起訴されたのは、当時、18歳で自衛官候補生だった渡邉直杜被告(19)です。
起訴状などによりますと、去年6月、岐阜市にある陸上自衛隊の射撃場で、実弾射撃の訓練中に、弾薬係が管理していた弾薬を奪おうと考え持っていた小銃を発射して、八代航佑3等陸曹(25)と弾薬係の菊松安親1等陸曹(52)を殺害し、別の弾薬係の3等陸曹にも重傷を負わせたとして、強盗殺人などの罪に問われています。
動機について、検察は、奪った弾薬で人を銃撃するためだったとしています。
岐阜家庭裁判所は今月、「人の命の重さを全く顧みない残虐な犯行だ」として、検察庁に送り返す決定をし、岐阜地方検察庁は専門家による精神鑑定の結果なども踏まえ刑事責任を問えると判断し、28日に起訴しました。
検察は認否を明らかにしていません。
関係者によりますと、元候補生は当初の調べに対し3人への殺意については否認していたということです。
検察 氏名を明らかに
2022年に施行された改正少年法では事件当時18歳と19歳の「特定少年」が正式に起訴された場合、実名での報道が可能となっていて検察は「事案の重大性や地域社会に与えた深刻な影響などの諸事情を考慮した」として、今回、氏名を明らかにしました。
被告は今後、公開の法廷で刑事裁判を受けることになります。
NHKは、今回の事件の重大性や悪質性、社会に与えた影響などを総合的に検討し、実名で報道することとしました。
被告の父親「本当に申し訳ない気持ち」
被告の父親は犯罪加害者の家族を支援する支援団体を通じて「被害者とそのご家族には本当に申し訳ない気持ちで毎日おります。夢と希望を持って入隊した自衛隊で、なぜ息子が事件を起こしてしまったのか。ただその真相が知りたいという思いです」とするコメントを発表しました。
射撃訓練の手順を見直し
この事件を受けて陸上自衛隊は、射撃訓練中に隊員が無断で銃を撃つことができないよう、実弾を手渡す手順を見直すなどして再発防止を図っています。
防衛省関係者によりますと、起訴された元自衛官候補生は当時、教官から指示を受けて弾倉に実弾を込める作業をしていた際に、実弾を入れた弾倉を無断で小銃に装填(そうてん)し、銃撃を始めたということです。
陸上自衛隊の射撃場には
▽弾を撃つ「射撃位置」と
▽銃の点検などを行う「準備線」
が設けられていて、元候補生は「準備線」で待機していた際に実弾を受け取ったあと、弾倉に実弾を込めていたということです。
当時「準備線」の近くにいた教官は1人だけで、銃撃を防ぐことはできませんでした。
こうしたことから陸上自衛隊は事件後、自衛官候補生や新隊員の射撃訓練の手順を見直し
▽実弾の手渡しや
▽弾倉に実弾を込める作業は
複数の教官が安全管理を行う「射撃位置」で行うようにしました。
また、射撃訓練を行う際には、隊員の心情や健康状態を確実に把握するよう各部隊に通達を出すなどして、再発防止を図るとしています。
元自衛官候補生とは
陸上自衛隊によりますと元候補生は2023年4月、名古屋市にある守山駐屯地に所属する第35普通科連隊の新隊員教育隊に入隊しました。
事件までは、生活態度などに問題はなかったということで、2023年6月末に新隊員教育隊での教育を終えたあと、自衛官に任官され、陸上自衛隊の部隊に配属される予定でした。
関係者によりますと、元候補生は当初の調べに対し「銃と弾薬を持って外に出たかった。弾薬を奪うために邪魔な人を撃った」などと供述した一方、3人への殺意はいずれも否認していたということです。
また、特定の隊員への不満などは供述していなかったということです。
さらに、「警察や自衛隊が追いかけてきたら撃つつもりだった」などと供述していたということです。
検察は弾薬を奪おうとした動機について「人を銃撃する目的だった」としていますが、元候補生が銃や弾薬を奪ったあとに具体的にどういう行動をとろうとしていたかは明らかになっていません。
陸上自衛隊は事件のあと、本人や現場にいた隊員などに聞き取りを行った結果、職務上の注意義務違反が確認できたとして、去年9月、元候補生を懲戒免職の処分にしていました。
事件の経緯
陸上自衛隊や警察などへの取材による事件の経緯です。
2023年6月14日の午前9時すぎ、事件は起きました。
岐阜市にある陸上自衛隊の射撃場では、2023年4月に名古屋市の守山駐屯地を拠点とする第35普通科連隊に入隊した自衛官候補生およそ70人が実弾射撃の訓練に参加していました。
元候補生は、射撃場で実弾が入った弾倉を無断で小銃に装填(そうてん)し「動くな」と叫ぶと、制止しようとした八代航佑3等陸曹(25)に発砲したといいます。
続いて、弾薬を受け渡す「弾薬係」を務めていた菊松安親1等陸曹(52)と、別の3等陸曹にも発砲し、3人は病院に運ばれましたが、八代3曹と菊松1曹が死亡、別の3等陸曹も全治2か月の重傷を負いました。
周囲にいた隊員たちが取り押さえ、元候補生は、午前9時半ごろ、駆けつけた警察官に引き渡されました。
2023年7月から、専門家による精神鑑定が行われ、岐阜地方検察庁は刑事責任を問えると判断しました。
そして、1月、家庭裁判所に送りました。
岐阜家庭裁判所は2月19日の審判で「小銃を丸腰の隊員に対して撃つという行為は危険極まりなく、人の命の重さを全く顧みない残虐な犯行であり、社会的影響も深刻だ」とした上で、「少年の性格や年齢、環境などの事情を考慮しても刑事処分以外の措置を相当と認めることができる事情は見当たらない」などとして、検察庁に送り返す決定をしていました。