落下が予想される海域は、いずれも日本の排他的経済水域=EEZの外側にある黄海や太平洋の3つの海域で海上保安庁は航行警報を出して注意するよう呼びかけています。
22日未明 メールで海上保安庁に通報
海上保安庁によりますと、22日未明、北朝鮮の船舶の安全に関する業務を行う水路当局から海上保安庁の海洋情報部に対し、メールで、24日の午前0時から今月31日の午前0時までの間に、「人工衛星」を打ち上げると通報があったということです。
落下が予想されるのは、いずれも日本の排他的経済水域=EEZの外側にある
▽北朝鮮の南西側の黄海上の2か所と、
▽フィリピンの東側の太平洋上の1か所のあわせて3つの海域です。
海上保安庁は、この海域を対象に航行警報を出して船舶に対し落下物に注意するよう呼びかけています。
海上保安庁によりますと、IMO=国際海事機関が定めたガイドラインでは、航行の安全に影響を及ぼす軍事演習などを行う場合、加盟国に対し、あらかじめ通報する義務を課しているということです。
東アジア・西太平洋の海域では日本が調整国となっていて、海上保安庁が連絡を受け、船舶に航行警報を出すことになっています。
北朝鮮はことし5月29日にも今回と同じ3つの海域を対象に海上保安庁に通報を行っていて、2日後の5月31日に発射されましたが、途中で推力を失い、墜落したとみられています。
事前予告はこれまで5回 初日~3日目までに発射
北朝鮮が「人工衛星」の打ち上げを事前に予告したのはこれまでに5回あり、いずれも予告期間の初日から3日目までに事実上の弾道ミサイルや弾道ミサイル技術を用いたものを発射しています。
このうち
▽2009年4月と2012年4月は予告期間の2日目に、
▽2012年12月は3日目、
▽2016年2月と前回、ことし5月は初日にそれぞれ発射しています。
一般的なロケットの場合、強風や強い雨、雷などの悪天候が予想されると、打ち上げに悪影響を及ぼすおそれがあるため、北朝鮮は天候条件などを考慮しながら発射する日を決めるものとみられます。
打ち上げ成功の場合 約10分後に沖縄上空を通過か
北朝鮮による「人工衛星」の打ち上げが成功した場合、およそ10分後には沖縄県の上空を通過するとみられています。
北朝鮮が人工衛星の打ち上げと称して事実上の弾道ミサイルを発射した2012年12月と2016年2月のケースでは、発射からおよそ10分後に沖縄県の上空を通過したとみられていて、政府はJアラート=全国瞬時警報システムやエムネット=緊急情報ネットワークシステムで関連の情報を発信しました。
このときはいずれも日本の領域内への落下物はありませんでした。
北朝鮮は今回、打ち上げに伴って部品などが落下する可能性がある場所として北朝鮮の南西側の黄海上の2か所と、フィリピンの東側の太平洋上の1か所のあわせて3つの海域を示しています。
具体的には、北朝鮮の衛星発射場がある北西部のトンチャンリから南に
▽400キロから490キロの黄海上と、
▽630キロから720キロの黄海上、
▽それに2760キロから3180キロのフィリピン沖の太平洋上で、打ち上げが成功した場合、沖縄県の先島諸島付近の上空を通過するとみられています。
北朝鮮は、ことし5月に失敗した打ち上げでも今回と同じ海域を事前に示しています。
このとき政府は打ち上げの直後にJアラート=全国瞬時警報システムやエムネット=緊急情報ネットワークシステムで「北朝鮮からミサイルが沖縄県の方向に発射されたものとみられます」と発信したあと、「先ほどのミサイルは我が国には飛来しないものとみられます」と伝えました。
政府 関係省庁で協議へ
政府は、22日午前、関係省庁の担当者が集まり、これまでに入っている情報を集約するとともに、今後の対応を協議することにしています。
岸田首相 情報収集・分析など指示
北朝鮮から衛星を打ち上げるとの通報があったことを受けて、岸田総理大臣は
▽関係省庁間で協力し、情報の収集と分析に万全を期し、国民に対し、適切に情報提供を行うこと、
▽アメリカや韓国など関係諸国と連携し、北朝鮮が発射を行わないよう、強く中止を求めること、
▽不測の事態に備え、万全の態勢をとることを指示しました。
官邸対策室 情報の集約と分析進める
政府は、総理大臣官邸に設置している北朝鮮情勢に関する官邸対策室で、情報の集約と分析を進めています。
浜田防衛相「破壊措置命令」を維持
浜田防衛大臣は、北朝鮮がことし5月に軍事偵察衛星の打ち上げに失敗し、可及的速やかに2回目の打ち上げを行うとしていたことから、自衛隊に出していた日本の領域への落下に備えて迎撃できるようにするための「破壊措置命令」を維持しています。
自衛隊 迎撃ミサイル搭載のイージス艦が24時間態勢で備え
北朝鮮の「人工衛星」の打ち上げをめぐっては、日本の領域に万が一落下する事態に備え、自衛隊に「破壊措置命令」が出されていて迎撃ミサイルの部隊などが展開しています。
このうち日本の近海では、弾道ミサイルなどを追尾することができる高性能レーダーと、迎撃ミサイルを搭載したイージス艦が展開していて、24時間態勢で備えています。
また、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」が沖縄県の沖縄本島や石垣島、宮古島、与那国島、それに東京の防衛省の敷地内に展開しています。
自衛隊は、北朝鮮が「人工衛星」の打ち上げを事前に通告したことし5月や2016年2月などにも「PAC3」を展開させていますが、いずれも迎撃ミサイルは発射していません。
韓国軍 前回 残がいを回収
韓国軍は、ことし5月に北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したあと、朝鮮半島西側の黄海に落下した残がいを回収しました。
このなかには、衛星の主要部分も含まれていたとしていて、分析の結果、「偵察衛星として軍事的に利用できる性能は全くない」としていました。
一方で、北朝鮮は複数の軍事偵察衛星が必要だとの考えを示していて、韓国の専門家からは、北朝鮮が打ち上げを繰り返しながら、衛星の能力向上を図っていくとの見方も出ていました。
専門家「弾道ミサイルなど兵器の運用と密接に関係」
北朝鮮が軍事偵察衛星の保有を目指している理由について、日本や韓国の専門家からは、弾道ミサイルなどの兵器の運用と密接に関係しているとの指摘が出ています。
北朝鮮はアメリカ本土を狙うICBM=大陸間弾道ミサイルや韓国にある軍事施設などを狙う戦術核を搭載可能な短距離弾道ミサイルなどの開発を進めています。
さらに偵察衛星によって、リアルタイムでアメリカ軍の空母打撃群などの動きを把握し、弾道ミサイルで攻撃できる能力を持つことで、有事の際、アメリカ軍が朝鮮半島に戦力を投入することをためらわせようという狙いがあるのではないかとしています。
一方で、地上の撮影や交信、管制システムなどの面で、北朝鮮の宇宙開発技術は初期段階であるほか、北朝鮮が、複数の偵察衛星が必要だとしていることから、専門家らは、今後も打ち上げを繰り返すだろうとの見方を示しています。
北朝鮮 「人工衛星」打ち上げのねらい
北朝鮮は、おととし1月に打ち出した「国防5か年計画」で軍事偵察衛星の開発を掲げ、ことし5月に北西部トンチャンリ(東倉里)にある「ソヘ(西海)衛星発射場」で初めて打ち上げを試みました。
前回は、打ち上げの2日前に日本の海上保安庁に5月31日から6月11日までの予告期間を通報した上で、朝鮮労働党の幹部は「6月に入ってまもなく打ち上げる」としていました。
しかし、実際の打ち上げは6月ではなく、予告期間の初日にあたる5月31日に行われましたが、朝鮮半島西側の黄海に落下し、初めての打ち上げは失敗に終わりました。
北朝鮮はおよそ2時間半後に、国営メディアを通じて打ち上げの失敗を公表し、軍事偵察衛星「マルリギョン(万里鏡)1号」を新型の衛星運搬ロケット「チョルリマ(千里馬)1型」で打ち上げたものの、新たに導入された2段目のエンジンの異常で推力を失い、黄海に墜落したと明らかにしました。
そのうえで2回目の打ち上げについて「重大な欠陥」を解明し、さまざまな試験などを経た上で可及的速やかに行うと強調しました。
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、軍事偵察衛星のねらいについて、日本や韓国、それに太平洋でのアメリカ軍の行動をリアルタイムで把握するためだとした上で、多くの偵察衛星を軌道に乗せる考えを強調しています。
北朝鮮としては、今月18日に首脳会談を行った日米韓3か国の連携や、21日から始まったアメリカ軍と韓国軍の定例の合同軍事演習を強くけん制するねらいがあるとみられます。
また、国内では、キム総書記が「大きな勝利と成果で輝かすべきだ」と指摘する建国75年を9月9日に控えています。
韓国の情報機関は今月17日に建国75年のムードを盛り上げるため、今月下旬から来月初めにかけて打ち上げる可能性があると指摘していて、国威発揚を図る思惑があるとみられます。
前回 打ち上げ失敗の原因は
北朝鮮はことし5月に打ち上げの失敗を発表した際、原因について、ロケットが1段目を分離した後、2段目のエンジンの異常で推力を失ったとしていました。
その上で「ロケットの新型エンジンシステムの信頼性と安定性が落ち、使用された燃料の特性が不安定であったことに事故の原因があると見ている」としています。
そして「衛星打ち上げで見つかった重大な欠陥を調査して対策を早急に講じる」として、可及的速やかに2回目の発射を行うとしていました。
一方で、韓国の情報機関は、北朝鮮が前回打ち上げに失敗した当日に韓国の国会で行った報告で、技術的に難しい飛行ルートで打ち上げたため、問題が発生した可能性があるとの見方を示していました。
また、通常20日ほどかかる準備を数日に短縮した上、衛星発射場で行われている工事が完了していない状態で、打ち上げを急いだことも、失敗の一因の可能性があると指摘していました。