昔から山口県熊毛地方八代の里は、多くの鶴たちがやってきます。村の人たちは鶴を大事にし、鶴も人によくなつき、このあたりには鶴と人にまつわる話がたいそう多くあります。その話の一つ。
ある年の秋、子供を連れた一羽の鶴が飛んで来ました。小鶴は旅の疲れと病気で弱っていました。親鳥はおいしそうな柿を見つけ、小鶴に食べさせようと思いました。鶴は柿の木に止まれませんので、下に降りてうらめしそうに柿を見ていると、カラスが飛んで来て柿を食べはじめました。鶴はカラスに柿を取ってと頼みますが、意地悪をするばかりで固い実をぶつけられました。
その様子を見ていた一人の女の子が、畑のおっとうを呼んで、カラスを追い、鶴に柿を取ってあげました。鶴は何度もお礼をいって小鶴の元へ飛び去っていきました。
その後ある寒い朝、あのお百姓さんの家では干し柿を食べた女の子が柿の種を喉に詰まらせ苦しんでいました。戸口を叩く音であけてみると、あのときの鶴がいて「今度は私が恩返しをする番です」と言いました。
鶴は家の中に入り、女の子の枕もとに立つと、長いくちばしでのどにつかえた柿の種を上手に取り出しました。お百姓さんは何度もお礼を言いました。そして別れ際、何の気はなしに「八代の柿は上手いんじゃが、種が多くていかん」と言いました。鶴は聞くともなく聞いていましたがやがてとびさっていきました。
それからだそうです。八代の柿は干し柿にすると種が消えるそうです。村の人たちは鶴の恩返しと考え、干し柿ではなく鶴柿と呼ぶようになったそうです。