森友学園に関する財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(当時54)の妻の雅子さんが国に関連文書の開示を求めた裁判では不開示とした国の決定を取り消した判決が確定しました。
財務省は検察に提出した17万ページ以上の文書と電子データを段階的に開示する方針で、初回の4日、雅子さんが弁護団とともに財務省を訪れ、開示された文書を受け取りました。
4日、開示されたのは、2013年6月に森友学園が大阪・豊中市の国有地の取得を要望してから、地中から新たなごみが見つかったとして、2016年6月に8億円余り値引きされて売却されるまでの間の学園側との交渉記録など、2000ページを超える文書です。
財務省によりますと、学園側との交渉記録の一部は、2018年に国会に提出していますが、開示された文書には、これまで公表されていない近畿財務局と財務省本省との間でやりとりしたメールなども含まれているということで、新たな事実が明らかになるかが焦点です。
赤木雅子さん “真実が明らかになれば”
文書が開示されたことを受けて赤木雅子さんは「文書開示のきょうの日を無事迎えることができてホッとしています。裁判を粘り強く戦ったことがきょうにつながったと思います。文書がたくさんあるので内容はまだ確認できていませんが、夫が改ざんを強制されるきっかけとなった森友学園の土地の売払の真実が明らかになればと願っています」とするコメントを出しました。
また赤木雅子さんの弁護団が報道各社の取材に応じ、生越照幸弁護士は「最初に請求してから時間がかかりましたが、大阪高裁で勝ったあとはスムーズに進んだと思います。今回、受け取った文書にはこれまで公開されていないものも含まれているようですが、内容は見てみないとわかりません」と述べました。
そのうえで、受け取った時の雅子さんの様子について「すごく喜んでいました。『受け取った文書を夫のカバンに入れてあげたい、重さを感じさせてあげたい』と言って俊夫さんが使っていたカバンにしまっていました」と話していました。
森友学園問題とは
森友学園をめぐる問題が発覚したのは8年前の2017年2月。
小学校の建設用地として学園に売却された大阪・豊中市の国有地が8億円余りも値引きされていたことが明るみになりました。
土地の鑑定価格は9億5600万円でしたが、財務省近畿財務局は新たに見つかったごみの撤去費用などとしておよそ8億2000万円を値引きし、2016年6月、1億3400万円で学園側に売却していました。
小学校の名誉校長が当時、総理大臣だった安倍氏の妻・昭恵氏だったことなどから、野党は、政治が関与した不当な値引きではないかと追及しました。
一方、安倍氏は、「国有地の払い下げに私や妻が関係していれば総理大臣も国会議員も辞める」などと関与を強く否定し、国会で激しい論戦となりました。
財務省側は「値引き額は適正に算定された」と繰り返し説明しましたが、学園側と事前に価格交渉が行われていたことが明らかになるなど売却価格の妥当性が問われるさまざまな疑惑が指摘されました。
会計検査院は2017年11月、値引き額の算定方法について「十分な根拠を確認できない。資料が保存されていないため十分な検証が行えない状況となっていた」などとする検査結果を国会に提出しました。
改ざん発覚 赤木俊夫さんが自殺
財務省をめぐっては2018年3月、学園との国有地の取り引きに関する決裁文書を改ざんしていたことが明らかになりました。
改ざんは14の文書で行われ、昭恵氏や政治家の名前が記された部分や、学園側との事前の価格交渉をうかがわせる記述などを削除していました。
改ざん発覚の5日後、近畿財務局の職員の赤木俊夫さん(当時54)は、改ざんに関与させられたことを苦にみずから命を絶ちました。
さらに、財務省側が国有地の取り引きをめぐる学園との交渉記録を意図的に廃棄していたことも明らかになりました。
2018年6月、財務省は調査報告書を発表し、佐川宣寿元理財局長が決裁文書の改ざんや記録の廃棄の方向性を決定づけたと認定しました。
地検が告発受理も不起訴に 前理事長夫妻は実刑
一方、大阪地検特捜部は財務省などの担当者が土地を安く売って国に損害を与えたとする背任容疑や決裁文書を改ざんした虚偽公文書作成などの疑いでの告発も受理し捜査を進めましたが、刑事責任を問うのは難しいと判断し全員を不起訴にしました。
学園側の不正も次々に明らかになりました。
森友学園の籠池泰典前理事長夫妻は小学校の建設工事や幼稚園の運営をめぐり、国や大阪府、それに大阪市の補助金、あわせて1億7000万円余りをだまし取ったとして詐欺などの罪に問われ、おととし実刑判決が確定しました。
文書開示までの経緯
財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した近畿財務局の赤木俊夫さんが経緯をまとめて職場に残したいわゆる「赤木ファイル」は、2021年6月、一部を黒塗りにされたうえで開示されました。
ファイルには、財務省職員が改ざんを指示するメールなどが含まれていましたが、改ざんの理由などを具体的に示す内容はありませんでした。
雅子さんは改ざんの経緯を明らかにするため、一連の捜査の過程で財務省が検察に任意で提出した文書の開示を求めて情報公開請求をしましたが、財務省は文書の存否も明らかにせず、不開示とする決定をしました。
このため、雅子さんは2021年10月、国に対して決定の取り消しを求める訴えを起こしました。
開示を求めた裁判 1審は訴えを退ける
1審の大阪地方裁判所はおととし(2023年)9月「文書が存在するかどうかを明らかにした場合、捜査の内容などが推定され、将来の刑事事件の捜査に支障が及ぶおそれがある」として訴えを退けたため、雅子さん側が控訴しました。
2審は決定を取り消し 財務相が開示の方針を表明
2審の大阪高等裁判所はことし1月「捜査に支障を及ぼすおそれがあるとは認められない」と指摘し、国が文書の存否も明らかにせず不開示とした決定は違法だとして、取り消す判決を言い渡しました。
国は上告せずに判決が確定し、加藤財務大臣は先月(3月)4日、検察に提出した関連文書の開示を1か月後をめどに段階的に始め、主要な文書は1年以内に開示する方針を明らかにしました。
開示の対象は17万ページ以上
財務省によりますと対象となるのは17万ページ以上の文書と電子データで、初回の分として4日、学園側との土地取引に関する経緯を記した2000ページを超える文書が開示されました。
今後「赤木ファイル」のほかに赤木さん本人が取りまとめていたとみられる文書を6月上旬をめどに開示し、財務省職員の手元のメモなどその他の文書も定期的に開示するとしています。
開示に際しては最低限のマスキングをし、検察とのやりとりを示す文書や、検察からの依頼でとりまとめた文書は開示しないということです。
文書開示 論点は?
8億円あまりの巨額の値引きは妥当だったのか。これまで国会などで指摘された論点をまとめました。
【論点 1】昭恵氏の影響の有無は?
まず、当時の安倍総理大臣や妻の昭恵氏の存在が国有地の取り引きに影響していなかったかどうかです。
改ざん前の財務省の決裁文書によりますと森友学園側は当初、小学校の経営が安定するまでの間は国有地の貸し付けを受け、その後、購入することを要望していました。
2014年4月15日には小学校開校に向けて急ぐ必要があるとして財務省近畿財務局に国有地を貸し付けてほしいと要請しますが、財務局側は小学校の設置について大阪府の私学審議会の答申を得る前の契約はできないと断ります。
その13日後の4月28日、決裁文書には、打ち合わせの際の学園側の発言として「安倍総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから前に進めてください。』とのお言葉をいただいた」と記され、籠池前理事長が昭恵氏とともに写った写真を提示したと書かれています。
学園側の発言から1か月後の6月2日、財務局側は貸し付けに協力すると学園側に回答していました。
貸し付けの期間は原則3年とされていますが、2015年5月29日、財務局は特例として学園側が国有地を10年以内に買い取る条件で土地の賃貸契約を結んでいて、昭恵氏の存在が国有地の取り引きに影響しなかったかどうかが議論になりました。
【論点 2】貸付料の減額の経緯は?
これまでに財務省が公表した交渉記録には、学園の籠池前理事長夫婦が、昭恵氏や政治家の名前をたびたび出して近畿財務局の担当者に国有地の貸付料の減額を求めていたことが記載されています。
2015年1月9日に財務局の担当者が学園の幼稚園に赴いた際の記録には、想定している国有地の貸付料について「3000万円台半ば」と概算額を提示したと記されていましたが、2015年5月29日に賃貸契約を結んだ際の貸付料は2730万円となっていました。
ただ、これまでに公表された記録には昭恵氏や政治家の名前が出たことによって財務局が学園側の要求を受け入れたり譲歩したりしたような記述はなく、貸付料をめぐる詳しい経緯も論点になりました。
【論点 3】値引き額の根拠は?
そして最大の論点は、値引きの額がどのように決められたのかです。
財務局は大阪・豊中市のおよそ8800平方メートルの国有地について2016年6月、鑑定価格の9億5600万円からごみの撤去費用などとしておよそ8億2000万円を値引きし、1億3400万円で学園側に売却しました。
財務局に見積もりを依頼された大阪航空局は、くいを打つ場所は深さ9.9メートル、校舎などを建設する場所は学園側の試掘の結果を踏まえて深さ3.8メートルまでごみがあると推計し、ごみの撤去費用をおよそ8億2000万円と見積もったと説明していました。
しかしその後、売却価格の妥当性が問われるさまざまな疑惑が明らかになりました。
値引きの根拠となった地下3メートルより深い場所で新たに見つかったというごみが実際に存在したのかどうかをめぐって議論になったほか、財務省側が否定してきた学園側との事前の価格交渉が行われていたことも明らかになりました。
国有地売却の1か月前の音声記録では籠池前理事長が「ゼロ円に近い形で払い下げてほしい」などと要求し、財務局の担当者が「ゼロに近い金額までできるだけ努力する作業をやってます。だけど、1億3000万を下回る金額にはなりません」と発言していたことも明らかになっていました。
林官房長官 “1年以内に開示するよう取り組む”
林官房長官は4日午後の記者会見で「捜査機関に任意提出したものであることから、すべて不開示情報に該当すると考えられてきたが、石破総理大臣からの指示も踏まえ、検察とのやり取りを示す文書などを除き、最低限のマスキングなどを施した上で開示する。今後も財務省が方針に沿って、主要な文書を1年以内に開示するよう着実に作業に取り組んでいく」と述べました。
加藤財務相 “これまでの説明に沿った内容”
4日の閣議のあとの会見で加藤大臣は「国民に対する説明責任の観点から情報公開法に基づき公益上特に必要と判断し開示することにした。本日は最初の開示ということでお渡しするが、引き続き開示の手続きにのっとり作業をしっかり進めていきたい」と述べました。
また、今回、開示されるのは学園側との土地取引に関する経緯を記した文書ですが、加藤大臣は「土地取引の経緯は必要に応じ国会に対して説明してきた。今回開示する文書に含まれる内容はこれまでの説明に沿ったものだ。取引の経緯、価格の適正性については2回にわたって会計検査院の検査が行われ、法令違反や不適当事項として指摘はなく検察の捜査でも不起訴となっている」と述べました。