パリ五輪ごりんで広ひろがるフェイク 人気にんき俳優はいゆうの“偽にせ番組ばんぐみ”も 誰だれがなぜ？

なかには日本にっぽんで1億おく回かい以上いじょう、みられた誤あやま情報じょうほうも。いったい、誰だれが何なにの目的もくてきで？

セーヌ川がわで…

パリオリンピックの開会かいかい式しきが行おこなわれる直前ちょくぜんの7月つき24日にち。フランスのマクロン大統領だいとうりょうがゴミだらけになっているセーヌ川がわに入はいっているとする生成せいせいAIで作つくられたとみられる偽にせの画像がぞうがXで拡散かくさんしました。

トライアスロンの会場かいじょうとなったセーヌ川がわの水質すいしつ汚染おせんを強つよく印象いんしょうづける偽にせ画像がぞうは、10日にち午後ごご3時じの段階だんかいで720万まん回かい以上いじょう閲覧えつらんされ、日本にっぽん語ごでも「こんなに汚きたない川かわだったの？」「ここで五輪ごりんができるのか」などというコメントがつけられて広ひろがりました。

NHKが調しらべたところ、この偽にせ画像がぞうは通信つうしんアプリの「テレグラム」にあるロシア語ごで生成せいせいAIについてのやりとりを行おこなっているコミュニティの中なかで出でてきたものが、Xなど別べつのSNSでも広ひろがったことがわかり、パリオリンピックに対にたいする不信ふしん感かんを高たかめる意図いとで拡散かくさんされたとみられます。

“多様たよう性せい”をやゆするフェイクも

また、パリオリンピックの開会かいかい式しきやオリンピックでかかげられている「多様たよう性せい」といったメッセージなどに関かかわる偽にせ情報じょうほうも出回でまわっています。

7月つき26日にちに行おこなわれた開会かいかい式しき。女装じょそうしたダンサーらが並ならんだ様子ようすが、キリストと弟子でしを描えがいたレオナルド・ダビンチの「最後さいごの晩餐ばんさん」の構図こうずに似にていたことから、キリスト教きょうをやゆしているなどとして、批判ひはんが上あがっています。

開会かいかい式しきの芸術げいじゅつ監督かんとくを務つとめた演出えんしゅつ家かは「最後さいごの晩餐ばんさん」から着想ちゃくそうを得えたことを否定ひていし、「多様たよう性せいの受け入うけいれや優やさしさ、寛容かんようさ」が演出えんしゅつの狙ねらいだったと説明せつめいしています。

これに関にかんして、アメリカのトランプ前ぜん大統領だいとうりょうが全まったく別べつの話はなしをしている動画どうがとともに、「オリンピックをボイコットしろと呼よびかけた」などと書き込かきこまれた日本語にほんごの偽にせ情報じょうほうが出でていて、Xで90万まん回かい以上いじょう閲覧えつらんされました。

一方いっぽうで、民主党みんしゅとうの大統領だいとうりょう候補こうほとなったハリス副ふく大統領だいとうりょうが開会かいかい式しきを絶賛ぜっさんしたとする、ねつ造ねつぞうされた投稿とうこうが複数ふくすう出回でまわり、20万まん回かい以上いじょう閲覧えつらんされているものもあります。

さらに、オリンピックがかかげる「多様たよう性せい」を批判ひはんする意図いとの偽にせ情報じょうほうも出でていて、生成せいせいAIで作つくられたとみられる、女性じょせいの下着したぎをつけた男性だんせいがオリンピックの競技きょうぎが行おこなわれるプールに飛び込とびこもうとしている偽にせ画像がぞうが、さまざまな言語げんごで複数ふくすうのSNSで拡散かくさんしました。

日本語にほんごの投稿とうこうで130万まん回かい以上いじょう閲覧えつらんされているものもありました。

ネトフリ装よそおう“偽にせドキュメンタリー”

さらに、大会たいかいそのものや、IOC＝国際こくさいオリンピック委員いいん会かいを批判ひはんし、おとしめる目的もくてきで作つくられたとみられる偽にせのドキュメンタリーも拡散かくさん。「中立ちゅうりつな立場たちばの個人こじん資格しかくの選手せんしゅ」だけしか参加さんかが認みとめられていないロシアの関与かんよがあるのではないかと指摘してきされています。

大手おおて動画どうが配信はいしんサイトネットフリックスが制作せいさくしたと偽いつわった「Olympics Has Fallen（オリンピックは地ちに落おちた）」と題だいされた偽にせのドキュメンタリー番組ばんぐみが、去年きょねん6月つきに通信つうしんアプリの「テレグラム」などに投稿とうこうされ、YouTubeでも広ひろがりました。

NHKが実際じっさいに動画どうがを確認かくにんしたところ、生成せいせいAIで合成ごうせいしたとみられるアメリカの人気にんき俳優はいゆうトム・クルーズさんの声こえで、欧米おうべいメディアの報道ほうどうや映像えいぞうなどを恣意しい的てきに引用いんようしながら、およそ30分ふんにわたって「IOCが腐敗ふはいしている」などと批判ひはんする内容ないようになっていました。

オンライン上じょうの脅威きょういについて分析ぶんせきしているマイクロソフトの分析ぶんせきグループは動画どうがの制作せいさく者しゃがロシアの影響えいきょう下かにあるグループだとしています。

パリでテロなどのリスクが高たかまっているように見みせかけた偽にせのニュース映像えいぞうなども制作せいさくしているとして「IOCの名誉めいよを傷きずつけたり恐怖きょうふを広ひろめることを目的もくてきとしている」とする報告ほうこくを出だしています。

「続編ぞくへん」ではイーロン・マスク氏し？

さらに、IOCは偽にせのドキュメンタリー番組ばんぐみがIOCを中傷ちゅうしょうする目的もくてきでねつ造ねつぞうされたもので、SNSでの偽にせ情報じょうほう工作こうさくの一環いっかんであるとする声明せいめいを出だして必要ひつような対応たいおうを取とるとしており、偽にせ動画どうがはYouTubeから削除さくじょされました。

しかし、「テレグラム」では依然いぜんとして広ひろがっていてこれまでに数すう十じゅう万まん人にんが閲覧えつらんしているほか、今年ことし6月つきには「アマゾン・プライム」のドキュメンタリー番組ばんぐみだと偽いつわって生成せいせいAIで合成ごうせいされたとみられる実業じつぎょう家かのイーロン・マスク氏しの声こえで、IOCがかかげる多様たよう性せいなどを非難ひなんする「続編ぞくへん」も出だされました。

ハマスが否定ひていした偽にせ動画どうがも

こうした政治せいじ的てきな影響えいきょうを及およぼそうとする偽にせ動画どうがはほかにもあり、開会かいかい式しきの直前ちょくぜんには衣服いふくにパレスチナの旗はたをつけた男性だんせいがパリでテロを起おこすことをにおわせる内容ないようを語かたる偽にせ動画どうががインスタグラムなどで広ひろがりました。

この偽にせ動画どうがではオリンピックにイスラエルの選手せんしゅが参加さんかすることについて、男性だんせいが「血ちの川かわが流ながれる」などとフランス政府せいふを脅迫きょうはくする内容ないようになっていますが、イスラエルとの戦闘せんとうを続つづけるイスラム組織そしきハマスはテレグラムでこの動画どうがが「ねつ造ねつぞう」であると主張しゅちょうしています。

フランスのAFP通信つうしんなどは、アラビア語ごに不ふ自然しぜんな点てんがあることやロシアを支持しじしているインフルエンサーが拡散かくさんしていることなどからロシアが関かかわっているとする見方みかたを伝つたえています。

専門せんもん家か「プロパガンダがアップデート」

インターネットで広ひろがるフェイク情報じょうほうに詳くわしい桜美林おうびりん大学だいがくの平和へいわ博はく教授きょうじゅに、なぜオリンピックで、こうした偽にせ情報じょうほうが広ひろまるのか聞ききました。

「パリオリンピックのように世界中せかいじゅうの注目ちゅうもくが集あつまるイベントは偽にせ情報じょうほう、誤あやま情報じょうほうの発信はっしん側がわにとっても、プロパガンダやみずからの主張しゅちょうを拡散かくさんさせる大おおきな機会きかいになる。注目ちゅうもくの大おおきさが価値かちになる『アテンションエコノミー』によって情報じょうほうの流通りゅうつうが加速かそくしていて、悪用あくようもされやすくなっている」

また、オリンピックに関にかんして偽にせのドキュメンタリー番組ばんぐみなど生成せいせいAIを使つかったとみられる偽にせの情報じょうほうが広ひろがっていることについては。

「テクノロジーの進化しんかとメディア空間くうかんの変化へんかによって、従来じゅうらいからあるオリンピックの政治せいじ利用りよう、プロパガンダが大おおきくアップデートされていると言いえる。パリオリンピックの腐敗ふはいや混乱こんらんといった印象いんしょうを広ひろげることでウクライナ支援しえんにくさびを打ち込うちこみたい、ロシアからの一連いちれんの影響えいきょう工作こうさくとされているものの一貫いっかんと位置いちづけることはできるだろうと思おもう」

「トランス女子じょし」との誤あやま情報じょうほうがひぼう中傷ちゅうしょうに

今回こんかいのオリンピックでは誤あやまった情報じょうほうが選手せんしゅへのひぼう中傷ちゅうしょうにつながったケースも出でています。

ボクシング女子じょし66キロ級きゅうで金メダルきんめだるを取とったアルジェリアのエイマヌン・ハリフ選手せんしゅについて、SNSでは「トランスジェンダーだ」「元もと男性だんせいだ」とする誤あやま情報じょうほうが拡散かくさんされています。

IOCのトーマス・バッハ会長かいちょうは8月つき3日にちの記者きしゃ会見かいけんで、ハリフ選手せんしゅについて「女性じょせいとして生うまれ、女性じょせいとして人生じんせいを送おくってきた。女性じょせいとしてのパスポートを持もっている。女性じょせいであることに疑うたがいはない」として、誤あやま情報じょうほうだとしています。

さらに、ハリフ選手せんしゅの父親ちちおやもロイター通信ろいた-つうしんの取材しゅざいに対にたいして、ハリフ選手せんしゅの幼おさない頃ころの写真しゃしんや誕生たんじょう日びや性別せいべつが記載きさいされた公的こうてきなものとみられる文書ぶんしょを示しめし、「女性じょせいです」としています。

日本にっぽん語ごでも1億おく回かい以上いじょう…

NHKではXの投稿とうこうでハリフ選手せんしゅの名前なまえととともに、日本にっぽん語ごでどのようなことばが言及げんきゅうされているか、SNSの分析ぶんせきツール「Brandwatch」を使つかって調しらべました。

ハリフ選手せんしゅが最初さいしょの試合しあいを行おこなった8月つき1日にちとその翌日よくじつには、「トランスジェンダー」を意味いみする「トランス」ということばがおよそ3万まん8000件けんと最もっとも多おおく、全体ぜんたいの59％を占しめました（中なかには「トランスジェンダー」だという誤あやま情報じょうほうを否定ひていする投稿とうこうもあります）。

閲覧えつらん数すうが多おおかった14件けんの誤あやま情報じょうほうの投稿とうこうをあわせると、1億おく回かい以上いじょう、見みられていました。

1件けんの投稿とうこうで1000万まん回かい以上いじょう閲覧えつらんされているものも4つあり、誤あやま情報じょうほうをもとにひぼう中傷ちゅうしょうが行おこなわれている状況じょうきょうがみられました。

拡散かくさんの背景はいけいには

IOCなどによりますと、ハリフ選手せんしゅは去年きょねんの世界せかい選手権せんしゅけんで男性だんせいホルモンの一種いっしゅ、テストステロンの数値すうちが高たかく女子じょし選手せんしゅとしての出場しゅつじょう資格しかくを満みたしていないとして、IBA＝国際こくさいボクシング協会きょうかいから失格しっかく処分しょぶんを受うけました。

このことが「トランスジェンダー」などとする誤あやま情報じょうほうが広ひろがることにつながったとみられます。

しかし、IOCは8月つき2日にちに出だした声明せいめいで、ハリフ選手せんしゅは東京とうきょうオリンピックやIBAが主催しゅさいしてきた世界せかい選手権せんしゅけんなど、女子じょしボクシングの国際こくさい大会たいかいにこれまでも出場しゅつじょうしてきたとしたうえで、「大会たいかいの参加さんか資格しかくとエントリー規程きていなどすべての定さだめられた医療いりょう規程きていを順守じゅんしゅしている」としています。

そして、去年きょねんの世界せかい選手権せんしゅけんでIBAが失格しっかくとしたことについて「正当せいとうな手続てつづきなしに突然とつぜん、失格しっかく処分しょぶんを受うけた」と批判ひはんしました。

IBAは組織そしき運営うんえいの問題もんだいが相次あいついだとして国際こくさい競技きょうぎ団体だんたいの承認しょうにんが取り消とりけされています。

IBAの会長かいちょうはロシア人じんのウマル・クレムレフ氏しで、イギリスの公共こうきょう放送ほうそうBBCはロシア大統領だいとうりょう府ふと密接みっせつな関係かんけいにあるとみられるとしていて、国営こくえいエネルギー大手おおての「ガスプロム」がIBAの主要しゅようスポンサーになっていると指摘してきしています。

五輪ごりんで気持きもちが高たかぶる中なかでも

SNSで偽にせ情報じょうほうや誤あやま情報じょうほうも飛び交とびかう今回こんかいのオリンピック。気持きもちが高たかぶる中なかで、誰だれかを傷きずつけることにもつながる情報じょうほうを拡散かくさんさせないためにどうすればいいのか。

桜美林おうびりん大学だいがくの平和へいわ博はく教授きょうじゅは次つぎのように呼よびかけています。

「オリンピックに関にかんする情報じょうほうを誰だれかと共有きょうゆうする場合ばあいには、高たかぶった気持きもちままで共有きょうゆうボタンを押おすのではなく、深呼吸しんこきゅうをして、ほんの数すう秒びょうでも時間じかんを置おいた上うえで、選手せんしゅを傷きずつけるもの、偽にせ情報じょうほう、誤あやま情報じょうほうではないか、見直みなおすことが非常ひじょうに重要じゅうようなポイントです」

「本当ほんとうの情報じょうほうと偽物にせものの情報じょうほうを見極みきわめることは現状げんじょうでも難むずかしいが、今後こんごさらに難むずかしくなっていく。誰だれが発信はっしんをしたものか、どのような根拠こんきょで発信はっしんされているのか、政府せいふ、自治体じちたい、信頼しんらいできるメディアも同おなじ情報じょうほうを発信はっしんしているか、情報じょうほうの信頼しんらい度どをもう一度もういちど確認かくにんをしながら接せっすることが今いままで以上いじょうに重要じゅうようになってくる」

（ネットワーク報道ほうどう部ぶ：岡谷おかや宏ひろし基もと・籏智広ともひろ太ふとし）