文化祭ではクラスで京都タワーの模型を作ったのですが、彼は手先が器用で、設計図を取り寄せて縮尺を測りながら本格的な作品を作っていたのをよく覚えています」と当時を振り返りました。
当時、辻さんは周囲のほとんどが大学進学を希望する中、大学には行かずに映画のメークの世界に進む決意を固めていて、業界で有名なアメリカのディック・スミスさんに手紙を書くため、英語教師だった三條場さんに相談したということです。
その時のことについて、三條場さんは「手紙を書くから英語を教えてくれというので、最初は私が翻訳して作品の写真と一緒に送りました。返事は来ないと思っていたら、『すばらしい才能を持っているので卒業したらぜひうちに来なさい』と返信がきて、びっくりしました」と話していました。
そのうえで「高校時代から自分の興味あることに対して集中してやり遂げる子でした。今度会えたらすごいことをやったな、おめでとうと伝えたいです」と話していました。
交流のアーティスト「誰よりも先を歩いている人」
アカデミー賞を受賞した辻一弘さんについて、10年以上にわたって交流がある特殊メークアーティストのJIROさん(42)は、「表現する技術や用いる道具、素材について常に研究していて、誰よりも先を歩いている人だ」と評価しています。
JIROさんは、年に数回、ロサンゼルスを訪れて辻さんから直接技術を学んでいるほか、自身が代表を務める東京・千代田区の専門学校に辻さんを招待して特別講義をしてもらっているということです。
JIROさんは辻さんの特殊メークについて、「これ以上、人の顔をリアルに表現することはできないだろうと思うが、それを超えるリアリティーを毎回生み出している。常に研究を重ねてあのような表現に至っているのだと思う」と指摘しています。
中でも、特殊メークの鍵となる肌の質感を出すための素材の調合や塗装方法は辻さんが最もすぐれているとして、「辻さん以外の人から学んだり自分たちで研究したりして日々技術を向上させているが、結局、辻さんのやり方がいちばんいいとなってしまう。その技術を習得しても、次に会ったときには新しい表現を生み出し、さらに先に行っている」と技術の高さと絶え間ない進歩について高く評価しています。
そのうえで、「今回の映画でも特殊メークだとは感じず、キャラクターそのものが出演しているという感じだった。本当にすばらしいと思いました」と受賞をたたえていました。