捜査関係者によりますと、殺人の疑いで逮捕された青木政憲容疑者(31)は女性2人を襲った動機について「散歩中に自分のことをひとりぼっちとばかにしていると思った」などと話していることがわかっています。
また、いつから事件を起こそうと思っていたのかについては、「以前から襲おうと思っていた。事件当日にひとりぼっちと言われたように聞こえて、恨みが募って爆発した」などと供述しているということです。
容疑者は以前にも別の人から「ひとりぼっち」と、ばかにされたと訴え、怒りをあらわにすることがあったということです。
警察は、談笑しながら散歩していた被害者の女性2人に悪口を言われていると思い込み、一方的に恨みを募らせて襲ったとみて調べています。
【警察官2人襲った動機】
一方、警察官2人を襲った理由については、「射殺されると思ったので駆けつけた警察官も殺した」などと供述しているということです。
【事件発生1報】 5月25日午後4時26分ごろ、中野市江部で「男が女性を刺した」と110番通報がありました。 【刃物で襲う】 当時、近くにいた男性が事件を目撃していました。 男性が畑で仕事をしていたところ、女性が「おじさん、助けて」と言いながら走ってきたといいます。 この女性は被害者の1人、村上幸枝さん(66)でした。 村上さんの後ろからは迷彩服姿の青木政憲容疑者(31)が追いかけてきました。 手には長さ数十センチのサバイバルナイフを持ち、追いつくと背中を刺し、あおむけに倒れたところを上から胸を刺したということです。 当時の容疑者の様子については「表情は平然としていて、全くちゅうちょする様子はなく、まるで獲物をねらっているかのような目をしていました」と振り返りました。 男性が容疑者に対し、「なんでこんなことをするんだ」と言ったところ、「殺したいから殺してやった」と言って、現場を歩いて離れたということです。 村上さんは当時、竹内靖子さん(70)と一緒に散歩をしている最中に襲われたとみられ、竹内さんも容疑者の自宅付近で刺されたとみられます。 【警察官を銃で】 村上さんを刺したあと容疑者はいったん自宅に戻りました。 その後、通報を受けて中野警察署の玉井良樹警部補(46)と池内卓夫巡査部長(61)が乗ったパトカーが村上さんが刺された現場に駆けつけます。 そこに、再び容疑者があらわれました。このとき容疑者は台車のようなものを押していて村上さんを自宅の敷地に運んで隠そうとしたとみられます。 しかし、警察官が来たことから猟銃を手に容疑者はパトカーに近づいていきました。 このときの様子を村上さんの救命処置にあたっていた男性が目撃していました。 容疑者は警察官2人が乗ったパトカーの窓ガラスに銃口をあて、銃声が2回鳴り響きました。 男性は「いきなり、パトカーの運転席側に向かって銃を向けた。笑みを浮かべて楽しんでいる様子だった。そのあと、発砲音が2回聞こえた」と話していました。 その後、容疑者は北の方角へ向かいました。 【立てこもり】 容疑者が向かった先は、村上さんを襲った現場から北に100メートル余り離れた自宅。 自宅に入った容疑者は立てこもりを始めます。 自宅には容疑者のほかに、母とおばがいました。 母親は自宅内で、父親は電話でそれぞれ説得にあたりました。 捜査関係者によりますと、説得にあたる親に対し、「女性2人が話しながら散歩しているとき、自分のことを『独りぼっち』と、ばかにしていると思った」と説明したということです。 そして、出頭するよう促す母親に対し、「絞首刑は一気に死ねないからいやだ」と拒んだということです。 3時間ほどたった午後8時前後、家からは銃声が合わせて2発確認されました。 捜査関係者によりますと、2度みずからを銃で撃とうとしたとみられるということです。 そして8時半ごろ、自宅にいた母親は「私が撃ってあげる」と言って、猟銃を受け取ったといいます。 そのまま、母親は猟銃を持って自宅から逃げました。 さらに、翌0時10分ごろおばが逃げ出し、保護されました。 【確保】 その後も1人で立てこもりを続けた容疑者に対して、警察と親が説得にあたりました。 そして、事件から半日がたった午前4時半すぎ、容疑者が応じて外に出てきたということです。 外に出てきた際には、手を頭に乗せる様子もみられ、凶器などを持っていないことを確認したうえで身柄を確保しました。
許可を受けた時期は、 ▽平成27年1月に散弾銃1丁、 ▽平成29年10月に散弾銃と空気銃の2丁、 ▽平成31年2月にも猟銃1丁の所持の許可を長野県公安委員会から得ているということです。 また、3年前の令和2年に所持許可の更新がされた際には、警察が容疑者の母親から聞き取りを行ったところ、容疑者が猟銃を持つことに「賛成」と答えたということです。
一方、統合失調症やアルコール依存症、それに公共の安全を害したり、自殺のおそれがあったりするなど、「欠格事由」にあたる場合は銃の所持の許可を受けられず、更新もできないことになっています。 長野県警察本部によりますと、猟銃を所持する許可を得るには、地元の警察署に申し込み、銃の扱い方などの講習を受ける必要があります。 そのうえで、精神疾患やアルコール依存症、それに自分の行動が適切かどうか判断する能力に問題がないことなどを示す医師の診断書などとともに、射撃の実習を受けるための申請書を公安委員会に提出します。 この申請が出されると、警察官が家族や近所の人に聞き取り調査を行い、問題がないと認められれば、射撃場で実習を受けられます。 この実習のあと、「所持許可証」を申請すると、銃などの専用の保管庫の有無を警察官が調査し、問題がないと認められれば、銃の所持が許可されます。 その後は3回目の誕生日を迎えるごとに許可の更新が必要で、そのたびに警察署などで講習を受ける必要があるほか、銃の検査も毎年求められます。 また、猟銃の所持は、いったん許可されても近所の住民から相談があれば、再び警察が調査し、問題が確認されれば許可が取り消されることもあります。
診断を行ったことがある長野県内の医師からは「限られた時間で正確な診断を行うことについて難しさを感じる」などという話が聞かれました。 国内で猟銃を所持する許可を得るには、精神科や心療内科などの専門医か、かかりつけの医師が作成した診断書の提出が必要です。 長野県警によりますとこの診断書では、 ▽精神疾患やてんかん、アルコール依存症などがないことや、 ▽自分の行動が適切かどうか判断する能力に問題がないことなどを示す必要があるとされています。 NHKが長野県内にある精神科がある病院などを取材したところ、これまでにこうした診断書を作成した経験がある医師からは、限られた診察時間で正確な診断を行うことについて「難しさを感じる」という声が聞かれました。 このうち精神科のある医師は、「申請者は猟銃所持の許可を求めているので、基本的には『健康だ』と申告してくる。正確な診断を行うには、かなりの時間をかけて診察する必要があるが、ほかの患者の対応もある中で診察の時間は限られている。こうした状況の中、経験の多い精神科医でも正確な診断を出すには難しさがあると感じる」と話していました。 別の精神科の医師は、「病院によって診断の手法もさまざまで経験に頼る部分があるが、初めて来院した人の診断は特に難しい。仕事の内容や家族のこと、それに猟銃を所持する目的など、いろいろな側面から丁寧に聞き取りを行うが、その人のふだんの姿を知らないので本人の申告を信じるしかない」と話していました。 そのうえで、「今回の中野市の事件を受けて、今後、心理テストを取り入れようと思っているが、それを行っても十分だとはいえないと感じる」と話していました。
そのうえで、医師の診断書については、「申請時に問題がなくても、許可の更新までの間に健康状態が悪くなることもありえるので、診断書があるから問題ないといえるかはわからない」と話していました。
そのうえで対策の1つとして「近所に猟銃を所持している人がいて、その人に問題となる行動がみられたり、周囲に不安を感じさせたりする場合は、警察に相談して監視を強めてもらうことが大切だ」と指摘しました。 さらにもう1つの対策として、猟銃の保管方法の見直しをあげていました。 この点について津田さんは、「猟銃を自宅ではなく、鉄砲店に委託して保管してもらって、必要な時にだけ業者に取り出してもらうような形であれば、突発的な事件を防ぐことができる可能性もある。こうした中でのやりとりを通じて、保管する業者が所持者の異変を把握して、警察に助言することもできるかもしれない」と話していました。
これまでに分かっている事件の経緯(6月1日)
散弾銃など所持 許可の経緯
猟銃の所持 許可の手続きは
医師「限られた時間で正確な診断 難しさ感じる」
猟友会の会長「猟銃の所持 許可を得るのは簡単ではない」
銃器評論家「監視強化や保管方法の見直しを」