さいたま市の高校 「はらわたが煮えくり返る思い」
さいたま市の栄東高校では新たな入試の対象だった高校2年生が民間試験に向けて、すでに予約金を振り込んだり、対策講座を受けるなどして準備を進めてきました。
延期は担任の教員が受験に必要な「共通ID」の申請をしようとしていたやさきの出来事だったといいます。
高校2年の男子生徒は「そもそも僕たちは民間試験は何のためにやるのか納得していなかったので、延期は当たり前の結果だと思っています。今後はやるべきことをやっていきたい」と話していました。
別の男子生徒は「やるものだと思って、予約金を払ったりして準備してきたので、はぁというのが感想です」と話していました。
また女子生徒は「朝起きてニュースをみて衝撃を覚えました。これまで準備してきたので悲しいです」と話していました。
高校では英語の担当教員が実際に民間試験を受けるなどして対策を進めていたということで、田中淳子校長は「びっくりしました。準備をしてきた生徒はいったいどうなるんだろうと、はらわたが煮えくり返る思いです。もっと早い段階で決断して欲しかった。振り回された生徒を考えると気の毒でならない。高校生はいちばんの被害者だ」と憤りをあらわにしていました。
大阪 府立高校「公平性が保たれる入試制度導入を」
関西でも高校など準備を進めてきた現場では戸惑いの声が上がりました。
このうち大阪 中央区にある大阪府立大手前高校では英語の民間試験を受験するときに必要な「共通ID」の申請に向けた準備を進めていましたが、1日朝、大阪府教育庁から連絡があり、作業を取りやめました。
新たな大学入試の対象となる今の高校2年生、およそ360人の申請書を1日に発送する予定でしたが、金庫に保管して今後の指示を待つということです。
進路指導を担当している竹田賢司教諭は「延期されると知ったときは戸惑いを感じました。不安に思う生徒もいるかもしれないので、しっかり説明していきたいと思います。英語の4技能を伸ばすこと自体は大切なことだと思うので、公平性が保たれる入試制度が導入されることを願いたいです」と話していました。
民間試験が導入されるはずだった高校2年の男子生徒は「受験料はすでに支払っているので、返還されるのか不安です。ただ、導入されるのかされないのか、制度がはっきりしてよかったです。区切りがついたので、共通テストに向けて勉強を頑張りたいです」と話していました。
また高校2年の女子生徒は「朝のニュースを受けて学校でも話題になっていて、驚いている人もいました。4技能は大切だと思うので、自分の意思で英検を受けようと思っていますが、目的が異なる民間の試験が同じ尺度で比べる入学試験に合うのか、疑問に感じていたので、今回の決定で安心しました」と話していました。
名古屋 中高一貫校「混乱の極み」
名古屋市内の学校でも混乱が広がっています。
東区の中高一貫校、名古屋中学校・高等学校では、受験に必要な共通IDの申請が1日に始まるのに合わせて、高校2年生500人余りが申請用紙の下書きを済ませ、学校は2日、保護者説明会を開いたうえで、来週、申請する予定でした。
こうした中、突然、民間試験の実施の延期が発表されたことを受けて、進路指導にあたる立石陽一教諭は「新たな制度を生徒に周知し、覚悟を決めて準備してきたなかで、まさか延期になるとは思ってもみませんでした。混乱の極みです」と述べ、戸惑いを隠せない様子でした。
そのうえで「最も混乱し、心配するのは生徒と保護者です。文部科学省にはしっかりしてもらいたい。『申し訳ない』というだけでなく、今後どうなるのか、責任を持って具体的に説明してほしいです」と話していました。
台風被災地 福島 郡山の高校生は
台風19号の大雨で大きな被害を受けた福島県郡山市内の高校に通い、先週、授業が再開したという高校2年の女子生徒は「受験に必要な共通IDを申請するよう学校から言われていました。民間試験向けの勉強をしようと思っていましたが、その必要がなくなるなら負担が減ってうれしい気持ちもあります」と話していました。
また高校1年の男子生徒は「授業で先生から民間試験の延期の話を聞きました。1年生なのでまだよくわからないですが、勉強してきたことがむだになってしまうんじゃないかと思います」と話していました。
大手予備校担当者「しわ寄せは生徒たち」
来年度からの大学入学共通テストで導入が決まっていた英語の民間試験の来年4月からの実施が延期されたことについて大手予備校の担当者は「新しい制度に突き進むより混乱は少なかったと思うが、遅きに失したのではないか」と話しています。
大手予備校の1つ河合塾の関西にある各校舎では大学入試への英語の民間試験の導入に向け、検定対策の専門の講座を設けたり、テキストの内容を変更したりして対応を進めてきました。
来年4月からの実施が延期されたことについて、河合塾近畿本部で英語を担当する佐野光宜講師は「これまで準備を進めてきた生徒や保護者は『今までの準備は何だったのか』と不満に思うし、混乱はあるだろう。ただ生徒は準備するものが一つ減ったこともあり、全体としてはこのまま新しい制度に突き進むより混乱は小さく、よかったのではないか」と話していました。
そのうえで佐野講師は「地域格差、経済格差に加え、そもそもそれぞれ違う性格をもつ検定をひとまとめにして、目的の違う大学入試に使うこと自体に妥当性があるかという点で反対意見は強かった。文科省の判断は遅きに失したのではないか。もっと早く判断すれば、混乱は少なかったはずだ。最終的にしわ寄せが来るのは生徒たちなので、こういうことはないようにしてほしい」と話していました。