昔、山奥の村に茂作と息子の巳之吉(みのきち)という猟師が住んでいた。
ある秋も深まった頃、ふたりは狩りに出かけたが、この日はどういうわけか獲物が一匹も獲れず、どんどん山奥へ入っていった。そのうち雪がちらつき、時が経つにつれ激しい吹雪になった。ふたりは山小屋に入り一晩ここで過ごすことにした。
茂作はすぐに眠りについたが、巳之吉は吹雪の音が気になり寝付けなかった。ようやく巳之吉が眠りにつこうとした時、吹雪と共にひとりの美しい女が小屋に入ってきた。巳之吉は突然のことで、驚くも声を出すことも身動きもとれなかった。
女は茂作の顔に白い息を吹きかけ、茂作の体はどんどん凍りついていった。やがて女は巳之吉のところに近づきこう言った。「このことを誰かに話したらお前の命はない」そういって女は小屋から出ていった。巳之吉が我に返り、茂作の許へ行ったが茂作は息を引き取っていた。
この出来事から一年が経った、ある吹雪の夜に、ひとりの女が巳之吉の家に来て一晩の宿を求めた。女の名はお雪といった。巳之吉と女は自身の身の上話をするうちに、次第に打ち解けた。お雪がどこにも身寄りがない事を知った巳之吉は、お雪に嫁になってほしいと頼んだ。
時は流れ、ふたりの間には五人の子供が産まれたが不思議ことに、お雪は子供を産んでも初めて出会った頃と変わらない美しさを保っていた。
ある吹雪の夜。巳之吉は酒に酔って、茂作が亡くなった夜のことをお雪に話し「あの時の女とお前はそっくりだ」と言った時、お雪は悲しい眼差しで巳之吉を見つめた。お雪は「わたしがあの時の雪女です。今は子供たちがいるので命は助ける、がわたしとあなたとはもうお別れです」と言ってお雪は吹雪の中へ姿を消した。
巳之吉は外に出てお雪の名を何度も叫んだが、お雪は巳之吉と子供たちの前に二度と姿を現すことはなかった。