しかし、先天せんてん性せいの心臓しんぞうの病気びょうきで手術しゅじゅつを受うけたことがあるため、心臓しんぞうの管理かんりが難むずかしいとして、3日にち後ご、生後せいご間まもなく手術しゅじゅつを受うけ、その後そのごも定期ていき的てきに通かよっていたこども病院びょういんに転院てんいんとなりました。

「最初さいしょに搬送はんそうされた病院びょういんのお医者いしゃさんが『大変たいへんな子こが来きちゃった』と驚おどろいていたと聞ききました。こども病院びょういんは生うまれてすぐから診みていただいている病院びょういんなので安心あんしん感かんはありますが、まわりも小ちいさい子こばかりだし、先生せんせいにもいつまでも申し訳もうしわけないなという思おもいもかなりあります」。

通常つうじょう、小児しょうに医療いりょうの対象たいしょう年齢ねんれいは15歳さい未満みまんですが、この病院びょういんでは、20歳さい以上いじょうの外来がいらい患者かんじゃがおよそ2300人にんと、全体ぜんたいの7％に上のぼっています。

医療いりょう技術ぎじゅつが進歩しんぽして、先天せんてん性せいの心臓しんぞう病びょうや小児しょうにがんなど、重おもい病気びょうきの子こどもの命いのちが救すくえるようになったことで、こうした大人おとなの患者かんじゃが増ふえているのです。

かつては治療ちりょうが難むずかしかった病気びょうきで命いのちを救すくわれた子こどもは12万まん人にん余あまりに上のぼるとされます。

こうした子こどもたちが大人おとなになって、引き続ひきつづき、小児しょうに科かにかかり続つづけているのです。

ただ、重おもい病気びょうきの治療ちりょうを受うけた子こどもの場合ばあい、子こどもの頃ころに受うけた治療ちりょうの定期ていき観察かんさつが引き続ひきつづき必要ひつようだといった理由りゆうで、大人おとなの医療いりょうに移うつるのがそのままでは難むずかしいとされます。

年齢ねんれいに応おうじて提供ていきょうされるべき適切てきせつな医療いりょう、「移行いこう期き医療いりょう」が必要ひつようになってきます。

ところが、この「移行いこう期き医療いりょう」がうまく機能きのうしていません。

患者かんじゃ自身じしんの命いのちと健康けんこうを守まもることにも課題かだいが。

大人おとなになっても患者かんじゃを見み続つづけている小児しょうに科かの医師いしは、心筋しんきん梗塞こうそくや糖尿とうにょう病びょうといった大人おとなになってから発症はっしょうする病気びょうきや、妊娠にんしん・出産しゅっさんに伴ともなうリスクなどに対応たいおうできず、患者かんじゃの命いのちを守まもれなくなるのではないかと危惧きぐしています。

「大人おとなの患者かんじゃさんも行き先ゆきさきがないという状況じょうきょうを作つくるべきではないので、新規しんきの小児しょうに患者かんじゃさんの入院にゅういんを断ことわらざるを得えないこともあります。難むずかしい病気びょうきの小児しょうに患者かんじゃさんを治療ちりょうすることに影響えいきょうが出でてこないかが心配しんぱいです」。

定期ていき健けん診みのため数すうか月かげつに1度ど小児しょうに科かを受診じゅしんしてきましたが、大人おとなになっても自分じぶんの病気びょうきについてほとんど知識ちしきがなかったといいます。

「病名びょうめいは知しっていましたが、自分じぶんの病気びょうきについて全まったく理解りかいしていませんでした。胸むねに手術しゅじゅつの跡あとはありますが当時とうじの記憶きおくはないですし、10代だいはずっと元気げんきだったので自分じぶんの病気びょうきは軽かるいんだと思おもっていて、病気びょうきに興味きょうみがありませんでした」

野呂のろさんは19歳さいで専門せんもん学校がっこうを卒業そつぎょうし、大型おおがた重機じゅうきのメンテナンスを行おこなう仕事しごとに就つきました。

その後そのご、体調たいちょうが急激きゅうげきに悪化あっかしました。

紹介しょうかいされた病院びょういんですぐに人工じんこう血管けっかんを用もちいた大おおがかりな手術しゅじゅつを受うけることになりました。

パソコン業務ぎょうむで長時間ちょうじかん同おなじ姿勢しせいでいること、現場げんばで重おもい部品ぶひんを運はこぶこと、こうした仕事しごとで心臓しんぞうに大おおきな負荷ふかがかかっていたと、医師いしから指摘してきされました。

「疲労ひろう感かんがすごくて、通勤つうきん時じに酸さん欠けつのような症状しょうじょうが出でることもありました。でも仕事しごとのストレスかなと思おもっていました。医師いしからはよく生いきていたねって言いわれました。自分じぶんが手術しゅじゅつをするなんて念頭ねんとうにすらなかったので驚おどろきました。自分じぶんの病気びょうきについて当事者とうじしゃ意識いしきをもって知しることは大切たいせつだと感かんじています」。

（小学生しょうがくせい）「両りょう大だい血管けっかん右みぎ室しつ起おこし始はじめ症しょう」

（看護かんご師し）「すごいすごい。体育たいいくをするときに病院びょういんの先生せんせいになにか注意ちゅういしなさいっていわれてることあるかな？」

（小学生しょうがくせい）「今いまはあまりない」

（看護かんご師し）「こまめに水みずを飲のむことを忘わすれないでね」。

「大人おとなになった患者かんじゃさんと接せっする中なかで、自分じぶんの病気びょうきのことをほとんど理解りかいしていなかったという苦にがい経験けいけんをたくさんしてきました。症状しょうじょうがなくても服薬ふくやくを続つづけて、定期ていき健けん診みをきちんと受うけることの必要ひつよう性せいとか、小ちいさいころから自分じぶんのこととして病気びょうきを理解りかいしてもらうための働はたらきかけが必要ひつようなんだと気きづいて取り組とりくんでいます」。

「50歳さいの私わたしと、この手術しゅじゅつを受うけたあなたに残のこされた寿命じゅみょうは同おなじくらいなんだ。医療いりょうが進すすめば延のびるかもしれないけど、いま50歳さいと思おもって生活せいかつに気きをつけてほしい。大事だいじなのは病院びょういんに通かようこと。通かよわなくなると薬くすりも飲のまなくなって、あなたの場合ばあいは一気いっきに心臓しんぞうが悪わるくなる可能かのう性せいがあるんだよ」。

「成人せいじんの診療しんりょう科かでは、患者かんじゃさん本人ほんにんが、医師いしと治療ちりょうの内容ないようを決きめていくことが求もとめられます。小児しょうに科かでは両親りょうしんと医師いしが命いのちを守まもってくれていましたが、患者かんじゃさん本人ほんにんも加くわわって一緒いっしょに病気びょうきについて考かんがえていく。最終さいしゅう的てきには自分じぶんの命いのちを自分じぶんで守まもれるように患者かんじゃさんが自立じりつしなければなりません」。

優やさしい口調くちょうで質問しつもんを投なげかけていました。

（元木もとき医師いし）「小児しょうに科かの先生せんせいにこういうことに注意ちゅういしてねってなんか言いわれてきた？」

（男性だんせい）「虫歯むしばができないようにって」

（元木もとき医師いし）「そうだね。心臓しんぞうにばい菌ばいきんがついちゃうからね。歯はを抜ぬきますがいいですかって歯医者はいしゃに言いわれたらどうする？」

（男性だんせい）「心臓しんぞうの病気びょうきがありますって言いう」

（元木もとき医師いし）「そうそう。難むずかしい病名びょうめいもそろそろ覚おぼえておこうかな。『感染かんせん性せい心しん内ない膜まく炎えん』って言いって心臓しんぞうの内側うちがわにうみがついちゃう病気びょうき。歯はを抜ぬくときはそのリスクがあるから自分じぶんで伝つたえなきゃいけないよ」。

「患者かんじゃさんたちはずっとお世話おせわになってきた小児しょうに科かの先生せんせいへの信頼しんらい感かんが強しいし結むすびつきも強つよいので、大人おとなの診療しんりょうに慣なれてもらうステップがあったほうが、大学だいがく病院びょういんにくるストレスも減へらせるんじゃないかと思おもっています」。

元木もとき医師いしは、診みたことがなかった先天せんてん性せいの心臓しんぞう病びょうの患者かんじゃを受け入うけいれるために、こども病院びょういんで学まなんできました。

元木もとき博彦ひろひこ医師いし

「循環じゅんかん器き内科ないかの医師いしは、大人おとなの心臓しんぞう病びょうの管理かんりに関にかんしては慣なれているんですが、先天せんてん性せいの心臓しんぞう病びょうの患者かんじゃさんは一人ひとりひとり心臓しんぞうの形かたちなども違ちがうので戸惑とまどいはありました。最初さいしょの頃ころはこども病院びょういんの先生せんせいの診察しんさつを見学けんがくさせてもらって、1年ねんくらい、理解りかいしたり調しらべたりし続つづけて、自分じぶんで診察しんさつできるようになりました」。

「ぼくらもかつては、忙いそがしいとか人員じんいん配置はいちが難むずかしいということで、大人おとなになった患者かんじゃさんの受け入うけいれを敬遠けいえんしていた経緯けいいがありましたが、診みようという成人せいじん科かの仲間なかまの医師いしが増ふえてほしいなっていう思おもいがありますね」。