こうした中、フィリピンで両国の軍から過去最大となる1万7600人が参加する合同軍事演習が11日から18日間の日程で始まりました。
初日のきょうは、首都マニラにあるフィリピン軍の司令部で開始式が開かれ、センティノ参謀総長は「今年の演習では海上での安全保障と領域監視の能力の向上を目指していて、同盟の深化を示すものだ」とあいさつしました。
演習では無人機を使った空からの偵察の訓練が行われるほか、ルソン島の西部にある南シナ海の沖合で初めてとなる海上での合同実弾演習も予定されています。
また、今回の演習にはアメリカやフィリピンと安全保障面で関係を強化するオーストラリアからもおよそ100人が参加することになっています。
マルコス大統領は領有権問題を棚上げにしていたドゥテルテ前政権の外交方針を転換し、この問題で中国側の主張を退けた2016年の国際的な仲裁裁判の判断を掲げフィリピンの主権を守り、領有権問題で譲歩しない姿勢を示しています。 一方で問題の解決は対話を通じて行いたいと繰り返し呼びかけていて、ことし1月、マルコス大統領が中国を訪れて習近平国家主席と首脳会談を行い、協議を通じて海上の問題を適切に解決するとしていました。 しかし、南シナ海ではことしに入っても中国が海洋進出を強めていて、2月にはフィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー光線の照射を受けたと訴えたほか、3月初めには中国海軍の艦艇を含む船舶40隻以上が、フィリピンが実効支配する島の周辺海域で確認されるなどフィリピン側は強い懸念を示しています。 こうした中、安全保障面でアメリカとの関係を強化し、アメリカ軍を受け入れることで中国をけん制する思惑もあるとみられます。
背景には中国への抑止力強化を念頭に2022年発足したマルコス政権が前政権と一線を画し、対米関係の重視にかじを切ったことがあります。 フィリピンはことし2月、2国間の協定に基づき、アメリカ軍がフィリピン国内で使用できる基地や拠点を現在の5か所から新たに4か所増やし合わせて9か所にすることで合意しました。 4か所のうち、3か所を台湾に近い海軍基地と陸軍基地、それに民間の空港とし、残る1か所は南シナ海に面した西部パラワン州の最南端の離島にある施設としています。 合意の背景には台湾や南シナ海での有事の際にアメリカ軍が機動的に展開することを可能にする狙いがあるとみられます。 一方、抑止力の強化を念頭にアメリカ軍との共同訓練にもフィリピンは力を入れていて、国内で最大となるマニラ北部の基地、「フォート・マグサイサイ」では3月末両国の軍から合わせて3000人が参加しました。 訓練ではロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでも使用されているアメリカの高機動ロケット砲システム「ハイマース」についてフィリピン軍の兵士が運用方法などを学んだほか、アメリカ軍の指揮官が戦術などを指導し実戦を想定した演習なども行いました。 アメリカは今後、フィリピンの基地内に指揮所や備蓄倉庫などを建設し有事への備えを急ピッチで進めるとしていて、両国は防衛力の強化を進めています。
フィリピン北部のカガヤン州。 海軍基地と民間空港の2か所を抱えるこの州は、台湾との間のルソン海峡に面しています。 州北部にある港町で漁業を営むレクソン・カーリングさん(30)です。 15年にわたり漁で生計を立て家族4人を養っています。 町では今、州政府が中国などからの資本を受けて港の整備を進める開発プロジェクトが持ち上がっていて、レクソンさんは大きな期待を寄せています。 しかし、アメリカ軍の受け入れが本格的に始まれば、港の開発が実現されなくなるのではないかと懸念しています。 さらに今後、1歳と7歳の2人の娘たちの生活への影響についても心配しています。 レクソンさんは「戦争への不安が生活の身近にある状況です。子供たちはどのように暮らしていけばよいのだろうか」と不安を口にしました。
マンバ知事は州政府のラジオ放送やインターネットでの配信放送を通じアメリカ軍の受け入れに反対を呼びかけていて「戦争で町は標的にされてしまう。私は住民を救いたいだけで、基地や拠点はどこか別の場所に持っていってほしい」と話していました。 これに対し、マルコス大統領は、アメリカ軍による基地や拠点の使用の重要性を説明していくとして、今後、協議を通じて州政府や住民の理解と支持を得ていく方針を明らかにしています。
南シナ海に近いフィリピン軍のバサ空軍基地です。 ここでは大型輸送機や戦闘機が離着陸できるように2800メートルの滑走路の全面修復工事が行われています。 工事の費用はアメリカ側がすべて負担し、6600万ドルあまり、日本円にして86億円を拠出します。 工事はフィリピンの企業が請け負い、地元に経済効果が見込めるほか、災害時には、医療物資や食料などを供給できる基地としても期待されています。 3月、着工を記念する式典に参加したアメリカの駐フィリピン大使は「自然災害などでのフィリピン軍の危機対応能力の向上を訓練やインフラ建設などを通じて強化する」と呼びかけました。 政府のインフラ建設の予算が限られる中、フィリピンのガルベス国防相は「アメリカがさらに多くの事業を検討することを期待する」と応じ、今後、アメリカ軍の拠点をさらに拡大していく考えを示しました。
その上で「もし、フィリピンが南シナ海でアメリカ軍に命を懸けてもらうことを期待するなら、台湾をめぐって紛争が起きた場合、フィリピンが後方支援や情報収集での貢献を検討すると考えることは妥当だ」と述べました。 また、アメリカとフィリピンの2国間の協定に基づき、アメリカ軍がフィリピン国内で使用できることになった新たな拠点のうち、台湾に近い拠点について「情報収集や物資の保管拠点になるかもしれない」と述べ、台湾有事に備え長期的にアメリカ軍が即応態勢を構築する上で後方支援の重要な拠点になる可能性を指摘しました。 一方、ポーリング氏はフィリピン国内で米中の対立に巻き込まれたくないとアメリカ軍の受け入れに慎重な声が出ていることを踏まえ「もし、新たな拠点が、アメリカの利益にのみ貢献すると見なされるようになれば、政治的に拠点を維持できなくなる。両政府はフィリピンの微妙な政治状況を見誤らないよう慎重に物事を進めていくだろう」と述べました。
マニラにあるアメリカ大使館前では反対デモも
フィリピン 海洋進出強める中国に強い懸念
アメリカ軍が使用できる基地や拠点 5か所から9か所に
基地抱えるフィリピン北部では不安の声が
地元の州知事「町が標的に 基地や拠点は別の場所に」
アメリカ側 “地域の経済振興などに貢献”
米CSIS上級研究員「台湾有事に備え後方支援の重要な拠点に」