イスラエル軍は200以上の無人機やミサイルが発射され、そのうち多くを迎撃したとしています。
※イスラエルに関する日本時間4月14日の動きを随時更新してお伝えします。
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“イスラエルに向けて複数の無人機を発射”イラン国営メディア
イランの国営メディアは革命防衛隊が、イスラエルに向けて複数の無人機を発射したほかイスラエル各地やイスラエルが占領するゴラン高原にミサイルを発射したと伝えました。4月1日にシリアにあるイラン大使館が、イスラエルによるとみられる攻撃を受け、革命防衛隊の司令官らが殺害されたことへの報復としています。
一方、イスラエル軍は、イランが自国の領土からイスラエルに向けて複数の無人機を発射したと現地時間13日午後11時すぎ、日本時間の14日午前5時すぎに発表しました。これを受けて、イスラエルのネタニヤフ首相は現地時間13日深夜、「ここ数年、特にここ数週間、イスラエルはイランによる直接攻撃に備えてきた。防衛システムが配備されていてどのようなシナリオにも準備ができている。われわれを攻撃する者は誰であろうと攻撃し返す」とする声明を出しました。
イスラエル軍のハガリ報道官は会見を開き、200以上の無人機やミサイルが発射されたと明らかにしたうえでそのうち多くを迎撃したと主張しました。また、一部のミサイルが着弾し、軍の施設に被害が出たことも認めました。
一方、アメリカ国防総省の当局者は13日、NHKの取材に対し「アメリカ軍は、イランがイスラエルを標的に飛ばした無人機を中東地域で撃墜し続けている」と明らかにしました。
エルサレムからの映像では、現地時間14日午前1時45分ごろ、上空に白っぽく光る筋が通過し、そのあと、上空で爆発するような様子が確認できました。また、防空警報とみられるサイレンが鳴り響く様子も確認でき、イスラエル軍によりますと、現地時間の午前1時40分すぎ以降、各地に防空警報が発表されたということです。
こうしたなか、イスラエルの救急当局はSNSへの投稿で南部の町アラド近郊で10歳くらいの女の子が重傷を負って治療を受けていると明らかにしましたが、けがをした状況など詳しいことはわかっていません。
イランがイスラエルに対し大規模な報復攻撃に乗り出したことで、中東地域のさらなる緊迫化は避けられず、今後、イスラエル側の被害の状況や対応が焦点となります。
<14日の動き>
イラン国連代表部「この問題は完了したとみなしうる」SNS投稿
イランの国連代表部はSNSへの投稿で、今回の大規模攻撃について「この問題は完了したとみなしうる」としてイランとしては、大使館攻撃に対するイスラエルへの報復はひとまず果たしたという考えを示しました。
一方で「しかし、イスラエルがまた過ちを犯せばイランの対応はより厳しいものになる」と述べ、イスラエルをけん制し、報復の応酬は避けたい考えをにじませました。
バイデン大統領「可能な限り最も強いことばで非難」
アメリカのバイデン大統領は13日、イランによるイスラエルへの攻撃について声明を出し「可能な限り最も強いことばで非難する」と強調しました。
そして「わたしの指示により、イスラエルの防衛を支援するため、アメリカ軍はここ1週間、航空機やミサイル駆逐艦をこの地域へと移動させてきた。こうした部隊の展開のおかげで、われわれは、イスラエルが、ほぼすべての無人機やミサイルを撃墜するのを支援した」と強調しました。
バイデン大統領とネタニヤフ首相が電話会談
ホワイトハウスによりますと、バイデン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が13日夜、日本時間の14日午前に電話で会談しました。現時点で内容は明らかになっていませんが、イランがイスラエルを攻撃したことを受け、今後の対応などをめぐって意見を交わしたものとみられます。
空の便に影響 イスラエルやイランなどの空域が閉鎖
アメリカのFAA=連邦航空局がまとめている各地の航空情報や、複数の海外メディアによりますとイスラエルやイランなどの空域が閉鎖され、民間の航空機が欠航するなど空の便に影響が出ています。
FAAなどによりますと、空域が閉鎖されているのは、イスラエルのテルアビブや、イランのテヘラン、レバノンの上空などで、各地でフライトが欠航しています。
このうちスイス・インターナショナル・エアラインズは、NHKの取材に対し、イスラエルのテルアビブを離着陸する便について、当面、安全上の理由で運航を見合わせると回答しました。ほかの便についても、中東の上空を避けて飛行するため通常より時間がかかる場合があるとしています。
また海外メディアによりますとアメリカのユナイテッド航空も、テルアビブに向かう便の少なくとも一部について欠航を決めたということです。
イスラエル軍 “防空システムでミサイルの大部分を迎撃”
イスラエル軍は14日、SNSを更新し、イランから発射された数十発の地対地ミサイルがイスラエルの領内に近づいたことが確認され、防空システム「アロー」を使ってイスラエル領内に入る前に大部分を迎撃したと明らかにしました。一方で、イスラエル南部の軍の基地を含む数カ所での着弾が確認され、軽微な被害が出ているとしています。
この投稿の中で、イスラエル軍は空軍の作戦センターの様子だとする30秒の動画を公開しました。動画の中では、多くのモニターがある部屋で何かを指しながら話し合う様子や、連絡をとりあっているような様子が確認できます。また、イスラエルに接近するあらゆる脅威を迎撃するため、戦闘機を運用しているとしています。
同時に投稿されたここ数週間のイスラエル空軍の準備の様子だとする1分ほどの映像では、機体などを整備する様子や軍用機が深夜に飛び立つ様子が映っています。
日本政府関係者「邦人に被害が生じることがないよう呼びかけ」
政府関係者は、NHKの取材に対し「岸田総理大臣には随時、状況は報告している。イスラエルをはじめ各国に滞在中の邦人に対し現地の大使館から注意喚起を行っており、引き続き邦人に被害が生じることがないよう呼びかけていく」と述べました。
国連安保理 緊急会合開催へ イスラエルが議長国などに開催要請
イスラエルに向けてイランからとみられる複数の無人機やミサイルが発射されたことを受け、イスラエルは国連安全保障理事会の緊急会合を開催するよう要請する書簡をグテーレス事務総長と今月の議長国のマルタに送りました。議長国マルタは14日午後、日本時間のあす午前5時から緊急会合を開催する方向で調整しています。
国連事務総長「敵対行為を直ちにやめるよう求める」
国連のグテーレス事務総長は13日、声明を発表し、「イランが今晩、イスラエルに対して行った大規模な攻撃に代表される深刻な事態の悪化を強く非難する。こうした敵対行為を直ちにやめるよう求める」と述べました。
そのうえで「中東の複数の戦線で大きな軍事衝突につながる行動を避けるよう、すべての当事者に対し最大限の自制を求める。この地域も世界も、もうひとつの戦争に対応する余裕はないと繰り返し強調してきた」と訴えました。
米国防総省「米軍が無人機を中東地域で撃墜し続けている」
アメリカ国防総省の当局者は13日、NHKの取材に対し「イスラエルの安全に対するわれわれの鉄壁の関与に基づき、アメリカ軍は、イランがイスラエルを標的に飛ばした無人機を中東地域で撃墜し続けている」と明らかにしました。
そのうえで「アメリカ軍は態勢を維持し、さらなる防衛支援を提供するとともに、この地域で活動するアメリカ軍の部隊を守る」としています。
バイデン大統領「イスラエルの安全への関与は揺るがない」
アメリカのバイデン大統領は13日、旧ツイッターのXに「イランのイスラエルに対する攻撃について最新情報の報告を国家安全保障チームから受けた。イランやその支援勢力の脅威に対するわれわれのイスラエルの安全への関与は揺るがない」と投稿し、イスラエルを支援する姿勢を鮮明にしました。
また、ホワイトハウスで危機管理にあたるための「シチュエーション・ルーム」にオースティン国防長官やサリバン大統領補佐官ら国家安全保障チームを集めて対応を協議している様子を写した写真もあわせて投稿しました。
イスラエル軍のラジオ局“100機以上の無人機が迎撃”
イスラエル軍のラジオ局は現地時間午前1時半ごろ、日本時間の午前7時半ごろ、関係者の話として100機以上の無人機がイスラエルの領土の外で迎撃されたと伝えました。
“防空システムが複数のイランの無人機を撃墜”
アメリカのCNNテレビなど複数のメディアは13日、アメリカ政府当局者の話として、アメリカが中東に展開している防空システムが複数のイランの無人機を撃墜したと伝えました。ただ、当局者は、どこでどのように撃墜したのかなど詳細は明らかにしていないとしています。
アメリカのCNNテレビなど複数のメディアは13日、アメリカ政府当局者の話として、アメリカが中東に展開している防空システムが複数のイランの無人機を撃墜したと伝えました。ただ、当局者は、どこでどのように撃墜したのかなど詳細は明らかにしていないとしています。
“無人機は「シャヘド136」も含まれている”
革命防衛隊とつながりのあるメディアの「タスニム通信」は今回発射された無人機のタイプについて、「シャヘド136」も含まれていると伝えました。これは自爆型の無人機で、イランがロシアに供与し、ウクライナへの軍事侵攻に使われて甚大な被害をもたらしていると欧米などから指摘されているものです。飛行可能な距離は2000キロ前後と推定され、1機ごとの攻撃力は限られるものの、大量に飛ばすことで一部の機体が防空システムをかいくぐるような運用方法が特徴だとされています。
イスラエル南部で10歳くらいの女の子が重傷
イスラエル各地でイランからの無人機によるとみられる攻撃が相次ぐ中、イスラエルの救急当局は14日、SNSへの投稿で南部の町アラド近郊で10歳くらいの女の子が重傷を負って治療を受けていると明らかにしました。
イラン国連代表部「アメリカは距離を」
イランの国連代表部は、SNSへの投稿で「イスラエルが再び過ちを犯すならば、イランの対応は一層厳しいものになるだろう」として、イスラエルをけん制しました。そのうえで「これはイランとイスラエルの戦いだ。アメリカは距離を取らなければならない」として、アメリカに対し、イスラエルを支援するのを控えるよう求めました。
イスラエル首相「どのようなシナリオにも準備できている」
イランから複数の無人機が発射されたことを受けて、イスラエルのネタニヤフ首相は現地時間13日深夜、「ここ数年、特にここ数週間、イスラエルはイランによる直接攻撃に備えてきた。防衛システムが配備されていてどのようなシナリオにも準備ができている」とする声明を出しました。
米ホワイトハウス“攻撃は数時間にわたる可能性高い”
アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のワトソン報道官は13日、声明を出し「イランがイスラエルに対する攻撃を開始した。バイデン大統領は、国家安全保障チームから定期的に状況の報告を受けており、このあと、ホワイトハウスで協議する予定だ。安全保障チームはイスラエルやパートナー国、同盟国と定期的に連絡を取り合っている。攻撃は数時間にわたって行われる可能性が高い」としています。
そのうえで「バイデン大統領は、イスラエルの安全に対するわれわれの支持は揺るぎないと明言している。アメリカはイスラエルの人々とともにあり、イランからのこうした脅威に対する防衛を支援する」として、アメリカによるイスラエルの防衛への関与を強調しました。
イギリス首相 EU上級代表が攻撃を非難
イギリスのスナク首相は、イランがイスラエルに向けて複数の無人機を発射したことを受けて「イスラエルに対するイランの無謀な攻撃を最も強いことばで非難する」と声明を発表しました。スナク首相は「イランは自国の裏庭に混乱の種をまくつもりだということを改めて示した。イギリスはイスラエルの安全、ヨルダンやイラクを含む地域のパートナーのために立ち向かう」などとして、状況の安定化とさらなる緊張の拡大の防止に緊急に取り組んでいるとしています。
また、EUの外相にあたるボレル上級代表もSNSに投稿し「EUはイスラエルに対するイランの容認しがたい攻撃を強く非難する。これは前例のないエスカレーションであり、地域の安全に対する重大な脅威だ」としています。
バイデン大統領 予定切り上げホワイトハウスへ
アメリカ・ホワイトハウスは、バイデン大統領が、13日、急きょ、予定を切り上げホワイトハウスへ戻り、中東情勢をめぐって、国家安全保障チームと協議すると明らかにしました。
バイデン大統領は、今月14日まで東部デラウェア州に滞在する予定でした。
一方、アメリカ国防総省は13日、オースティン国防長官とイスラエルのガラント国防相が電話で会談したと発表しました。
会談の中で、オースティン長官は「イスラエルの防衛に対するアメリカの支援は揺るぎない」と強調したとしています。
その上で「イランやその支援を受ける勢力によるいかなる攻撃からも、アメリカはイスラエルを防衛するため、全面的に支援することを約束する」と伝えたとしています。
また、ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官はみずからのSNSに投稿し、イスラエルのハネグビ国家安全保障顧問と電話で会談し、中東情勢をめぐって協議したと明らかにしました。
会談の中でサリバン補佐官は「アメリカによるイスラエルの安全に対する関与は鉄壁だ」と強調したとしています。
<イランとイスラエル>
イランとイスラエルのこれまで
激しく対立するイランとイスラエルはかつてイランが親米国家だった王政時代には、友好的な関係にありました。
しかし、1979年のイスラム革命で宗教指導者が統治する現体制を確立して以来、イランはイスラエルをイスラム教の聖地でもあるエルサレムを奪った敵とみなして国家としても認めていません。
これに対し、イスラエルもイランがパレスチナのイスラム組織ハマスや、レバノンのシーア派組織ヒズボラを支援し、国の安全や存亡を脅かしているとして敵視してきました。
2000年代にイランが核兵器を開発している疑惑が持ち上がると、イスラエルは、イランの核開発を阻止する動きを強め、対立は一層先鋭化しました。
近年は双方によるとみられる暗殺や攻撃が相次ぎ、「シャドー・ウォー=影の戦争」とも呼ばれる状態が続いてきました。
イランでは2020年、核開発を指揮してきた研究者が何者かに殺害された上、核関連施設での火災などがたびたび起き、イラン側はいずれもイスラエルの犯行だと主張しました。
一方、近海のオマーン湾ではイスラエルの企業や経営者が関わる船舶が相次いで攻撃され、イランによる報復と見られています。
ガザ地区でイスラエルとハマスの戦闘が始まると、対立はさらに深まり、イスラエルは隣国シリアにあるイランの軍事精鋭部隊・革命防衛隊の拠点などへの攻撃を強めています。
去年12月には革命防衛隊の幹部で、国外の特殊任務を担う「コッズ部隊」の軍事顧問としてシリアで活動していたムサビ准将がミサイル攻撃で殺害されたほか、ことし1月にもシリアで革命防衛隊の軍事顧問5人が殺害され、イランはいずれもイスラエルによる攻撃だと非難しています。
一方、イランはことし1月、隣国イラクにあるイスラエルの情報機関モサドの拠点を弾道ミサイルで攻撃したと発表し、革命防衛隊の幹部を殺害された報復だとしていました。
イラン大使館攻撃と報復宣言
今月1日、シリアの首都ダマスカスの中心部で、イラン大使館の領事部の建物がミサイルによる攻撃で破壊されました。
イランの国営メディアは軍事精鋭部隊の革命防衛隊で、国外の特殊任務にあたる「コッズ部隊」の司令官1人と副官を含むあわせて7人が殺害されたほか、シリア人の市民6人も死亡したと伝えています。
現地の映像には、通りに面した建物が大きく崩れ、がれきが散乱している様子が写っています。
攻撃についてイランの最高指導者ハメネイ師は2日に出した声明で「憎しみに満ちたイスラエルの政権による犯罪だ」としてイスラエルによる攻撃だと非難しました。
その上で「邪悪な政権は罰せられるだろう。われわれは神の力によってこの犯罪を後悔させる」として報復を誓いました。
また、今月10日には「イランの領土への攻撃とみなされる。邪悪な政権は罰せられなければならない」と演説し、改めてイスラエルへの報復を宣言しました。
一方、イスラエルはこの攻撃への関与を明らかにしていませんが、イスラエル軍の報道官は、アメリカのCNNの取材に対し「建物は領事館でも大使館でもない。ダマスカスにあるコッズ部隊の軍事施設だ」と主張しています。
“イランがイスラエル関係の船舶を拿捕(だほ)”
イランの国営通信は13日、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海上交通の要衝、ホルムズ海峡付近で、イランの軍事精鋭部隊・革命防衛隊の海軍が、イスラエルに関係のある船舶を拿捕(だほ)したと伝えました。
イラン側は、これまでのところ正式な声明などは出していませんが、シリアにあるイラン大使館を攻撃されたことへの報復措置の一環である可能性があります。これに対して、イスラエルのカッツ外相はSNSでイランに対し「ハマスの犯罪を支援するばかりか、国際法に違反して海賊行為をしている」と非難した上で、国際社会に対し、イランに制裁を科すよう呼びかけました。
一方、イスラエル北部では前日に、イランの支援を受けるヒズボラが複数の攻撃を行ったのに続き、13日も、イスラエル北部で防空警報が断続的に出されました。イスラエル軍は「ヒズボラの無人機2機がレバノンから飛来し、爆発した」として、レバノン南部を砲撃したとしています。
こうした状況の中、イスラエル軍のハガリ報道官は13日、声明を発表し、「イランがこれ以上、事態を緊迫させる選択をするなら、その責任を負うことになる。イスラエル軍は同盟国とともに、必要な措置を取るだろう」と、警告していて、中東地域では緊張状態が続いています。
ゴラン高原とは
ゴラン高原はもともとシリアの領土ですが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが大部分を占領し、1981年に一方的に併合しました。
国連の安全保障理事会の決議ではこの併合を無効だとして、イスラエルに撤退を求めましたが、イスラエルはその後も占領を続けています。
2019年にはアメリカの当時のトランプ大統領が歴代の政策を覆し、ゴラン高原についてイスラエルの主権を認める宣言に署名し、国際社会からの批判を招きました。
ゴラン高原に設けられた非武装地帯には、シリアとイスラエルの停戦を監視するPKO=平和維持部隊が展開し、日本の自衛隊も1996年から参加していましたが、シリアの内戦による情勢の悪化を受けて、2013年までに撤収しています。
イランの軍事力は
イランは中東有数の軍事大国とされます。
その軍事力は1979年のイスラム革命以前から国防を担ってきた「正規軍」と、革命後に成立した政治体制を保持する目的で発足した「革命防衛隊」の2つの組織で構成されます。
それぞれが陸海空軍を持ち、イギリスのシンクタンク、国際戦略研究所が発行する「ミリタリー・バランス」によると、総兵力は61万人。
内訳は正規軍が42万人で、革命防衛隊が19万人とされています。
近年、特に力を入れてきたのが、ミサイルと無人機の開発です。
そうした兵器の多くを公開した去年9月の軍事パレードで、ライシ大統領は「われわれの軍隊は兵器を輸入する側から、輸出する側になり、その能力を世界から認められるようになった」と自信をのぞかせていました。
このうち、ミサイルについてイランは、敵対するイスラエルの全土を狙うことができる射程およそ2000キロの弾道ミサイルを持っているほか、去年(2023年)6月には音速をはるかに超える速さで飛行する極超音速ミサイルを開発したとして公開しています。
また、イラン産の無人機をめぐっては、イランは否定しているものの、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに供与されて、甚大な被害をもたらしていると欧米から指摘されるなど、開発能力の高さが注目されています。
イラン主導「抵抗の枢軸」とは
去年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以降、活動を活発化させているのが、イランが主導し、「抵抗の枢軸」と呼ばれる中東各地の武装組織のネットワークです。
イランは直接的な軍事介入は行っていませんが、イランが支援するこうした武装組織はイスラエルや中東に駐留するアメリカ軍への攻撃を繰り返しています。
「抵抗の枢軸」はハマスのほか、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやイエメンの反政府勢力フーシ派、それに、イラクやシリアの民兵組織などで構成されています。
このうち、ヒズボラはレバノン南部からイスラエルに対し、ロケット弾や無人機での攻撃を続けているほか、フーシ派はイスラエルへのミサイル攻撃や紅海周辺を航行する船舶への攻撃を続けています。
また、イラクやシリアでは民兵組織が、駐留するアメリカ軍への攻撃を繰り返してきました。
イスラエルとイランの報復の応酬が激しさを増せば、こうした武装組織も巻き込んで、中東情勢がさらに緊迫化するおそれがあります。
<イランとアメリカ>
アメリカのこれまでの対応
去年10月にイスラエルとハマスの衝突が始まってから、アメリカは、イスラエルと敵対するイランが混乱に乗じて介入し、中東地域に戦闘が拡大することを強く警戒してきました。
衝突のおよそ1か月後の去年11月には、イランを念頭に、抑止力を高めるため、空母2隻を一時、イスラエルに近い地中海に展開させました。一方、イランが支援する民兵組織はハマスとの連帯を掲げ、イラクやシリアに駐留するアメリカ軍の部隊に対し無人機やロケット弾などで攻撃を始めたほか、イランが後ろ盾となっているイエメンの反政府勢力、フーシ派も紅海を航行する民間の船舶やアメリカ軍の艦艇への攻撃を繰り返すようになりました。
ことし1月にはシリアとの国境に近いヨルダンにあるアメリカ軍の拠点が親イランの武装組織に攻撃され、兵士3人が死亡し、アメリカは2月、その報復措置として、イラクとシリアの領内にある、イランの軍事精鋭部隊の関連施設などを空爆しました。さらに、アメリカ軍はイギリス軍とともにフーシ派の拠点を攻撃するなど、イランが支援する武装組織への圧力を強めてきました。ただ、バイデン大統領は「中東地域での戦闘の拡大は望まない」と繰り返し強調し、イラン領内への直接的な攻撃は控えてきました。
シリアにあるイランの大使館がイスラエルによるとみられる攻撃を受け、イランがイスラエルに対する報復措置をとる構えを見せる中、今月10日、バイデン大統領は「イランやイランが支援する組織からの脅威に対するイスラエルの安全保障へのわれわれの関与は揺るがない。イスラエルの安全のためにできるかぎりのことを行う」と述べ、イランを強くけん制しました。また、ブリンケン国務長官も、イランと友好関係にある中国の王毅外相のほか、中東各国の外相とも電話で会談し、イランの報復措置を防ぐため、外交的な働きかけを強めていました。
米軍 空母打撃群を中東地域に展開
アメリカが現在、イランへの対応を念頭に中東地域に展開しているのが、空母「アイゼンハワー」を中心とする空母打撃群です。
空母「アイゼンハワー」を中心とする空母打撃群は、緊急事態などに海上兵力を機動的に展開することが主な任務で、ミサイル巡洋艦「フィリピン・シー」やミサイル駆逐艦「メイソン」などで構成されています。空母「アイゼンハワー」には、F18戦闘機やE2早期警戒機などが搭載されています。「アイゼンハワー」を中心とする空母打撃群はこれまで紅海で、イランが支援するイエメンの反政府勢力フーシ派への対応にあたり、ことし2月、アメリカ軍とイギリス軍がフーシ派の支配地域を攻撃した作戦にも参加しています。
イラン 過去にも大規模な報復攻撃
イランは、過去にも、軍事精鋭部隊・革命防衛隊の著名な司令官が殺害されたことを受けて敵対する国に対して大規模な報復攻撃を行ったことがあります。
2020年1月、アメリカ軍は当時のトランプ大統領の指示にもとづいて、イランの革命防衛隊のソレイマニ司令官を隣国のイラクで殺害しました。
ソレイマニ司令官は、イランでは、中東での自国の影響力を拡大する上で大きな役割を果たしたとして、国内で英雄視されていたため、イランは激しく反発し報復すると宣言しました。
殺害から5日後に、イランは、イラクにあるアメリカ軍の拠点を10発以上の弾道ミサイルで攻撃し両国の間で全面的な軍事衝突に発展するおそれが高まりました。
ただ、アメリカ人兵士らに死者は出ず、当時のトランプ大統領はさらなる反撃は行わず、イランへの対抗措置としては新たな経済制裁を科すことを選びました。
結果として、両国の対立はその後も続いたものの、軍事的に事態がそれ以上、エスカレートすることは避けられました。