輸入小麦を使っているこの店舗では企業努力だけでは限界があるとして、去年3月に平均で10円から20円の値上げに踏み切りました。
売り渡し価格の引き上げで今後小麦粉の価格が上昇すれば、さらなる値上げも検討せざるをえないということですが、うどんが生活の一部にもなっている客のことを考えると、大幅な値上げは難しいといいます。
さぬき麺業の香川政明社長は「うどんの値上げも検討せざるをえないが、コストアップ分をすべて価格転嫁することは非常に難しく、うどんをゆでる釜の火をこまめに消すなどの工夫をして、お客さんへの負担ができるだけ少ない価格にしたい」と話していました。
うどんの価格を2回にわたりそれぞれ最大で50円程度値上げしましたが赤字経営は続きました。価格高騰が今後落ち着いていく見通しはたたないうえ、客の半分近くを学生が占めていることなどを考えるとこれ以上の大幅な価格転嫁はできないと考え、今月末で廃業することを決断しました。
「物価高がなければもう少しうまくいけたのかなと思うととても残念だしお得意様にも申し訳ないが、引き際も大事だと思うしかない」
しかし、去年からことしにかけては、ロシアによるウクライナ侵攻などで買い付け価格が高騰したため、政府は去年10月の見直しを行わず、価格を据え置いていました。
直近1年間の買い付け価格で算定した場合、1トンあたりの売り渡し価格は8万2060円、値上げ幅は13.1%となりますが、ウクライナ侵攻などによる価格高騰の影響が大きかった期間を除き、直近半年間で算定することで値上げ幅を抑えることにしました。 ただ値上げ幅を抑えた分は国が負担する形となり、その額はおよそ100億円に上るということです。輸入小麦の売り渡し価格は、今の制度となってから過去最高になり、今後、パンやめんといった小麦粉を原材料とする製品のさらなる値上がりにつながることが予想されます。
Q.小麦の国際相場の今後の見通しは? A.長期化するウクライナ侵攻の今後の展開次第でまだまだ市場が不安定化する可能性があると思っている。小麦の生産国であるウクライナからの輸出が今後も順調に継続されるかや、主な産地のアメリカでは干ばつの傾向となっていたが、4月以降の天候がどうなるのか懸念もある。このほかにコロナ禍で落ち込んだ経済活動の正常化による輸送コストの上昇などもあって、引き続き高止まりすると見ている。 Q.今回、政府が負担軽減策として売り渡し価格の値上げ幅を抑制したことをどう思うか? A.食品の値上げラッシュが続く中で、多くの食品の原材料となる小麦の値上げがさらに行われると影響は大きいのでやむをえない部分もある。ただ、一時的に価格を抑えるのは根本的な解決にはならないのではないか。そもそも今までの「安ければ安いほどいい」という考え方や、国内消費のほとんどを輸入小麦が占めている現状のままでよいのかという話もある。食料安全保障の観点からも国産小麦の生産を拡大し、適正な価格で消費者が購入するような取り組みにも力を入れていかなければならない。今こそ、国内農業の振興に焦点をあてる必要がある。
なかでも牛肉をふんだんに使ったカレーパンは、油や牛肉などの価格高騰もあり、2021年12月までの税込み194円から、現在は248円に値上がりしています。小麦の売り渡し価格が値上がりすれば、この店の仕入れ価格も上昇するとみられ、店では値上げを検討しています。 しかし、生活に身近な商品だけに、これ以上値上げすれば客離れにもつながりかねないと懸念しています。
「小麦粉は一番使う材料なので、上がってしまうのは非常に痛いです。なるべく値上げ幅を小さくするなどの努力をした上で、新商品などを提供することでお客にサービスとして還元していきたい」
山形県内ではラーメンを提供するそば店が多く創業180年となる天童市の老舗そば店では多いときで1日1000食程度のラーメンを提供しています。平均で1日あたりおよそ30キロの輸入小麦を使っているということで、売り渡し価格が引き上げられるたびに経営が圧迫され、2021年10月には50円値上げしました。 来月以降、輸入小麦の売り渡し価格が引き上げられることで、ラーメンの価格をさらに20円から30円程度、値上げせざるをえないということです。
この会社が運営する大阪・天王寺区にあるお好み焼き店では、メニューのおよそ8割に小麦粉が使われていて、休日では1日あたり10キロ以上のお好み焼き粉を使うといいます。 この店では、去年4月、「豚玉」をはじめ、主力商品の多くを値上げしましたが、油や卵などの仕入れ価格に加え光熱費や人件費も上昇していることから、ことしの春にもさらなる値上げを検討しています。こうした中、輸入小麦の売り渡し価格が引き上げられることで、お好み焼き粉やめんなどの仕入れ価格も上がれば、経営にさらに打撃になると懸念しています。
「売り上げはコロナ禍前に戻りつつあるが、同じ水準まで回復したとしても、コストが上昇した分、しっかりとした利益を出せない状況だ。今後を見据えて、価格や商品内容を考えていきたい」
売り渡し価格は、2007年4月から政府が買い付けた価格を反映して決める今の制度となり、4月と10月の半年ごとに見直しが行われます。これまでで最も高かったのは、2008年10月から半年間の価格で、世界的な天候不良で小麦の供給量が減ったことなどから、1トンあたり7万6030円となりました。 その後は、5万円から6万円程度で推移していましたが、主な産地である北米での不作や、小麦の輸出国であるウクライナで情勢が緊迫化し、供給不安が広がったことなどから、去年4月には再び7万円台を突破し、1トンあたり7万2530円となりました。 その後もロシアによるウクライナ侵攻で小麦の買い付け価格が高騰したことから、政府は食料価格の値上がりを抑えるため、去年10月の見直しを行わず、売り渡し価格を据え置きました。 そして今回、政府は岸田総理大臣の指示も踏まえ、価格高騰の影響が大きかった期間を除き、直近半年間で売り渡し価格を算定し、値上げ幅を半分以下に抑えることにしました。 農林水産省は、今後の売り渡し価格の決め方について、国際市場や為替の動向を踏まえて判断するとしていますが、値上げ幅の抑制には財政負担も伴うことから、国民生活への影響といかにバランスを取るかが課題になっています。
廃業 決断した店
輸入小麦の価格 推移は
“引き続き 高止まり”の見方も
パンの販売店「客離れにつながりかねない」
ラーメン店「断腸の思いで値上げ」
お好み焼き店「経営にさらに打撃」
価格上昇の背景にウクライナ侵攻