場所で400ミリ程度、九州山地のような山あいの地域で800ミリ程度の雨量で「深層崩壊」が起きたということです。
時間がたってから斜面が崩れたケースもあるということで、地頭薗名誉教授は、「雨の降り方によっては大規模な崩壊にも警戒が必要だ。雨がやんだあとも、しばらく警戒を続けることも念頭においてほしい」と話しています。
避難行動に詳しい専門家「台風から離れた場所でもリスクあり」
災害時の避難行動に詳しい静岡大学の牛山素行教授は、台風10号について動きが遅いため同じ場所で長時間にわたって雨が降り続けるおそれがあるとしています。
そのうえで、奈良県で総雨量が1800ミリに達するなど紀伊半島を中心に記録的な大雨となった2011年の台風12号を例に、今回は九州南部や四国などふだん雨がよく降る地域にとっても大雨になるおそれがあると指摘しています。
また、東海などですでに大雨となり土砂災害が起きていることを挙げ、台風の位置だけに注目すると避難のタイミングを逃すおそれがあるとしています。
このため、気象庁のホームページで雨雲の状況や災害の危険度など自分がいる場所の最新の情報をこまめに確認するよう呼びかけています。
牛山教授は「週末の予定を変更したり延期したりして屋外での行動を極力避けることも重要な避難行動の1つだ。また、避難をする前に雨や風が激しくなった場合には斜面から離れた場所や、頑丈な建物の2階以上など少しでも安全な場所で安全を確保してほしい」と話しています。