うずになったたいこ

昔むかしある海うみで、時折ときおりドーンドーンという大おおきな音おとが聞きこえてくる所ところがあり、その音おとが鳴なると大波おおなみが起おこるので、そこの漁村ぎょそんはその音おとが聞きこえると船ふねを引ひき上あげなければならなかった。

村人むらびとは海うみの底そこに竜神りゅうじんがいるのだとか、大おおウミガメがいるのだとか大おおハマグリがいるのだとか色いろいろ々噂うわさしあっていたが、真しんそうは謎なぞだった。

そんな時村ときむらで一番泳いちばんおよぎの得意とくいな若者わかものが、真相しんそうを確たしかめるべく海うみへ飛とび込こんだ。海うみの底そこは海上かいじょうとは違ちがっておだやかで魚さかながいっぱい泳およいでいた。ずっと深ふかく潜くぐっていくとある所ところで突然海底とつぜんかいていに落おち、底そこは空気くうきがあり水みずが天井てんじょうのようになっていた。

そして遠とおくから例れいの音おとが聞きこえてきたので、若者わかものはその音おとの方かたへ歩あるいていった。するとその先さきに巨大きょだいな木きの固かたまりのようなものがあり、若者わかものはその周まわりを回まわってみた。それはどうやら丸まるく円えんを描えがいているようで、いつの間まにか元もとの所ところに戻もどってしまった。

そこで今度こんどは木きの上うえへ登のぼってみた。 一番上いちばんうえへ辿たどり着つき一歩脚いっぽあしを踏ふみ入いれてみると音おとはやんだ。それは何なんと見みた事こともない巨大きょだいな太鼓たいこだったのである。

そこで若者わかものは太鼓たいこの真まん中なかに立たち踏ふみ付つけてみた。するとドーンという大おおきな音おとが鳴なった。若者わかものは面白おもしろくなって両足りょうあしでジャンプして踏ふみ付つけた。するとさらに巨大きょだいな音おとが鳴なり海うみの水みずを持もち上あげた。若者わかものはなおも調子ちょうしに乗のりどんどん強つよく踏ふみ付つけた。するとある時太鼓ときたいこの皮かわが破やぶけ、若者わかものは太鼓たいこの中なかへ落おっこちてしまった。

すると海うみの水みずが渦うずを巻まき、太鼓たいこの中なかへ吸あつい込こまれていった。その渦うずは今いまでも太鼓たいこに吸すい込こまれていて、これが有名ゆうめいな鳴門なるとの大渦だいうずになったそうである。その後ごその若者わかものを見みた者ものは誰だれひとりいなかった。