基準となる数値は現在、暫定的な目標値としている1リットルあたり50ナノグラムとし、2026年4月から施行される見通しです。
有機フッ素化合物の「PFAS」のうち「PFOS」と「PFOA」の2つの物質は有害性が指摘されていて、国は4年前(2020年)、2つの物質の合計値を水道水1リットルあたり50ナノグラムとする「暫定目標値」を設定しましたが検査などの法的な義務づけはありません。
環境省はPFASの2つの物質について全国各地の水道水の検査で一定の濃度を超える値が検出されたことを受けて、24日開かれた専門家会議で水道法上の「水質基準」に引き上げる方針を示し、了承されました。
「水質基準」に引き上げられると自治体や水道事業者に定期的な水質検査の実施やPFASの濃度が基準を超えた場合の改善が法律で義務づけられることになります。
一方、基準値については国が「健康に悪影響が生じないと考えられる水準」としている現在の「暫定目標値」と同じ1リットルあたり50ナノグラムとしました。
また、水道事業者が対応するための時間が必要だなどとして施行については2026年4月からとなる見通しです。
PFASとは
人工的に作られた有機フッ素化合物の「PFAS」は1万種類以上存在するとされ、このうち、「PFOS」と「PFOA」は水や油をはじく特性などからかつては泡消火剤や精密機器の製造のほか、フライパンのコーティングやはっ水スプレーなど幅広い用途に使われていました。
しかし、発がん性が報告されるなど有害性があるとして、国内では2021年までに輸入や製造が禁止され、2023年には事故などで外部に流出した際の自治体への届け出が義務づけられました。
環境省は、PFASを含む泡消火剤を使用している消防機関や空港、それに自衛隊基地などを対象に在庫量の調査を行っていて、2024年度の調査では「PFOS」と「PFOA」を含む「泡消火剤」は全国であわせて209万リットルが確認されたということです。
環境省では廃棄処分やPFASを含まない泡消火剤への交換を進めたいとしています。
「PFOS」と「PFOA」について河川や地下水などから暫定的な目標値を超えて検出されたケースでは排出源はほとんど分かっていません。
自然環境ではほとんど分解されないため、環境省は過去に物質が含まれた古い「泡消火剤」が使われた場所や、物質を取り扱っていた工場の周辺などで、PFASが土壌に残り、地下水として流れ出している可能性があるとしています。
「専用水道」44か所で目標値超え
一部の物質が有害とされる有機フッ素化合物のPFASについて、全国の「専用水道」の調査を国が初めて行ったところ、44か所で暫定的な目標値を超える値が検出されたことが分かりました。
このうち福岡県の自衛隊基地からは、目標値の30倍など自衛隊の施設で高い値の検出が相次ぎました。
「専用水道」とは
「専用水道」は自治体などが運営し一般に水道水を供給する「上水道」などとは異なり、大学や病院、社宅や集合住宅などの管理者がその施設内で自家用として使うために設置した水道です。
中には自衛隊基地や刑務所など国の施設で使われているものもあります。
「専用水道」の多くは井戸水を水源としています。環境省によりますと、給水人口にすると0.3%が「専用水道」を使っているということです。
「専用水道」は「上水道」などより規模は小さいものの、「上水道」と同じように定期的な水質検査や水質管理が義務づけられています。
「専用水道」の調査結果
有機フッ素化合物の「PFAS」のうち有害性が指摘されている「PFOS」と「PFOA」の2つの物質について、国は「健康に悪影響が生じないと考えられる水準」として水道水1リットルあたり合計で50ナノグラムとする「暫定目標値」を設定しています。
国は11月に「上水道」と「簡易水道」の調査結果を公表していますが、それ以外の、一部の大学や集合住宅などのほか、自衛隊基地や刑務所などの国の施設で使われている「専用水道」について初めて行った調査結果を、24日開かれた環境省の専門家会議で公表しました。
それによりますと、2020年からことし9月までの4年間に検査が行われた1929か所のうち42か所で国の「暫定目標値」を超える値が検出されたほか、その後追加で国の施設の専用水道2か所で目標値を超える値が検出されたという報告があったということです。
このうち、自衛隊関連施設の専用水道では
▽福岡県の航空自衛隊芦屋基地で目標値の30倍にあたる1リットルあたり1500ナノグラムという極めて高い値が検出されたほか
▽東京都の陸上自衛隊東立川駐屯地で目標値の7倍にあたる343ナノグラムなど、あわせて5か所で目標値を上回りました。
目標値を超えた44か所は多くはすでに水源を上水道に切り替えたり活性炭を設置したりしたほか、飲用制限などの応急的な措置がとられたということです。
環境省は過去に使われたPFASを含む「泡消火剤」が土壌に残り、地下水として流れ出している可能性があるとしています。
PFASの検査については現在は法律での義務づけがないことから、今回、検査が行われた「専用水道」は全体の23%にとどまっています。
11月公表の「上水道」と「簡易水道」では
国は全国の水道水の検出状況を把握するため、自治体や水道事業者に対し、2024年度までの5年間のPFASの水質検査の実施の有無や、検出された場合の最大値などについて報告を求め、11月29日に初めて公表しました。
14か所で目標値超も現在は目標値下回る
それによりますと、上水道と規模の小さな簡易水道などを運営する自治体や水道事業者3755か所のうち、2022年度には岡山県吉備中央町で暫定目標値の28倍にあたる1リットルあたり1400ナノグラム、2021年度には岐阜県各務原市で11倍にあたる550ナノグラムなど、2023年度までの4年間に14か所で目標値を超える値が検出されました。
いずれもその後、水源を切り替えるなどの対応がとられ、現在は目標値を下回っているということです。
そして2024年度、検査が行われた1745か所ではすべて目標値を下回りました。
環境省はこれまでの検査で給水人口に換算すると全体の95%で目標値を下回っているとしています。
一方、2024年度も一定程度、PFASが検出されたところがあり、例えば目標値の半分にあたる25ナノグラムを超えたところは30か所に上っています。
また、排出源についてはほとんどわかっていません。さらに、簡易水道を中心に全体の4割にあたる1528か所で検査を行っていなかったり回答がなかったりしていて、検査の徹底が課題となっています。
目標値超過の熊本県内の大学では
今回の「専用水道」の調査で国の「暫定目標値」を超える値のPFASが検出された熊本県内の大学のキャンパスでは今後、町が運営する「上水道」に切り替えることになりました。
ただ、切り替えには新たに工事が必要になり、多額の費用がかかるといいます。
熊本県益城町にある東海大学農学部のキャンパスでは、ことし7月に行った検査で、施設内で使っていた「専用水道」の井戸の水から国の暫定目標値の1リットルあたり50ナノグラムを超える82ナノグラムが検出されました。
このキャンパスでは、学生向けの食堂や実習で食品加工を行う施設では町が運営する「上水道」の水を使っていますが、水を大量に使う実習用の農場や畜舎を中心にトイレや共有スペースの水道にはキャンパス内の井戸からくみ上げる「専用水道」の水を使っています。
水源の井戸で暫定目標値を上回る値が検出されたことを受けて、大学では「専用水道」で供給しているキャンパス内の水道に「飲用禁止」の張り紙を行い、新たにウォーターサーバーの数を増やすなどの対応をとったということです。
また、2024年8月から9月にかけて県が調査を行ったところ、7月に暫定目標値を超えていたキャンパス内の井戸では15ナノグラムに下がり、その周辺の半径およそ1キロ内にある大学の敷地外の井戸からも目標値を超える値は検出されませんでした。
その一方で、一時的に目標値を超えた原因は特定できなかったということです。
大学では、県の調査結果などを踏まえて今後の対応を検討し、これまで「専用水道」で供給していた施設も含めキャンパス内で使用する水はすべて町の「上水道」に切り替えることを決めました。
ただ、町の水道管とつなぐ工事が新たに必要になり多額の費用がかかるということです。
このキャンパスは熊本地震で被災して、南阿蘇村から益城町に移転し、専用水道は去年4月から使い始めたばかりでした。
井戸を設置する際、水質について検査を行いましたがPFASは検査が義務の項目に含まれていなかったためこれまで検査を行っていなかったということです。
東海大学の木之内 均熊本キャンパス長は「大学としては最大限、不安やリスクを回避しようと対応しました。2回目の検査では目標値を下回りましたが、またいつ数値が上がるかは予測できず、それならば思い切って上水道に切り替えようという判断を行いました。ただ、工事にかかる費用を考えると経営規模の小さいところでは対応できないのではないかと感じました。PFASが検出された原因の物質が自分たちのところにあるわけでもないので、費用を補助する制度があれば助かります」と話していました。