ディズニーのアニメ「蒸気船ウィリー」は、1928年11月18日にアメリカ・ニューヨークで初めて公開され、ミッキーマウスとミニーマウスのデビュー作とされています。
このアニメについて、アメリカで公開から95年が過ぎた昨年末に著作権の保護期間が切れ、この作品に登場する初代のミッキーマウスなどのキャラクターが今月1日から誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン」となりました。
アメリカの専門家によりますとこれによってディズニーの作品ではないことを明記するなど、消費者の誤解を招かないようにした上で、このキャラクターを使った映画やゲームなどの2次創作が可能になるということです。
ただ、まだ著作権で保護されている、その後に登場したさまざまなバージョンのミッキーマウスに似せたり、商標権の観点から、企業のブランドとして利用したりすることなどは認められないとみられるということです。
それでも、アメリカメディアは世界的なキャラクターの転換点だと大きく伝えています。
これについてウォルト・ディズニーは「現代版のミッキーマウスは今回の著作権切れの影響を受けず、今後もディズニーの世界的な大使として主導的な役割を果たし続ける」とコメントしています。
また、著作権の保護期間は国によって異なり、専門家によりますと日本では状況が複雑で、はっきりしないということです。
2つのホラー映画が新たに製作 公開予定
アメリカで1928年に公開されたディズニーのアニメ「蒸気船ウィリー」の著作権が切れこのアニメに登場する初代のミッキーマウスなどが誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン」になったことを受け、少なくとも2つのホラー映画が新たに製作され、公開予定となっています。
このうち、「ミッキーズ・マウストラップ」という映画は、ことしの春までにアメリカなどで公開されることが1日、明らかになりました。
ディレクターを務めるジェイミー・ベイリーさんは初代ミッキーマウスを使って映画を製作した理由について「このキャラクターをこれまで見たことがない状況に置いたらどうなるだろう?と考えたときに、ディズニーはこれまでホラー映画は作っていないだろうからやってみようと思った。誰も見たことがないものを作りたかった」と話していました。
アメリカの著作権法は
小説や映画、音楽などの著作権を保護する、アメリカの著作権法は、何度も改正される中で対象や期間などが変更され、1978年には保護期間が原則として
▽作者の死後50年、
▽企業などが権利をもつ場合には公開から75年となりました。
また、1978年より前の作品などは、原則として公開から75年となりました。
さらに1998年には、この期間がそれぞれ20年間、延長されました。
このとき、大学教授などが「著作権保護の延長は過去の名作の引用や流通を難しくし、表現の自由を阻害する」として憲法違反だと訴え、その象徴だったミッキーマウスをやゆして延長の法律は「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれましたが、連邦最高裁判所は2003年、憲法に違反しないという判断を下しました。
デューク大学・パブリックドメイン研究センターのジェニファー・ジェンキンズ教授は「ディズニーは著作権の保護期間の延長を推し進めた著作権者の1つで、パブリックドメインを減らす象徴でもあり、だからこそミッキーマウスとミニーマウスがパブリックドメインになることは象徴的な出来事だ」と指摘しています。
「ピノキオ」や「白雪姫」、「眠れる森の美女」など、ディズニーの人気映画の多くはパブリックドメインの作品を元にしていると指摘した上でジェンキンズ教授は「著作権が失効することで未来のクリエイターがその上に作品を作ることができるようになる。新しい創造的な作品の登場が楽しみだ」と話していました。
また、アメリカの著作権に詳しいコロンビア大学のジェーン・ギンズバーグ教授によりますと、著作権が切れ、パブリックドメインになることでディズニーの作品ではないことを明記するなど、消費者の誤解を招かないようにした上で、このキャラクターを使った映画やゲームなどの2次創作が可能になるということです。
ただ、まだ著作権で保護されている、その後に登場したさまざまなバージョンのミッキーマウスや、商標権の観点から、企業のブランドとして利用することなどは認められないとみられると指摘しています。
今回の著作権切れについてウォルト・ディズニーは「『蒸気船ウィリー』にミッキーマウスが初めて登場して以来、人々はミッキーマウスをディズニーと結び付けてきた。ミッキーマウスは今後もディズニーの世界的な大使として主導的な役割を果たし続ける」とコメントしています。
その上で「現代版のミッキーマウスなどは今回の著作権切れの影響を受けず、許可なく利用されることで引き起こされる消費者の混乱を防ぐよう努める」としています。
日本の状況は
アメリカでは今月1日から「蒸気船ウィリー」に登場する初代のミッキーマウスなどが「パブリックドメイン」となりましたが、日本では状況が異なります。
著作権の問題に詳しい福井健策弁護士によりますと日本の著作権法では、ミッキーマウスを
▽映画の著作物とみるか、
▽美術の著作物とみるか、
▽団体名義の作品とみるか、
▽個人名義の作品とみるかなど、とらえ方によってそれぞれ保護期間の考え方が異なるということです。
さらに日本はサンフランシスコ講和条約の義務で、旧連合国の作品に最大で10年5か月間、保護を延長するという「戦時加算」が加わり、状況は複雑だとしています。
福井弁護士によりますと、考え方によっては著作権の保護期間が2020年5月に切れたとも2052年5月まで続くともとらえられるということです。
福井弁護士は「日本の著作権法はいつ保護期間が切れるかが明確になっておらず、古い作品のパブリックドメインによる活用を害しているのではないか」と指摘していました。
また、パブリックドメインの活用について「われわれの歴史は過去のものに学んで模倣して新しいものを付け加えるということの連続だ」とした上で、「これまで特定の権利者が独占していたものが公開されるということは、経済、教育、研究活動などあらゆることに使えるようになるということで新たな天然資源が見つかったようなものだ。世界最強のキャラクターがパブリックドメインになることは、著作権史上最大の実験になるだろう」と述べ、今後の創作活動への期待を示しました。