打ち上げられるのは、大手の精密機器メーカーや建設会社などが出資する、東京のベンチャー企業「スペースワン」が開発した固体燃料式の小型ロケット「カイロス」の初号機です。
9日午前11時すぎに、この企業が和歌山県串本町に整備したロケット発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げられる計画です。
全長およそ18メートルの機体には政府の小型衛星が搭載されていて、計画では段階的に機体を切り離し、およそ50分後に高度500キロで地球を回る軌道に衛星を投入するとしています。
今回、衛星の軌道への投入が成功すれば、民間企業単独の打ち上げとしては国内で初めてとなります。
小型衛星は世界で打ち上げの需要が高まっていて、この企業は低いコストで衛星を宇宙に届ける「宇宙宅配便」を目指し、2030年代には年間30回ロケットを打ち上げる計画だとしています。
これまで国主導で進められてきた日本の宇宙開発に今後、民間も加わって国際競争力を高められるか、今回の打ち上げが注目されます。
JAXA山川理事長「成功を祈っている」
JAXA=宇宙航空研究開発機構の山川宏理事長は8日、都内で開かれた定例会見で、9日、和歌山県串本町で予定されている民間ロケットの打ち上げに触れ「世界では打ち上げを待っている衛星オペレーターは数多く、今後、マーケットを取っていくことが重要になる。そのなかで、今回打ち上げに成功すればJAXAの『イプシロン』や『H3』と合わせて、さまざまな大きさの衛星需要全体をカバーでき、日本全体として、世界中のさまざまな要求に応じられるようになる」と打ち上げの意義について語りました。
そのうえで「これまでJAXAからも技術的な支援をして、連携を通じて熱い思いを感じてきた。打ち上げが成功することを祈っている」と話しました。
政府 10年で1兆円規模目指し民間支援へ
内閣府によりますと、去年世界で成功したロケットの打ち上げは、過去最高の212回に上りました。
このうちアメリカが半数以上の108回を占め、そのうちのおよそ9割はイーロン・マスク氏がCEOを務める宇宙開発企業「スペースX」によるものでした。
背景には世界的に商業衛星の打ち上げ需要が高まっていることがあり、宇宙開発はこれまでの国家主導型に加えて民間も参入する新たなビジネスに変化しています。
市場規模も拡大を続けていて、アメリカの大手投資銀行「モルガン・スタンレー」の試算では、宇宙ビジネスの市場規模は、2040年には2020年の3倍にあたる1兆ドル規模、現在の為替レートで150兆円規模まで拡大すると見込まれています。
こうした国際的な流れを受けて、日本でも政府が国内の宇宙関連市場を2030年代の早い時期に4兆円から8兆円へ倍増させることを目標に掲げ、国内の宇宙ビジネスを底上げしようと、民間などへの支援に乗り出しています。
スタートアップ企業を支援する制度の一環として、新たに宇宙分野の基金が設立され、このうち5年で350億円が支援されるロケット開発分野では今年度初めて4社が採択されました。
今回、和歌山県串本町からカイロスロケットを打ち上げる「スペースワン」はこのうちの1社で、ことし9月までに3億2000万円の支援を受ける計画です。
このほかにも政府は10年で1兆円規模を目指す「宇宙戦略基金」を設立することにしていて、民間企業や大学などに宇宙開発のための資金を支援する計画です。
基金の基本方針については現在政府で議論されていますが、このなかでロケット開発では、去年は2回にとどまった打ち上げ回数を、2030年代前半までには民間ロケットも含めて年間およそ30回を確保することなどが方針案に盛り込まれていて、政府も今後のロケット開発において民間ロケットは不可欠だとしています。
盛山文科相「大変期待している」
盛山文部科学大臣は閣議のあとの記者会見で「今回の打ち上げに成功すれば、民間企業主導で開発したロケットによる人工衛星の軌道投入事例として日本で初めてとなるので、大変期待している。また、宇宙政策上の重要な一歩にもなり得る。今後の日本のスペースビジネスの飛躍に向け打ち上げの成功を心から願っている」と述べました。