現在、国内では2か所が稼働していますが、いずれも都内にあるため、日本母乳バンク協会は災害時などに備え東京以外にも分散して設置する必要があるとして、クラウドファンディングで資金を集めるなど準備を進めてきました。
運営にはすでに都内で稼働している「日本財団母乳バンク」が協力し、ドナーから集めた母乳を低温殺菌処理して送り、新たな母乳バンクで冷凍保管する予定です。 そして、通常時は東海地方、災害などで都内の母乳バンクが稼働できない緊急時には全国の医療機関にドナーミルクを送るということです。
母乳の提供には高い安全性が求められるため、国際的な基準に基づいて運用され母乳の提供者は、特定の施設で血液検査などを受けたうえでドナー登録をして母乳を提供します。 提供してもらった母乳は低温殺菌処理し、細菌検査などをしたうえで母乳バンクで冷凍保管します。
早産などで1500グラム未満の体重で生まれた赤ちゃんは「極低出生体重児」と呼ばれ、感染症や病気にかかるリスクが高いとされています。 母乳はそのリスクを減らす効果があるとされ、生死にかかわる腸の一部が“え死”してしまう病気については、人工ミルクに比べ発症リスクをおよそ3分の1に低下させられるという研究結果もあります。 しかし、早産などの場合、母親は体調がすぐれず、母乳が出ないことも少なくないため、ドナーを募って確保しておく必要があるのです。
水野さんは活動を広げるため「日本母乳バンク協会」を設立。 しかし、昭和大学江東豊洲病院の母乳バンクは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、去年3月に閉鎖されました。 現在、国内で稼働しているのはいずれも東京 中央区にあり、おととし、ベビー用品大手の「ピジョン」に開設された「日本橋母乳バンク」と、ことし4月に日本財団の助成を受けて開設された「日本財団母乳バンク」の2か所となっています。 厚生労働省も母乳バンクの効果の検証や、全国展開に向けた運用基準やマニュアルの作成などを支援する事業を令和2年度から始めています。 一方で母乳バンクの利用者も少しずつ増えていて、昨年度は、前の年度より157人多い360人の赤ちゃんにドナーミルクを提供したということです。
そのためには需要と供給の両面で課題があり、ことし9月末現在で母乳バンクのドナー登録ができるのは12都道府県の17施設にとどまり、ドナー登録が難しい地域がありドナーミルクを確保できる量が限られるという課題があります。 一方、ドナーミルクを利用した医療機関は全国の67施設で、医療関係者や保護者の認知度を高めるための周知や運用面の支援も求められています。 また、国内に2か所ある母乳バンクはいずれも都内にあり、災害時などに提供が難しくなるリスクがあるため、日本母乳バンク協会がクラウドファンディングで資金を募るなどして東京以外の場所での開設に向け準備を進めていました。
出生時の体重は、わずか1224グラム。 感染症や病気にかかるリスクが高いとされる「極低出生体重児」でした。 母親のみずきさんは、妊娠29週目で突然、腹痛に襲われ、大学病院に救急搬送され、そのまま帝王切開で出産することになりました。 予定日より3か月近く早い出産でした。 出産直後、みずきさんは体調不良から十分な量の母乳をあげることができませんでした。 こうした中、医師からは蒼波くんの感染症や病気にかかるリスクを減らす効果が期待できるとして、母乳バンクの利用を提案されました。 聞き慣れないことばに当初、みずきさんは戸惑いましたが医師の説明を受けて、夫の久さんとともに母乳の大切さを知り、生まれてから3日目までドナーミルクを提供してもらいました。 その後、母乳が十分に出るようになり生まれてから6日目に撮影された写真では蒼波くんが綿棒にしみ込ませたみずきさんの母乳を口に含んでいます。 蒼波くんは3か月間入院したあと退院し、2歳5か月となった今では体重が10キロを超え、取材に訪れた時も大好きな車のおもちゃで遊び、元気な様子で過ごしていました。
先月17日の「世界早産児デー」にあわせて、その2日後にこの病院で開かれた交流会にはドナーミルクの利用経験がある母親たちが参加しました。 このうち、生後9か月の双子の母親は、妊娠29週で出産し、赤ちゃんの出生時の体重はそれぞれ1300グラムと767グラムで、母乳が出ずにドナーミルクの提供を受けたということです。 女性は、「“小さく生まれた子どもには母乳がよい”と言われると、“出さなきゃ”と思い詰めるかも知れませんが、母乳が足りない時にはドナーミルクを利用できると聞いて、精神的に楽になりました」と話していました。 また、妊娠27週で出産した母親の双子の赤ちゃんは、出生時の体重がそれぞれ1008グラムと982グラムで、現在も入院しています。 母親は当初、ドナーミルクを利用しましたがその後、母乳が出るようになり、今はドナーとして登録し、母乳を提供しているということです。 母親は、「母乳が出ずに困った時は少しでもドナーミルクを使ってもらい、小さな命をつないでほしい」と話しています。
「母乳バンク」とは
ドナーミルクが必要とされる理由
国内では東京に2か所
ドナーミルクの課題は
母乳バンク利用の家族は
ドナーミルク利用経験ある母親たちが交流会
東京以外での設置は初めてで、施設が分散することで災害時のリスクを減らすことにつながると期待されています。