濁流だくりゅうに流ながされフェンスにつかまり見みた地獄じごく 早はやく避難ひなんしていれば

那智勝浦なちかつうら町まちの久保くぼ榮子えいこさん（78）は避難ひなんをしなかった、あの日ひのことを今いまでも後悔こうかいしています。

10年ねん前まえの9月つき4日にちの午前ごぜん2時じごろ、台風たいふうの影響えいきょうによる大雨おおあめが降り続ふりつづいていた那智勝浦なちかつうら町まちでは、久保くぼさんが住すんでいた地区ちくに避難ひなん指示しじが出だされました。

家いえの近ちかくには那智なち川がわが流ながれていましたが、久保くぼさんは避難ひなんしませんでした。

ふだんはのぞき込のぞきこまないと水みずの流ながれが見みえないくらい穏おだやかな川かわだったためです。

避難ひなん指示しじが出でてから1時間じかんもたたないうちに、同居どうきょしていた娘むすめの靖子やすこさんが叫さけびました。

家いえの中なかに水みずが押し寄おしよせ、あっという間あっというまに胸むねの高たかさまでつかりました。

久保くぼさんと夫おっとの二郎じろうさん、娘むすめの靖子やすこさんの3人にんはなんとか窓まどから外そとに出でました。

しかし、外そとは水みずであふれ、足あしが地面じめんに付つかない状態じょうたいでした。

久保くぼさんたちは濁流だくりゅうに流ながされないよう、家いえの雨あめどいにぶら下ぶらさがるのがやっとでした。

しかし、ほどなくして、久保くぼさんは流ながされてしまいます。

呼吸こきゅうもほとんどできないまま100メートルほど流ながされました。

もがきながら手てを伸のばすと、歩道ほどう沿ぞいのフェンスをつかむことができました。

フェンスにつかまってようやく見みた光景こうけいは今いまでも忘わすれられないといいます。

久保くぼ榮子えいこさん

「那智川なちがわも川かわ沿ぞいの県道けんどうも同おなじ水みずの高たかさになっていて、車くるまが何なん台だいもものすごいスピードで流ながされていった。地獄じごくのような光景こうけいだった」

その後そのご、再会さいかいした娘むすめから夫おっとの二郎じろうさんも流ながされたと聞ききました。

二郎じろうさんは遺体いたいで見みつかりました。

久保くぼ榮子えいこさん

「突然とつぜん亡なくなったので実感じっかんがわかなかった。何なん日にち待まっても何なん年ねん待まっても帰かえってこないのは本当ほんとうにつらかった」

早はやく避難ひなんしていればこんなことにならなかった。

久保くぼさんは今いまもあのとき逃にげなかったことを後悔こうかいしています。

しかし、紀伊きい半島はんとう豪雨ごううでは「雨あめの数値すうちだけを聞きいてもどれくらい危険きけんな状態じょうたいか分わからなかった」という意見いけんが相次あいつぎました。そのため多おおくの人ひとが避難ひなんに結むすびつけられず、被害ひがいの拡大かくだいにつながったと指摘してきされました。

このため、気象庁きしょうちょうが紀伊きい半島はんとう豪雨ごううの2年ねん後ごの平成へいせい25年ねんに導入どうにゅうしたのが、「特別とくべつ警報けいほう」です。

強つよい危機きき感かんをわかりやすく伝つたえ、身みを守まもってもらうために、「大雨おおあめ」や「大雪おおゆき」、「暴風ぼうふう」、「暴風ぼうふう雪ゆき」、「波浪はろう」、それに「高潮こうちょう」について、発表はっぴょうすることになりました。

被災ひさいから3年ねん後ご、みずからの被災ひさい体験たいけんを描えがいた紙芝居かみしばいを作つくり、活動かつどうを始はじめたのです。