昔、兵庫のある海辺の村に、タコなわ捕りの親子が住んでいました。ある時、息子も二十一歳になったので、金毘羅参りに行こうと、タコなわ捕りのおやじは四国へ向けて出発しました。
金毘羅船の中で知り合った大阪の鴻池の長者と一緒に、無事金毘羅参りをすませ、宿の湯につかっていた時の事。おやじと長者さんが、自宅の話をしているうちに、長者はすっかりおやじの事を「大金持ちの蛸八長者」だと勘違いしてしまいました。そして、長者の末娘をおやじの息子の嫁にしてほしい、と申し出ました。
金毘羅さんから海辺の家に戻ったおやじは、丸に八の字のかかれた旗を村中に掲げました。後日、村の様子を偵察にきた鴻池の長者の番頭さんは、またまた「村中が蛸八長者の持ち物だ」と勘違いしました。そんなわけでとんとん拍子で事は進み、とうとう鴻池の長者の末娘が嫁ぐ日になりました。
千石船に大判小判、嫁入り道具を沢山積んで、一同で蛸八長者の住む村へやってきました。ところが、いざ家に行ってみると、粗末な掘っ立て小屋だったもんだから、鴻池の長者は騙されたと思って腹を立てました。しかし末娘は「これも縁ですから、このまま嫁になる」と健気に言って、その夜めでたく婚礼を行いました。
その後、おやじの家では末娘が持ってきたお金で商売を始め、やがては千石船を四八杯(48隻)も持つほどの大長者になりました。これで本当の「蛸八長者」になりましたとさ。