昔、徳島の井川に貧乏な男が住んでおった。男の名前は福造と言って、毎日石臼で粉を挽き、わずかばかりの手間賃を貰って暮らしておった。
ある年の大晦日のこと、貧しい福造は神様への正月のお供えが準備できなかった。そこで考えた末、神棚を掃除し、石臼にしめ縄をしめてお供えしたそうな。「神様、おらを金持ちにして下せえ。そうしたらお供え物もたんといたします。」と、福造は祈った。
その夜、福造は奇妙な夢を見た。夢の中で福造が石臼を挽いておると、金の粉があとからあとからキラキラと出てくるのじゃった。黄金の粉はとめどなく溢れ、大喜び……というところで、福造は目を覚ました。
次の日の朝、庄屋の使いの者がやって来た。そうして大豆を今日中に挽いてくれと言って、結構な額の前金を置いていった。福造が大急ぎで大豆を挽き庄屋屋敷へ届けると、庄屋は急がせたお礼じゃと、また大金を支払ってくれたそうな。
その年は、福造はやる事なす事すべて上手くいき、粉挽き商売は大繁盛。あっという間に街道沿いに小さな店を構えるまでになり、商いはどんどん大きくなっていった。
じゃが、金持ちになったとたん、福造は神様のことなどすっかり忘れてしもうた。その年の瀬、神様への正月のお供えが面倒になった福造は、神棚の掃除も米や餅等のお供え物もせず、去年と同じように古い石臼の埃をはらって簡単に供えるだけにした。
その晩、福造はまた夢を見た。「やめてくれぇ~お願いじゃ、やめてくれぇ!」なんと夢の中で福造の挽く石臼に小判が次々と吸い込まれ、灰になって出てくるのじゃった。
そうして案の定、その年の福造の商売はやることなすこと全て上手くいかず、たちまちのうちに元の貧乏な暮らしに戻ってしまった。
その時になって初めて、福造は金持ちになったらたんとお供え物をしますと神様に約束したのに、何もお供えしなかったことを思い出した。じゃが、今となっては何もかもが手遅れじゃったそうな。